第1話 役に立たない技術職
※本作は「追放×生産職」をテーマにした物語です。
派手な戦闘無双ではなく、
数値では測れない技術と、それを正しく評価する人々を描いています。
静かな成り上がりを楽しんでいただければ幸いです。
冒険者ギルドの会議室は、いつもより空気が重かった。
長机を囲むのは、前線で名を売る戦闘職たちと、ギルドマスターのバルド。そして、部屋の隅に立たされている一人の青年――カイル・エルグ。
「結論から言う」
バルドが低い声で告げた。
「カイル、お前は本日をもって、このギルドから外れてもらう」
一瞬、誰かが息を呑む音がした。
だが、カイルは表情を変えなかった。ただ静かに、その言葉を受け止める。
「理由は分かっているな?」
「……はい」
短く答えると、戦闘職の一人が苛立ったように舌打ちした。
「分かってるなら話が早い。最近の装備、どうなってる? 前より壊れやすいし、更新も遅い。薬だって足りない」
「現場が回ってないんだよ!」
「生産職が足を引っ張ってどうする!」
次々と飛んでくる非難。
カイルはそれを遮らず、黙って聞いていた。
副長のセインが、机に置いた書類を叩く。
「数字を見ろ。ここ半年、装備更新率は低下、錬金薬の供給数も横ばい。コストだけは増えている」
「素材を無駄にしてる、って話だな」
「そういうことだ」
セインは冷たく言い切った。
「研究だの試作だのと言って、成果を出していない。ギルドは慈善事業じゃない」
カイルはようやく口を開いた。
「……試作は、すべて次の工程に繋がっています。今すぐ形にならなくても——」
「今すぐ必要なんだよ!」
戦闘職の男が机を叩く。
「俺たちは明日も命懸けで潜る。理屈より、使える装備を寄こせ!」
正論だった。
少なくとも、この場では。
バルドが手を上げ、場を制する。
「カイル。お前の理論や姿勢を否定するつもりはない」
――嘘だな、とカイルは思った。
「だが、このギルドの方針とは合わなかった。それだけの話だ」
淡々と、まるで天候の話でもするように。
「明日までに工房を明け渡せ。私物だけは持っていっていい」
「……研究ノートは?」
問いかけると、セインが即座に答えた。
「ギルド資産だ。置いていけ」
一瞬、胸の奥が軋んだ。
半年分の記録。失敗も成功も、すべて詰まったノート。
だが、カイルは首を縦に振った。
「分かりました」
それ以上、何も言わなかった。
騒然とする会議室を背に、彼は静かに扉を閉める。
――結局、証明できなかった。
頭の中で、そう結論づける。
自分のやり方が間違っていなかったとしても、価値を伝えられなかったのは事実だ。
工房に戻ると、見慣れた道具たちが並んでいた。
何度も手入れし、癖を把握した相棒。
「……悪いな」
誰にともなく呟き、必要最低限だけを袋に詰める。
壁に掛けられた武器を見て、ふと思い出す。
これを使った冒険者は、確かに言っていた。
『使いやすい』
だが、それは数字にならない。
評価表にも、報告書にも載らない。
袋を背負い、工房を出る。
鍵を閉めることはなかった。もう、自分の場所ではない。
外に出ると、夕暮れの空が広がっていた。
「……仕方ない」
そう呟いて歩き出す。
「証明できなかった俺が、悪い」
その言葉は、誰に聞かせるでもなく、石畳に吸い込まれていった。
この時のカイルは、まだ知らない。
自分が去った後、このギルドが何を失ったのかを。
そして――
自分の技術が、本当に必要とされる場所が、すぐそこまで来ていることを。
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