1振り、異世界召喚させないでくれ
この作品は今日中に全て投稿し終わる予定です。
「あなたたちには異世界へ行ってもらいます」
授業が始まって10分ほど経った後。突然知らない場所に来た俺たちは、目の前の翼が生えた女にこう言われた。俺もそうだがクラスメイトも誰1人として状況が理解できていないようで、ここはどこなのかと辺りを見回している。
……いや。1人だけ理解しているっぽいヤツがいた。
「なあ!異世界転移って事はチートが貰えるんだよな!!」
普段は教室の隅の方でぼっちな学校生活をしているヲタク。そいつが見たことないくらいのハイテンションでそんなことを言い出したのだ。それによって、俺を含めた数名の生徒は理解の色を見せる。
これはラノベとかで有名な異世界転移というものなのだと。そして、異世界転移と言えばチート。ヲタクが興奮するのも分かる。ぼっちなヤツが異世界に行って覚醒する話とかありがちだからな。特にイジメとかはないけど、ヲタクには陽キャを見返したいとかいう気持ちがあるのかもしれない。
だが、現実は非情だった。翼を生やした女は困った顔をしつつ、
「すみません。力を与えるとかいうことは出来なくてですね……」
「「「えぇぇぇ!!!?????」」」
ヲタクを含めた数名の生徒が、驚愕の声を上げる。それから、
「ふざけんなよ!チートなしで異世界とかいけるわけないだろ!」
「俺は行かないぞ!」
ブーブー文句を垂れだした。俺も文句は言いたいが、そこはぐっと我慢しておく。
なんでかって?相手は俺たちをこんな良く分からないところへ呼び出せる力を持ってるんだぞ。他にもどんな変な力を持て散るか分からない。下手なことをして怒りを買うわけにはいかないんだよ。俺は死にたくないからな。
「も、勿論何も特典がないわけではありません!現地の方には出来ないことを皆さんは出来ます!」
「「「おぉ!!」」」
文句を言っていた奴らの表情が変わる。チートはなくても特典があるなら、ワンチャン使い方を工夫して一発逆転があるのでは?とか思ってそうだな。俺でも一瞬思ったし。
でも、言うのは2度目だがはっきり言っておこう。現実は非情だ、と。
「皆さんには、ステータスの初期値の割り振りが出来ようにしておきました!」
「「「お、おぉ?」」」
喜ぶべきなのかそうでないのか。クラスメイト達は微妙な表情をしている。そんな彼らに説明が続いて、
「今から皆さんに行ってもらう世界には、ステータスというものが存在します。攻撃力や防御力といった感じですね。そして、ステータスの初期値の合計は人間ですと皆等しく20です。向こうの世界の人々はそのポイントが、生まれた時点でランダムに割り振られています。……しかし!,皆さんはそのポイントを自由に割り振ることが出来るのです!」
「「「お、おぉ?」」」
また困惑の声。俺はなんとなく理解したぞ。ゲームを最初に始めるときにステータスの初期値の割り振りとかあるからな。
説明が終わった後、クラスメイト達は少しずつ理解をし出した。それと共に、
「え?それって特典か?」
「なんか、……しょぼい?」
「おい!もっと良いモノよこせよ!オリジナルのスキルとか!」
ヲタクが叫んでいる。ただ悲しいことに、その夢が叶うことはなかった。あくまでも俺たちが出来るのは初期数値の設定のみらしい。
「あの、どうしても納得できずに騒ぎ続けられる場合はこちらも対応をしなければなりません。できればやめてください。対応の内容は、あちらの世界の人と同じようにランダムで数値が割り振られて強制的に転移されるといったものとなります」
「「「なっ!?」」」
騒いでいた奴らの表情が変わる。ランダムの割り振りでは微妙な反応だったが、強制転移の言葉で全員黙った。心の準備が出来ないまま転移させられるわけだろ?
「はい。静かになりましたし、続きの説明をしますね。次に説明するのは、ステータスに出る数値の種類です。ステータスに現れるのは『攻撃力』『防御力』『魔攻』『魔防』『機動力』『運』の6種類となります」
ここから先は解説が長かったので省略。それぞれの詳しい内容だけ説明しよう。
・攻撃力 ……物理的な攻撃力。これが高いと相手に物理攻撃をしたときのダメージが大きくなる。
・防御力 ……物理的な防御力。攻撃力に対応した防御力だ。これが高いと物理攻撃の被ダメージが軽減される。
・魔攻 ……魔力的な攻撃力。これが高いと魔法のダメージが上がる。
・魔防 ……魔法的場防御力。魔攻に対応した防御力だ。これが高いと魔法の被ダメージが軽減される。
・機動力 ……回避能力。これが高いと先制攻撃が出来たり、攻撃の回避率が上昇したりする。
・運 ……補正能力。これが高いとクリティカル率やレアドロップ率など、様々な確率が上昇する。
といった感じだ。
この説明を含め、これから行く世界の説明が終わるとやってくるのは
「さぁ。割り振りのお時間ですよぉ。決め終わったらすぐに転移しますのでぇ」
ステータス割り振りタイムだ。現在は全ての数値が0の状態であり、20ポイントを使ってステータスに割り振る必要がある。どこかのラノベ見たく『防御力』に極振りしても良いし、どこかのラノベ見たく『運』に極振りしてもいい。
だが、俺はもう決めている。俺はこのステータスに賭けるんだぁぁぁ!!!
そう思って、俺がステータスを割り振り終わったときだった。
「おぉい!それぞれグループで集まって、一緒に行動得るときに連携できるようにしておこうぜ!」
「……え?ええええええええええええぇぇぇぇえ!!!??????」
俺の大絶叫が響く。クラスメイトの視線は俺に注がれた。そして、すぐに唖然とした表情に変わる。
なぜなら、俺の足元には魔法陣が出現しており、
「あっ。割り振り終わったんですねぇ。それでは行ってらっしゃぁい!」
「ま、待ってくれぇぇぇぇ!!!!!!!」
光に吸い込まれる俺。俺の叫びもむなしく、俺はあっという間に、
「……ま、マジで転移したのか」
周りからクラスメイトは消えている。代わりにあるのは大量の木々。俺はどうやら森に転移されてしまったようだ。
こういう所には落ち着いていきたかったな。たまには自然と触れあうのも良いと思ったが、異世界に行く形では来たくなかったよ。
「…………はぁ。まずは町でも探すか」
落ち込んでいても仕方がないので俺は歩き出す。きっと数時間もすれば他のクラスメイトも召喚されてくると思うんだが、そこまで待ってるのもどうかと思うしな。現地人と接触しておくのも悪くないだろう。
「……ゥ」
ガサガサッ
小さな声と、遠くからの物音。早速現地人との接触イベント来たか?幸先が良いぞ。
俺は一応音を立てないようにしながら音の方に近づいていく。そして、ゆっくり気から顔を出して、
「ゴブゴブ」
ひ、人じゃなかったぁぁぁ!!!!!!声とかかけなくて良かったぁぁぁぁ!!!!
心の中で大絶叫。俺が見つけたのはゴブリン。緑色の身体で背が低く、腰蓑を着けているあの異世界モンスター定番のゴブリンだ。最初にこっちに来て出会った生物がモンスターとか先行きはやっぱり不安かもな。
「……よし」
木陰に隠れつつ、俺は腰にあるものを確認する。ゆっくっりと抜いていくと、光を反射する銀色のものが現れた。
これはナイフ。転移の特典の1つだそうで、戦闘に使おうと思えば使えるそうだ。
……やってみるか。
「……はっ!」
ゴブリンが後ろを向いてるところを狙って走って行く。一瞬にしてその背後にたどり着いた俺は、その首めがけてナイフを突きだした。
カツッ!
「っ!?かっったぁぁぁぁ!!????」
手に跳ね返ってくる衝撃。かなり力を入れて突き出したから、その分反動が凄い。まさか、ゴブリンの首がここまで硬いとは思ってなかった。
「ゴブゥ!」
「うおっと!危ねぇ!」
ゴブリンが振り返ったので、俺はすぐに後ろを向いて逃げる。ゴブリンも走って追いかけてきたが、残念ながら俺に追いつくことは出来ない。なぜかって?それは俺が、
「機動力特化だからだよぉぉぉ!!!!!!」
馬鹿にするように叫ぶ俺。周りにいた魔物が集まっているかもしれないが、それならそれでいい。是非とも魔物同士で潰し合って欲しいところだ。漁夫の利を俺がもらうから。
それに俺が叫んだとおり機動力特化だから、逃げるのも楽だと思うしな。
それでは、逃げながら俺が機動力特化にした理由でも説明していこうか。俺が機動力特化にしたのは単純。赤い人が言ってたみたいに、当たらなければどうということはないと考えたからだ。機動力が上がれば回避率が上がる。回避率が上がれば敵の攻撃が当たらなくなる。
良い考えだと思わないか?……まあ、機動力20でどれだけ回避率があるのかは分からないけどな。
回避率(%)=機動力の数値×0.01
とかいう計算式だったら普通に終わってるよな。今の俺の回避率0,2%って事になるぞ。500回に1回くらい回避できる計算だ。
「……っと、そろそろまけたか」
走って1分くらい経った。もう後ろからゴブリンの足音も聞こえなくなっている。俺は足音を消しながら走ってもゴブリンより速かったからな。俺のいる位置はもう分からなくなってるだろ。
ゴブリンが見失ってくれたわけだし、これからどうするかと言えば、
「もう1回奇襲だぁぁ!!!!」
「ゴブゥゥ!!????」
首に浅く傷がついているゴブリン。そいつに、もう1度奇襲を仕掛けてやった。先ほどより力は小さくして突いたので、腕への反動も小さい。ダメージも低くなると思うかもしれないが、傷口にナイフを突き刺したからさっきよりももっと痛いはずだ。幾ら防御力とか言うシステムがあっても、そういう所はリアルなはずだろ?目を潰せば目は見えなくなるし、鼓膜を破れば音は聞こえなくなるはずだろ?だから、皮膚は硬くても内側は柔らかいはずじゃん。
「ゴブゥゥゥ!!!」
ダメージが入っているのか少し不安に思いつつも、俺はゴブリンから逃走する。さっきとは違ってゴブリンが追ってくる前から走っていたので10秒もかからずに逃げ切れた。
……さて、もう1度だ。
「おらぁぁぁ!!!!」
「ゴブゥゥゥゥ!!!」
何度も何度も俺は傷口へナイフを突き刺し続けた。途中から常に手で傷口を押さえるようになったが、どうにかその指の間を通して攻撃を繰り出した。お陰でなんだかナイフ捌きが上手くなったような気もする。
そしてついに15回目の突き刺し。ここでついに、
グシュッ!
「うおっ!?」
今までとは段違いの量の血が吹き出た。俺はその血を避けながら走って離れる。頸動脈にでも届いたのかもしれないな。
そんなことを考えてゴブリンの元へ戻ると、
「……死んでる、のか?」
ゴブリンは地に倒れ伏していた。その上には小さな箱が。この現象は、俺が転移をする魔に説明を受けたモンスターを倒したときの現象と同じだ。モンスターに限らず生き物を倒すと死体の上に宝箱が現れるらしい。
「あ、開けてみるか」
俺は宝箱に手を伸ばす。そして、少し開いた瞬間だった。
《レベル2(1UP)になりました》
《スキル『奇襲1』を獲得しました》
《スキル『ヒット&アウェイ1』を獲得しました》
《スキル『逃走1』を獲得しました》
頭の中に響く声。レベルアップしてスキルまで手にい入れたらしい。レベルアップの効果は、ステータスの上昇だ。毎回3ポイントがランダムに割り振られると聞いている。
今の俺のステータスはこんな感じ。
【春川花穂】
種族:人
LV:2
職業:なし
HP:110 MP:55
攻撃力:1 防御力:0 魔攻:0 魔防:1 機動力:21 運:0
スキル:『奇襲1』『ヒット&アウェイ1』『逃走1』
称号:なし
『攻撃力』『魔防』『機動力』がそれぞれ1ずつ増加した形だ。『機動力』が上がったから、俺は更に早くなったわけだな。
それでは、今度はスキルの方の解説に移ろうか。それぞれの効果はこんな感じ。
・『奇襲1』:自身が攻撃対象に発見されていない場合ダメージが1.5倍。
・『ヒット&アウェイ1』:1度攻撃した後2秒間『機動力』が2倍。
・『逃走1』:敵から逃れるときに『機動力』が1.5倍。
「『機動力』凄っ!」
俺の感想はそれにつきる。『ヒット&アウェイ』と『逃走』はどういう加算のされ方になるのかは分からないが、機動力は逃げるときに50を超えそうだ。そこまでいくと俺がその速度を制御できるかが不安だな。
ガサガサッ!
「っ!?」
スキルを確認していると、俺の耳が物音を捕らえる。またゴブリンが寄ってきたのかもしれないな。宝箱の中身はもらっておいて、倒したゴブリンの死体はそのままにしておくか、
そう。宝箱の中身をもらって。
ちょっとスキルとかレベルアップとかあったが、宝箱を開けるところだったのだ。今度こそ俺はしっかり中身を確認する。中身はお金らしきものと小さな石だった。この石は魔石って言うヤツかもしれないな。
……まあ今はそれは良いか。まだ敵に補足されたわけではなさそうだし隠れておこう。
「……キュキュッ!」
暫く隠れていると、1匹の兎がやってきた。一角兎だな。作品によってはホーンラビットって名前だったりする、頭から1本の角を生やした兎だ。
俺はそいつの後ろに回って、
「えいっ!」
「キュッ!?」
首にナイフを振り下ろした。先ほどゴブリンに攻撃したときのように反動が返ってくるが、明らかにその反動は小さくなっている。これが攻撃力が上昇した効果かもしれないな。『奇襲』のスキルで『攻撃力』が1.5倍になってたし、それも効果を出したかもしれない。
このままコイツの角を抑えてナイフで切りつけまくっても良いのだが、
「俺は逃げるぜぇ!」
兎に背を向けて走る。兎も機動力は高そうなイメージはあるが、俺の機動力とスキルを信、じ、たい!?
「うおぉっ!?」
俺が1歩踏み出したと思ったら、一瞬で景色が変わった。耳には風を切る音が。
もう後ろに兎は見えない。これが『機動力』50以上の世界か。もう少し走って感覚を掴もう。
「俺は風になるぜぇ!!」
その後も何度か兎にナイフを突き刺しては走る感覚を掴んだ。兎も何度か攻撃すれば力尽きて宝箱を生み出した。宝箱の中身はお金と魔石だ。
その後も何度か兎やゴブリンを発見しては奇襲。その成果がこちらだ。
《レベル8(1UP)になりました》
《スキル『弱点攻撃1』を獲得しました》
《スキル『大声1』を獲得しました》
《スキル『奇襲2(1UP)』に進化しました》
《スキル『短剣1』を獲得しました》
詳しい効果としては、
・『弱点攻撃1』:攻撃対象の弱点にダメージを与えたとき、その弱点の弱さによってダメージが増加する。
・『大声1』:自身が大声を出すことにより周囲の生物を威嚇する。また、遠くの仲間へ声を届ける。
・『短剣1』:短剣使用時のダメージが1/2倍。
・『奇襲2』:自身が攻撃対象に発見されていない場合ダメージが1.6倍。
ステータス画面はこんな感じ。
【春川花穂】
種族:人
LV:8
職業:なし
HP:110 MP:55
攻撃力:4(3UP) 防御力:2(2UP) 魔攻:3(3UP) 魔防:3(2UP)
機動力:27(6UP) 運:2(2UP)
スキル:『奇襲2』『ヒット&アウェイ1』『逃走1』『弱点攻撃1』『大声1』『短剣1』
称号:なし
かなり成長した気がする。ステータスのポイントはランダムだと聞いていたのだが、機動力の伸び幅がおかしいよな。極振りすると伸びやすくなる使用でもあるのか?
何てことを考えてる現在。俺は地上にはいない。
……え?何を正月にジャンプした時みたいなことをいってるんだって?
いや、違う違う。そういうつもりではなかったんだ。ジャンプしたんじゃなくて、現在木登り中だ。
「よい、しょ!」
落ちないように気をつけながら太い枝に上っていく。なぜこんなことをしているのかと言えば、近くの村や町を発見するためだ。歩き回ってみたものの発見できなかったため、高いところから見てみるという考えに至ったわけだ。
「ん~。良い眺めだな。……おっ。人工物見つけた。距離はあるけど、アレは村っぽいな」
森の奥にある建物と、そこから更に行った先にある村。もしかしたら建物は、森の奥地に住む魔法使いが住んでる感もな。ファンタジーな世界だし、そういう人がいてもおかしくはないだろう。
早速行ってみるとするか。
俺は木から慎重に下りて走り出す。
「……おっ。到着だな」
1時間ほど歩いて建物に到着。道中で何体かモンスターと戦って、大量レベルアップ済みだ。今では奇襲すればゴブリンを1撃で屠れるようになっているぞ。俺も強くなったもんだ。
「おい!お前そこで何やってる!」
後ろから声が。この世界で初めて出会う人だ。仲良く出来たらいいな。まずは挨拶からいってみよう。
「ん?あっ。こんにち、は!?」
俺は瞬時に横へ跳ぶ。直後、俺のいた場所に剣が振り下ろされた。剣の攻撃は避けたものの、まだ安心できない。何人かに弓で狙われており、
ヒュンヒュンッ!
「危ねぇ!!???」
俺は走って避ける。どうやら、俺がこちらに来て初めて出会った人たちは蛮族だったらしい。まさか、初対面の人間にいきなり攻撃してくるなんて。
ただ、蛮族と言うには少し衣装が良かったな。黒服の人や顔の隠れるほど深くフードを被った人。よく分からないがバンダナまでつけた人もいた。
…………ん?蛮族じゃなくて盗賊か?もしかしてここの建物、盗賊のアジトだったりするのか?
とりあえず結論としては、素直にこんな所には行かずに村に行くべきだったな。
「待てぇぇ!!」
「逃がすなぁぁ!!追えぇぇぇぇ!!!」
「殺せ!確実に息の根を止めろぉぉ!!!」
盗賊達は魔物より圧倒的に足が速い。『ヒット&アウェイ』と『逃走』のコンボでも振り切れなかった。
とはいえ、かなり距離を稼ぐことは出来ている。このまま追いつかれる前に村まで行きたいところだな。村ならきっと兵士とかがいて、保護してくれるはずだ。
「追いつかれてたまるかぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」