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「……貴女はやはり、陛下なのですね」
ローレンスがぽつりとそんな言葉を漏らす。
言わんとするとことは……まぁ、わからんでもないな。
「一度は治めていた国だ。愛着がないと言うと、嘘になるからな。民が苦しんでいて俺に多少でも力があるのなら……少しでも助けになりたいと思って当然だろう」
兄上も、高位貴族たちも。皆腐りきっており、民のためになにかをやろうという気持ちは毛頭ないらしい。
俺がいない間魔物退治はローレンスが頑張ってくれていたようだが、彼がどれだけ強かろうとその身はひとつしかないのだ。国全体の状況改善までには至らない。
……ローレンスひとりだったのが俺とふたりになったとて、その状況に大差はないかもしれんが。やらないよりは、きっとましだ。
レッドグレイヴ公爵領のことに関しては、ディリアンに投げてしまえるかもしれんしな。そうなればレッドグレイヴ公爵領の状況はかなり改善がされるだろう。頑張ってくれよ、お兄様。
そんな結論を胸の内で出してから、ローレンスのほうを見ると……。
「ううっ……」
彼は滂沱の涙を流しながら、嗚咽を上げて泣いていた。
「ちょ! ローレンス! なぜ泣く!」
「申し訳ありません。国を憂う貴女を見ていると、懐かしい気持ちになってしまい」
「お前は本当に涙脆いなぁ」
ぐすぐすと泣くローレンスの顔を、そのへんにあった布で拭う。
これは俺の熱を冷ますために、ローレンスが用意してくれていた濡れ布巾だな。
ローレンスは湿った布で気持ちよさそうに顔を拭われたあとに、うっとりとした表情でこちらを見る。そして、俺の手を取ると……。
「共同作業、頑張りましょうね」
と、にっこりと笑いながら快活に言った。
この美男子、発言がいつも紛らわしい。
しかし、あながち間違ってもいないのか……? 共同作業といえば共同作業だしな。
「頼りにしているぞ、ローレンス。今の俺の身では、戦闘能力はお前に劣る。迷惑をかけるかもしれんが、支えてくれ」
彼の言葉を否定するのもおかしい気がして、真面目な顔をして俺は返す。
するとローレンスは白い頬を紅潮させた。
「支えます。貴女を一生」
「ローレンス。その紛らわしい言いかたは、わざとか?」
「……紛らわしい?」
ローレンスは無垢そのものという顔をしながら、不思議そうに首を傾げる。
……先ほどからの言葉に変な意図はなかったのかな。
これはこれで、俺が自意識過剰みたいで恥ずかしいのだが!
「いや、まぁ。いいや」
つぶやきながらローレンスに握られた手を引き抜こうとするが、彼が俺の手を離す様子はない。
「ローレンス?」
「もう少しだけ握っていたいのですが……ダメでしょうか?」
首を傾げながら名前を呼ぶと、悲しそうな顔でそう返されてしまった。
「ダメとかダメじゃない以前に、なぜ手を握る必要がある」
「私が幼い頃は、陛下はこうして手を握ってくれましたよね?」
「それはお前が子どもだったからだろう」
「今でも子どものようなものですよ」
……それは無理があるぞ、ローレンス。
お前はどこからどう見ても立派な成人男性だ。
まぁ、俺からするといつまでも可愛い養い子でもあるのだが。
「……『読み聞かせ』の間だけ手を握っていていい。対処の優先順位も一緒に教えてくれ」
「わかりました!」
ローレンスはぱっと表情を輝かせると、国内の魔物討伐の状況について語りはじめる。その話はかなり長く続き、俺は二時間ほどローレンスに手を握られっぱなしになるのだった。




