第五王子の変化について
第五王子エドゥアールの様子がおかしい。
あのひねくれ者の怠け者が、真面目に剣と魔法の訓練に取り組むようになったようだ。
そんな噂が、とある時期から王宮に流れはじめた。
その時期というのは……第五王子がレッドグレイヴ公爵家の『魔力なしのイーディス』と婚約を結んだ頃からだ。
──不本意な婚約を押しつけられ、奮起されたのか?
──いや。案外薄幸の令嬢にひと目惚れでもしたのかもしれんぞ。
──レッドグレイヴ公爵家の人々は美丈夫揃いだ。それはあり得ない話ではないな。
──面白い。落ちこぼれ同士で傷を舐め合うおつもりか。
──そんなに美しいご令嬢なら、一度見てみたいな。
悪意を含んだ噂が王宮に溢れ、同時に皆『しょせん殿下の努力など三日で終わる』とも考えていた。
しかしそんな王宮の人々の予想は、外れることとなったのだ。
第五王子は……粘り強く研鑽を積み続けた。
そして、二ヶ月ほどが経つ頃には、第五王子は明らかに『変わった』のである。
体を包む脂肪はみるみるうちに落ちていき、暴食をやめたために肌も張りのある艷やかなものになった。そしてその体には、脂肪の代わりにしなやかな筋肉が纏われていったのだ。
体の脂肪が落ちると体力もつき、剣を振る様子はどんどん様になっていく。同時に、魔法を操る際の集中力も向上した。
まだまだ達人と言うにはほど遠いが、近い未来には剣も魔法もいっぱしの使い手になるだろう。皆は手のひらを返し、そんなふうにささやいた。
顔にたっぷりとついていた肉も綺麗に削げ落ち、肉の下からは……まばゆいばかりの美貌が現れた。
その顔立ちは前王である『獅子王』を思わせる繊細に整ったもので、女性たちの心を騒がせるに至ったのだ。
獅子王に似た容貌の王族は現状おらず、皆は前王の面影を持つ存在の登場に湧いた。
「見て、エドゥアール殿下よ」
「本当に、素敵になられて……!」
訓練を終えて金髪を靡かせながら廊下を歩く第五王子に、令嬢たちはひそひそと話しながら羨望の目を向ける。
「……魔力なしより、私のほうがいいのではないかしら」
「馬鹿っ! それをエドゥアール殿下に直接言った令嬢が、先日叱られたばかりなのよ!」
ぽつりと漏らした令嬢を、別の令嬢が叱りつける。そう……第五王子の婚約者への溺愛は、すっかり周知のものとなっていたのだ。
「……殿下はイーディス嬢を本当に愛しておられるのね」
「不遇な婚約者を守るために強くなったなんて。ロマンティックな話ね」
「そんなに愛されるなんて、イーディス嬢は一体どんなご令嬢なのかしら」
「私もそんなふうに愛されてみたいわ」
以前悪口を言っていたのと同じ口で、令嬢たちは好意を囀る。そんな彼女たちを、第五王子は冷たい表情で一瞥した。明らかに好意的ではないその視線にすら令嬢たちは喜びを覚えるらしく、きゃあと黄色い声を上げる。
──あの令嬢たちは、以前僕を囲んで口汚くこき下ろしたことを忘れてしまったのだろうか。
──容姿で人を嫌悪しないイーディス嬢の心は、やはり綺麗だな。
そんなことを考えため息をつく第五王子は、まだ知らない。
自分が婚約者と会っていない間に、獅子王の元右腕という強力な恋のライバルが増えてしまっていることを。




