episode.6 プリンセスとプリンス
グレーの襟付きワンピースにワインレッドの長袖のボレロ、少し出掛けるくらいの感覚で深く考えず選んだ服を着てきてしまった。そのことを今さら後悔している。人前に出るのならもう少し良さげな服を着てきた方が良かったかな、と。
「今繋ぎます。しばらくお待ちください」
杖のプリンセスは淡々と述べた。
「もしかして……直接会うわけではないのですか?」
「はい。キャッスルを回るのは時間がかかり過ぎます」
「そうでしたか」
私は自然に安堵の溜め息を漏らしていた。
通信での会話でも対面での会話でも同じことではある。互いを見るわけだし、言葉を交わすわけだから。ただ、私としては対面でないだけでも気が楽になる部分がある。違わないようだけれど違う。
「それでは」
杖のプリンセスはぱちんと指を鳴らす。
すると宙にパネルのようなものが四つ発生した。
『お久しぶりー、杖のプリンセスさんー』
一番に姿が映し出されたのは女性だった。
美女という単語が似合いそうな二十代後半くらいに見える女性。長い睫毛に彩られた瞳は深い緑色、やや伏せているように見える目つきが色っぽさを感じさせる。髪は白を多く混ぜた緑のような色で、毛量は多くない。その丈は、胸の一番高い位置になっているあたりまでぎりぎり達するくらい。
「お久しぶり」
『用事ってー? 何ですー?』
「彼女のことで」
女性の視線がこちらへ向く。
『ま! 可愛らしいお嬢さん。初めましてー』
「初めまして……」
『そう緊張なさらないでー。森のプリンセスです、よろしくー』
白に近い緑の髪に覆われた頭部には、薔薇のような花の髪飾り。
ドレスは薄い桜色。
「フレイヤといいます」
『あらあら可愛らしいお名前ー。フレイヤちゃん。素敵ねー』
森のプリンセスはゆったりとした喋り方をする。怖くはなさそうだ。むしろ善い人かもしれない。おっとりしていそうだから、厳しい言葉をかけてくることもなさそうだ。
「彼女がクイーンの娘かもしれない、ということなのです」
杖のプリンセスは淡々と言葉を発する。
『ま! クイーンの?』
「クイーンのコンパクトを所持しているのです。母が遺したものだとか」
『そんなことがあるなんてー』
刹那、森のプリンセスが映っているのとは別のパネルに、一人の少年が映し出される。
『マジかよ。そんな地味女がクイーンの娘とか、ないわー』
前髪が妙なうねり方をしている少年はいきなり毒を吐いてくる。
『もう! プリンス! 駄目よ、そんな言い方!』
『森のババアは黙ってな』
『ひーどーいー。これだから男の子は』
妙なやり取りを聞かせられ戸惑っていた私に杖のプリンセスが教えてくれた。
この少々無礼な少年こそが海のプリンスなのだと。
直後、また別のパネルに、仮面で目を隠した人物が映り込む。
『……用とは』
「すみません、突然。彼女のことで少し」
『……女?』
「彼女に紹介したく思いまして」
『……勝手にするがいい』
杖のプリンセスは仮面の人物が時のプリンスであると教えてくれる。
「初めまして」
『……お主に興味はない』
「そ、そうですか……」
一応挨拶してみたのだが駄目だった。彼とは親しくなれそうにない。それにしても、プリンスばかり感じ悪いのはなぜなのか。プリンセスは皆優しく親切な感じなのに。
『ぶぅえええええっ!!』
突如響く謎の声。
残る一つのパネルからだ。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさーいっ!! 遅れましたぁーっ!!』
「落ち着いてください」
映っているのはもさもさしたロングヘアの少女。
杖のプリンセスによると、彼女は愛のプリンセスらしい。
『ひと眠りしようと思ったら! 気づいたら時間になってて! 髪の毛何とかしようとしたらあちこちハートだらけになっちゃって! ごめんなさい! ホントごめんなさい!』
「貴女が遅刻するのはいつものこと、慣れています」
『ごめんなさい!』
「次からは気をつけてください。では本題に」
『本のタイトル?』
「違います。面倒ですので、話を進めます」
『ふえぇ……』
それから、改めて、杖のプリンセスは私を皆に紹介した。
ひと通り話終えてから、彼女は問う。
「二十年ほど空位となってきたクイーン、その座に彼女をつけるべきか否か。現時点での答えをお願いします」
何でそんな話に!?
『わたしは賛成よー。だってだって、可愛いんですものー』
『何の話かよく分からないですけど……森プリが賛成なら同じく賛成! かなっ』
森と愛のプリンセスは賛成に票を投じる。
温かく受け入れてもらえること自体は嬉しいが……。
『はん! 馬鹿かよ!』
『……茶葉よりも信用ならぬ』
海と時のプリンスは反対派らしい。
何となくそんな気がしたけれど。
「あたしは賛成派よ!」
背後から急に発したのは剣のプリンセス。
「本人の意思は考慮しなくていいのか」
「はぁ!? うっるさい! それあたしに言うことじゃないでしょ!」
剣のプリンセスと盾のプリンスはさりげなく睨み合っていた。
「意見は確認できました。協力ありがとうございました。ではこれにて一旦解散としま——」
杖のプリンセスがまとめ的な文章を言い終わりかけた、その時。
突如脳が割れそうなくらい大きなブザー音が響く。
何事かと思っていると、杖のプリンセスが表情を固くしたことに気づいた。そして、それを見て、まずいことが起ころうとしているのだと察した。




