表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【5/2コミカライズ一巻発売】【完結保証】およそ100年幽閉されていた魔術師夫婦は世界を巡る  作者: 吉野茉莉
第三話 名誉ある死

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/41

第三話 名誉ある死 ⑩

「いいんだな?」


 翌朝、チェンミィと一緒に私たちは転送門の前に立っていた。ケーリュの街で見たよりかなり大型のアーチ状の門だった。これなら馬くらいなら通れるだろうか。地面に石が円形に埋め込まれている。起動式だ。


「今はここにいないみたいだが、向こう側は絶対に監視されているぞ」


 私が頷く。


「あなたが話し合いを望んでいるということを伝えてもいいですか?」


「信じるとは思わないが、それで話し合いが進むならかまわない」


 チェンミィが杖でアーチを叩く。


「『透明な混濁』

 『屹立する海』

 『水平な山脈』

 『逆転する砂時計』

 『到達する永遠』

 『融合する魂』

 『重複する世界』

 『割れることのない罅ひびを開けよ』」


 アーチの中の空間が渦のようになって歪んでいく。


 私は手を取り合い、そこに入り込んでいく。


 胸の中がぐるぐるする気持ちだ。


 二回目でも慣れる感じがしない。


 目を開けると、そこは別の場所だった。遠くに見えた街が目の前にある。といっても、街の形状はほとんど同じだからそれはそれで不思議な気持ちだった。


 すかさずアランと取り決めていたように、両手を上げる。


 大声でどこかにいる誰かに叫ぶ。


「私たちは旅人です! 敵意はありません!」


 私の声がすっかり消えてしまって、壁の上から声がした。


「魔術師だな! 手を上げたままにしていろ!」


 少し待って、街の入り口から二人の男がやってきた。二人とも銃を構えている。


 左にいたアランが小声で呟く。


「右にいる方が魔術師だ」


 言われてあらためて二人を見るが私には区別がつかない。まだ見る目がない、ということだろう。


「杖を持たずに銃を持つとはね」


 アランが魔術師だと言った方が距離を取りつつ大きな声で言う。


「目的は?」


「二つあります。まず、私たちは旅の途中で立ち寄っただけでどちらの街にも長く滞在するつもりはありません。次に、今来た街から、伝言を預かっています、それを伝えに来ました」


「伝言だって?」


 実際は私の発案だから伝言というわけではないが、ここで出しゃばっても仕方がない。


「はい」


「なんだ?」


 危険ではないと判断したのか、男が一歩こちらに歩み寄る。銃は下げない。


「話し合いのテーブルに着く用意がある」


「なんだって?」


「交渉をしたい」


 言い方を変える。


 魔術師は横にいた男と顔を合わせた。


「どういう意味だ?」


「そのままです。武器を持たず、話し合いで解決したいとのことです」


「今さら?」


「今なら、です」


「どうしてお前達がそれを伝えるんだ?」


「昨日街の結界を解いたのは私たちです。これは私たちの責任です。それを機会にあなたたちはあちらの街の魔術師を攻撃しました。私たちは争いを望んでいません。魔術師なら話し合いで解決すべきです」


 また魔術師は男と顔を合わせ、私を見た。その視線に侮蔑的なものが入っているのを感じる。


「その服は、国家魔術師だな。わざわざこんなところまで調停しに来たのか?」


 アランは首を振る。


「国の命令ではない。魔術師としての助言だ」


「助言! こいつは笑わせてくれる。誘うためにわざと結界を解いたと思っていたぜ。死んじゃいないがこっちも二人やられた。痛み分けだろ」


「どうしてもダメですか?」


「あっちが言い出したわけでもなさそうだな」


 すぐに見抜かれてしまった。


「大方向こうの言い分が信じたんだろうが、そういう問題じゃねえぞ」


「問題? 物資の輸送の話ではないのですか?」


 魔術師が笑う。


「ないとは言わんが、そもそも向こうに運ぶ量なんて微々たるものだ。上乗せしたってこっちの取り分はそんなに多くない」


「それでも、大事な問題です。両者で合意できる範囲で収めるべきだと思います」


「それしか言っていなかったのか?」


「ええ、違うのですか?」


 魔術師は肩をすくめた。


「元々は水源の問題だ。転送門ができる前からのな」


「水源?」


「ああ、あっちに山があるだろう」


 銃で指す方を見る。私たちが来た山だ。


「あの山にある川から流れてくる水は、そっちの街が管理する地域を経由してこっちまで来ている。その水源を利用するのに、そっちは足元を見て莫大な利用料をふっかけてきたのさ」


 チェンミィはそんなことはまったく言っていなかった。


「もちろん、こっちはお前の言う『合意できる範囲』なら払ってもいいと言った。それだっておかしいだろ、ただ川が流れてくるだけだ、誰の物でもない。それをそっちは釣り上げた。水を取り上げられたらこっちは命の問題になる。だから武器を取らざるを得なかった。今でも堰き止められている。俺たちは遠くから金をかけて水を運んでいるってわけだ。荷物に上乗せしているなんてそれに比べれば可愛いもんだろ」


「それは本当ですか?」


「疑うなら戻って聞いてみればいい。本当のことを言うかどうかはわからんがな」


 魔術師が笑う。


「どうやら話がかみ合っていないようだ」


 アランが言った。


「それなら、なおさら話し合いをした方がいいと思います。互いに武器を持つよりもまず、問題点を整理すべきです」


「度胸があるのかただの間抜けなのかわからんが、お前が言うように、一度話し合いをした方がよさそうだな。『魔術師』同士な」


 私が胸をなで下ろす。


 アランは何も言わない。


「戻って確認します」


「ああ、そうしな。交渉をしたいなら昼過ぎに空に空砲を撃ってくれ。一度なら交渉、二度なら決裂だ、転送門を使わずお互いの中間地点で会おう。お前達が証人だ。三人で来てくれ」


「ありがとうございます」


 私はお辞儀をする。


 最後まで魔術師は銃を下ろそうとしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ