ディリアン・レッドグレイヴは光を見る1
「では、はじめようか。ローレンス」
イーディスはそう言うと、体に魔力を漲らせる。
その超大な魔力の奔流を感じた瞬間。私の背筋は畏れで震えた。
──強くない? がっかりさせる? イーディス──いや、このお方はなにを言っているのだ。
イーディスという小さな器に押し込められたその状態でも、リアナどころか父上すら遥かに凌ぐ『強者の魔力』がひしひしと感じ取れる。
……これで自身が『弱い』と感じておられるのか。全盛期の貴女はどんなご様子だったのだろう。それを想像するだけで、気分が高揚し湧き立つ。やはり陛下は……私の光だ。
「仕方ありませんね。我が君がお怪我をしないよう、注意せねば……」
ローレンス卿はふーっと深い息を吐くと、渋々という様子でイーディスと向かい合った。
イーディスはローレンス卿は今の自身よりも『強い』と評しているが……。イーディスが圧倒的にローレンス卿に劣っているというわけではあるまい。
今の私では引き出せない、ローレンス卿の『本気』の片鱗。それが今から見られるのだろうことにも心が浮き立った。
「多少の怪我くらい構わんぞ。どうせ、お前が治してくれるしな」
「……我が君」
快活な様子でイーディスが言えば、ローレンス卿は眉間に深い皺を寄せる。
「はは、そんな怖い顔をするな。笑っているお前のほうが魅力的だぞ」
イーディスがそんなふうに言い添えると、ローレンス卿は満更でもない顔になった。……この方、イーディスに関しての反応はとてもわかりやすいな。
「では、力比べをしようか。ローレンス」
「……御意」
イーディスの言葉に、ローレンス卿が呼応する。
……いよいよ、はじまるのか。
私はふたりの様子を、固唾を呑みつつ見守った。
「雷、業炎、暴風」
イーディスは中位魔法を一気に三つ発動すると、それを自身の両手に纏わせる。三つの魔法は凄まじい回転をはじめ、たちまちのうちに炎と雷の渦巻く小さな──しかし強烈な魔力の気配を感じさせる竜巻となった。
……こんな魔法の使い方、私は知らない。
属性の違う中位魔法を無詠唱で同時発動させ、さらには自在に操るなんて……。
「……中位魔法の同時発動なんて負担がかかることを。イーディス様、無茶はしないでほしいと常々言っておりますよね」
「中位魔法まではいいんだろう? ローレンス。そういう約束だもんなぁ」
イーディスはそう言いながら、片側の口角をくいと上げる。
そんな少々悪辣な表情もとっても魅力的だぞ、我が妹よ。
「貴女は本当に心配ばかりさせる……!」
ローレンス卿は嘆きの声を上げ、片手に氷の中位魔法、もう片手に炎の中位魔法を纏わせる。
そして、小手調べとばかりに片手の炎をイーディスに放った。炎は凄まじい勢いでイーディスに向かったが──彼女は指先ひとつ動かさずに新たに発動した防護魔法でそれをかき消してしまった。
「さて……。無茶ばかりの貴女にそろそろお仕置きをしますか」
ローレンス卿はそう言いながら、ふたたび片手に炎を纏わせる。
「なんだ。お尻ぺんぺんでもするか?」
「それはよい考えですね。あとでぜひさせていただきましょう」
「うわぁ……。言わなきゃよかった」
ローレンス卿の言葉を聞いて、イーディスは少々げんなりした顔になる。
……お尻ぺんぺんはお兄様ぜひもしたいぞ、イーディス。




