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第33号 朝日七花のはじまり


ステップ40 トータルベースボール





過去に、サッカーのオランダ代表のヨハン クライフが、トータルフットボールという風を巻き起こし、ワールドカップを熱狂の渦に巻き込んだ。


当然、七花は知ることもない世界と話だが、後に、まこひとから聞くことになる。


それを聞いた時は、体に稲妻が走ったかのような感覚だった。


全員で攻撃、全員で守る。

ポジションにとらわれない。


話を聞いただけでも、それだとしたら、実際みていたらどうなっていたのだろうか‥。



そんな七花だからこそ、間多理団の監督をできたのかもしれない。




全ての選手が間多理団であり、間多理は全ての選手で成り立つ。





全員野球。




そんなの当たり前ではないのかと、思うだろう。


そうであれば、七花はここで監督をしていない。



七花は、個々の選手の良さを、潜在能力を引き出し、グラウンドに送る。


そこからは、選手たちの領域エリアだ。


指示は出せる。


出せるが、代わることはできない。

自分がプレイすることができない。



そこは、紛れもなく選手たちの領域であり、世界である。



その選手たちを、心からサポートしたいのが、七花だった。






朝日七花 31歳‥


自宅のベッドの上。

起きてはいるが、体はそのままで天井をみつめている。

右手には、時間を確認したあとのまま、握られたスマホが、捕まっているかのようにいる。


そのスマホが、助けを求めるかのように音を奏でる。


ゆっくりと右手を動かして画面を確認する。



佐々木瑠璃子と表示されている。


「瑠璃子さんか‥なんだろ」

電話にでて、すぐにスピーカーにする七花。


ベッドから動きたくないようだ。

そのまま話す七花。


「七花さん!真司が‥」

その言葉を聞いた途端、懐かしさが込み上げてくる。


瑠璃子には見えないが、笑顔になる七花。


「真司くんがどうしたのかな?」

瑠璃子の返答を楽しみにしながら、そう応える七花。


真司くんは中2、いや中3になるんだったかな、なんだろうな‥と、ワクワクしている七花。


「真司が野球を辞めるって言ってきたんです」

瑠璃子の声は真剣だ。

しかし、七花は驚かない。

「そうですか‥真司くん、進むべき道を見つけたんですね」

そう七花が言うと瑠璃子の声色がかわる。


「そうなんです!さすが七花さんです!わたし、辞めるって聞いた時は、本当に驚いたんですよ」

瑠璃子のその言葉を聞いて、ニコリとする七花。


「まあ、びっくりしますよね」

「びっくりなんてもんじゃありませんでしたよ」

瑠璃子の即答に、口元が緩む七花。


「真司くんは、基礎を大事に、コツコツやる子です。瑠璃子さん、心配ないですよ」

「七花さん‥」


たとえレギュラーになれなくても、試合に出れなくても、野球を辞めず、楽しんでいた子だ。


その彼が自ら選んだ道なら、応援するしかない。


「瑠璃子さん、真司くんはどんな道を選んだの?」

ここで、七花がなぜ野球を辞めたとか、諸々聞かないというところが、七花らしい。

瑠璃子も、そう感じていた。


それは、道を決めた者の過去を聞いても意味をなさないのもあるかもしれない。

また、進む者の足かせになるのも良くないとの思いもあるのかもしれない。



「真司は‥教える側になりたいっていってました」

「あ、もしかして‥」


「はい!七花さんみたいになりたいって言ってました!」

「あー、なんかごめんなさいね瑠璃子さん‥」


「なんで七花さんが謝るんですか?」

瑠璃子の声は真剣だ。


「真司は‥」




数日前ー



佐々木宅


「お母さん、大事な話があるんだ」

そう真司が話してきたのは、学校から帰ってきてすぐ、瑠璃子が夕飯の準備をしている時だった。


「今聞いてほしいのかな?」

瑠璃子の問いに頷く真司。

「わかったわ、じゃあ、そこに座って」

そう言われ、自分のいつも座るテーブル席にするりと移動する真司。


瑠璃子は火を止めてから、同じように座る。

真司の対面に。


「それで、大事な話ってなにかしら?」

瑠璃子の口調は優しくゆっくりだ。

(内心はものすごく驚いている)


「お母さん、僕、野球を辞めることにしました」

瑠璃子は、真司の言葉は、真っ直ぐで揺らいでないものだとわかった。


「そう決めたのね。いつ辞めるのかな」

瑠璃子は真司の真っ直ぐに、素直に打ち返す。

(驚いて振ってしまったら、ホームランになった感じだ)


「あ、うん。中3になったら辞めるつもりだよ」

「真司がそう決めたのならいいわ」

瑠璃子は、問い詰めも、説教もしない。

真司はなんだか、見事に打ち返された気分だった。


「中3になって、何れ引退するでしょ、だったら、2年まででいいかな?っと思ったのと‥」

「思ったのと?」瑠璃子を優しく聞き返す。


「‥先生‥あ、七花さんみたいになりたいという自分の思いというか、意志に気付いたというかさ‥」

真司は少し恥ずかしそうに話す。


瑠璃子は微笑む。

「真司、それは、とても大変な道よ?」

真司と目が合う。

どのくらいだろうか?お互い目を逸らさないでいた。


「ありがとう、お母さん。それでも、その道を行きたいし、教えたいんだよ」

真司の熱意が伝わってくる。


「真司、七花さんと違って、あなたには足りないものばかりよ?わかっているかな」

頷く真司。

そして口を開く。

「そうだとしても、わかっていてもその道に進みたいし、助けたいんだ」

真司のその言葉に瑠璃子は、一呼吸入れる。


「真司、助けるなんて高慢じゃない?」そういいながらニコリとする瑠璃子。

真司も、ハッとしたような顔したあと、下を向き恥ずかしそうに、すまなそうにしている。


「確かに、七花さんは多くの人を助けてきたかもしれない。でも、七花さんは助けたとは思ってないはずよ。七花さんにとっては、それは当たり前だし、自分がしなければいけないことだと思っているから‥それに、なにより与える喜びを真に理解してるからね」


真司は瑠璃子の言葉を聞いて、まさにその通りだと思った。

瑠璃子にホームランを打たれたような気分だ。


「お母さん、僕も受ける側ではなく与える側の人間になりたいんだ」

瑠璃子のインハイにズバッとストレートが決まったようなインパクトが走った。

(心の中では、思わずキャッ!と叫んでしまった)


「それで、はやくから色々したいのね?」

頷く真司。


いつも変わらぬ真司が、動き出そうとしている。

その一歩を踏み出そうとしている。


真司は努力家だ。

行き当たりばったりの選択ではないのはよく理解できる。


親としてはサポートすることしかできないけど‥


「真司、七花さんにこの事を話してもいいかな」

頷く真司。

「ありがとうお母さん」


真司の顔が凛々しくみえたのは、気のせいではないだろう。








瑠璃子と七花の会話ー


「真司は‥大人の階段を登ってるみたいです」

瑠璃子は嬉しそうに話す。


「まだ14だけどね」そう言って瑠璃子をからかう七花。


「瑠璃子さん、わたしが言うのは変なんですが、子供は子供ですよ」

「あら?七花さんも子供がいたりして!」

からかったつもりが瑠璃子に返された七花。


でも、七花の顔は笑顔だった。


「間多理団のみんなが、わたしの子だからね!瑠璃子さんのいう通りかも」


瑠璃子は七花には見えないが、んーって顔をして体をモジモジしている。



「瑠璃子さん」

「はい!」


「真面目な話をしますね」

「は、はい!」


「真司くん、まどかの下で修行しませんか?」

「え?いいんですか?」


「まあ、まどかも修行の身ではあるのですが‥」

「七花さん、まどかさんが可哀想ですよ。あんなに頑張っているのに‥」


「がんばってもらわないと困るからね」七花の声は嬉しそうにも聞こえる。


「わたしは、七花さんと、その、一緒に、やっぱり、やりたいというか‥」

「瑠璃子さん、真司くんよりも子供かも」

「え⁈」

瑠璃子は今、顔が真っ赤に染まっている。


「ありがとう」七花が深く感謝を込めてそういった。

「な、七花さん、急に‥ど、わ、わたしのほうがありがとうですよ!」

慌てる瑠璃子。


「本当に、みんな前に進んでくれて、自分だけではなく、他人に対する気遣いや優しさも身につけてくれて‥よかった」


「七花さん‥それは、愛の力ですよ!」

「愛?」

「はい愛です!」

「愛ですか」

「ええ、愛です」


「不思議ですね、瑠璃子さんが言うと真実味がありますね」

「でしょ?」


2人は笑いあう。


「瑠璃子さん」

「はい?」


「あそこに行きましょうか!」

「あそこですね!」


「じゃあ、30分後で平気ですか?」

「大丈夫ですよ!」


「では、また後で!」

「はい!」


通話を終了してベッドから起きる七花。


ささっとお化粧をし、少し伸びた髪を整えて、頬を両手で軽くパンっとする。


「がんばりますか!」


そう言って、スマホ、バッグをとり軽快に玄関から外へ出て行く。



ふとみると、頭上に虹がでている。

七色の配列に見惚れる七花。


「わたしも、ああなりたいな」


そう言って、瑠璃子との待ち合わせの場所に軽快に足が導かれていく。







ー朝日七花のトータルBBー完ー






あとがき



朝日七花のトータルBB‥最後まで読んでくださった方々に感謝いたします。


まだ続けようか、いややめるべきか、悩んでいたのですが、わたしが最初から考えていたエンディングに、何気に近付いていったのと、4月で丁度いい区切りになると考え、完結にいたしました。


みなさまが楽しめたかどうかわかりませんが、朝日七花を通して、わたしの思いを伝えることができたのでないかと思っています。


今回、作品に出なかったキャラや設定などもあるのですが、それはそれで、何かの機会があればと思い、無理せず完結にしました。


勿論、これで終わり?って思われても仕方ありません。


ただ、朝日七花は、これからもわたしのメインキャラの一人であり、彼女の魅力がさらに溢れる場面が来たら、また書きたいと思っています。


本当に、わたしの拙い作品を読んで下さった方々に、心から感謝とお礼を申し上げます。



また、次回作でお会いいたしましょう。





     ーみやびあいー




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