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「ローレンス。そこまで言うのなら、責任を取ってお兄様に魔法の指導をして差し上げろ」
「へ……」
俺の言葉を聞いたローレンスの目が、満月みたいにまん丸になる。いかにも虚を衝かれたという顔で、ちょっと面白いな。
「イーディス様。なぜ、私がそのようなことを」
「そのほうが、お兄様の独学よりも確実に成長が早いだろう?」
露骨に嫌そうな顔をするローレンスに、俺は重ねて言う。
「そうかもしれませんが……」
ローレンスは思案顔になり、ディリアンは考え込むローレンスの次の発言を真剣な表情で待っていた。
ディリアンだって、できる範囲の努力はすでにやっているだろう。そして……その努力の天井が近い可能性はじゅうぶんにある。
個人での努力を続けるよりもローレンスのような高みにいる人間に指導をしてもらったほうが、要領のよい成長ができるのではないだろうか。
ローレンスからの指導が可能なら、それはディリアンにとっての渡りに船になるはずだ。
確実にレッドグレイヴ公爵家の跡継ぎになれる実力をディリアンが得ることができれば、今後のことが楽にもなるしな。
レッドグレイヴ公爵やリアナが公爵家の実権を握ったままでは、ディリアンのできることには制限がかかってしまう。下手を打てば、リアナに睨まれ彼が身動きが取れなくなってしまう可能性だってあるのだ。
「ディリアン様を鍛えるのは……ありかもしれませんね」
長い思案の末に、ローレンスはぽつりとそう言った。
「ディリアン様に後継者争いで負けたとなれば、リアナ嬢はイーディス様の身辺を嗅ぎ回るどころではなくなる。自身の立場の危機ですからね」
「あー。そういう利点もあるのか」
ローレンスの言葉を聞いて、俺はぽんと手を打つ。
魔法を使うところを見られてから、リアナは俺の身辺をしつこく嗅ぎ回っている。とはいえここしばらくの俺は寝込みっぱなしでこれという行動をしていなかったし、俺の側にはいつでもローレンスがいるので下手な手出しはできない。だから現状は、なにも掴めていないようだが。
しかし、俺が本格的に動きはじめたら……。前世のことまでは嗅ぎつけられないにしても、魔法を使えることは隠し遂せないかもしれない。
そんなことになったらレッドグレイヴ公爵夫妻とほかの姉たちも出張ってくるだろうし、非常に面倒なことになる。
ディリアンとの跡目争いに目を向けさせれば、リアナの追求を煙に巻けるかもしれないな。
……現在のリアナは、自身が跡継ぎになると信じて疑っていない。
そんな彼女がディリアンによって足元を掬われた時、一体どんな顔をするのだろうな。我ながら意地が悪いとは思うが、少々見ものだと感じてしまう。
俺がまだか弱い『イーディス』だった頃、リアナには一番酷い目に遭わされたのだ。それくらいの意地悪を思うことは許してほしい。
「ローレンス卿。ぜひ、貴方の教えを私に授けてください」
ディリアンはローレンスの前に跪くと、そんなふうに教えを乞うた。
プライドが高いディリアンだが、必要な時にはそのプライドを捨てられるところは素直にすごいな。
「……私の指導は厳しいですよ?」
ローレンスが、腕組みをしながら厳しい表情で告げる。そんなローレンスに、ディリアンはこくりと頷いてみせた。
「もう、リアナに負けるのは嫌なのです。それに、可愛いイーディスの役にもっと立ちたい。そのためなら……どんなつらいことにも耐えて見せましょう」
そう告げるディリアンの表情からは、強い覚悟が感じられる。『可愛いイーディス』の部分は聞かなかったことにしておこう。
……ローレンスの厳しい修練か。それって今の俺にも有用なんじゃないか?
「その修練、俺も参加しようかな」
挙手をしつつで俺が言うと、ローレンスとディリアンは目を丸くしながらこちらを見た。




