episode.7 コウモリと少年 ★
杖のプリンセスが片手を伸ばすと、その手もとに一本の長い杖が出現した。
主にゴールド系の色みでところどころに微かに緑がかった落ち着いたブルーの石が使われていて、長さは人の身長とさほど変わりないくらい。
四人との通信は途切れる。
直後、上空から黒い何かが飛んでくるのが見えた。
ある程度近づいてきてからその正体が判明。黒い何か、は、コウモリのような生物だった。見たことがないくらい大規模な群れで、一斉にこちらへ向かってきている。
杖のプリンセスは険しい表情で群れを見据えながら杖を掲げる——するとその先端から真っ白な光が放たれた。
目の奥まで焼きそうな強い光が、向かってきているコウモリのような生物を物凄い勢いで消し飛ばしてゆく。
だが全滅はしない。
運良く生き残った個体は一直線に飛び続ける。
杖のプリンセスのところへ集まるように飛んでくるコウモリのような生物。しかし、それらが近づいてきた時には既に、剣のプリンセスが間に入っていた。
「フォローします!」
「助かります」
離れている敵は杖のプリンセスが白い光を放つ攻撃で数を減らす。接近してきた敵は剣のプリンセスが確実に倒していく。二人は息がぴったりだ。互いの弱点を埋め合うことで、二人は無類の強さを発揮していた。
刹那。
右斜め上が光った。
光線のような何かが降り注ぐ。避ける間もない。が、私に命中するより早く爆発が起こる。何かに遮られたかのように。
「プリンスさん……!」
私と光線の間に入っていたのは盾のプリンスだった。そして、彼の目の前には、鋼鉄の盾が出現していた。光線を防いだのは恐らくその盾だろう。
「ぼんやりしないように」
いやいや、ぼんやりしているとかそうでないとか、そういう問題ではないと思う……。
でもそれを口に出しはしなかった。
今言う必要のあることではないから。
「大丈夫、なんですか……?」
「二人もいれば戦力としては十分だろう」
「貴方は入っていないんですね」
「私は戦力ではない。攻撃はあまりしない」
握力を使えば……、と思ったことは、一応秘密にしておこう。
「そうですか。でも、二人で十分だなんて、ちょっと意外です。そういうものなんですね」
「本来は一人で対処するものだからな」
「へぇ……。それはかなり凄いですね……」
杖と剣のプリンセスは今もまだ二人で敵を倒し続けている。敵の数は凄まじいが、数の不利さを一切感じさせない見事な戦い方だ。
その時、宙から何かが降ってきた。
金属がぶつかり合うような鋭い音が響く。
降ってきたのは人間に似た容姿の人物。その手には刃部分が長めのナイフ。だが、振り下ろされたそれを、盾のプリンスは既に出していた盾で防いでいた。
先ほどの鋭い音はナイフの刃部分と盾がぶつかり合った音だったようだ。
「ふーん。やるじゃん」
ナイフを手にしている人間に似た容姿の人物はくるりと回転して一旦後退した。
「何者」
「名乗るような者じゃないよ」
敵と思われる少年は、ニヤリと口角を持ち上げる。
くすんだ黄緑のふんわりとセットされた髪が、頭部の動きに従うように僅かに揺れる。
「盾のキャッスルは既にボクたちのもの。でもプリンスは逃した。だから今度こそ捕まえて始末する、それがボクの今日の任務だよ」
「狙いはこちらか」
「しっかし驚いたよ、まさか君が女の人と一緒にいるなんて」
私は無言のまま徐々に下がる。
「ずっと引きこもりだったのに」
少年は前を開けた膝丈のコートをなびかせながら盾のプリンスに突っ込む。少年はナイフを器用に扱い、次から次へと攻撃を繰り出す。一般人であればとっくに斬られていただろう。しかし激しい斬撃も盾の前には無力。
相手が盾を使うことが分かっていて、なぜナイフで戦おうと思ったのだろう……。
それでも少年は攻撃をやめない。ただひたすらにナイフを振り続ける。すべて盾が弾くのだけれど、それでもやめようとしない。
「無駄だ」
「そうかな?」
「何を……」
盾のプリンスの意識が僅かによそへ逸れた瞬間を少年は見逃さない。少年は身体の位置を下げ、プリンスの懐へ一気に潜り込む。一秒にも満たないようなほんの一瞬の隙だったが、戦闘においてそれはとても大きなもので。少年はプリンスの脇腹をナイフでえぐった。
そのまま今度は私の方へと駆けてくる。
「来ないで!」
「ヤダね」
このままでは私も斬られる——焦っていたのだが、私の目の前に突如白い光が降り注ぎ、少年の足が止まった。
「させません」
振り返ると、そこには杖のプリンセス。
一本の杖を高く掲げている。
「ちっ、他のやつも出てくるのかよ」
「去りなさい。でなければ、わたくしが直々に撃退することとなりますよ」
杖のプリンセスが述べると、少年は悔しそうに顔を歪めながらその場から消えた。
「逃げました、か」
「杖のプリンセスさん、ありがとうございます」
「いえ」
少年が消えたことで、その他の細々した敵たちも消えたみたいだ。
取り敢えず今回も生き延びられた。
「あ、そうでした!」
その時になってふと思い出す。
「盾のプリンスさん、大丈夫なんですか!?」
声をかけると、盾のプリンスは首を傾げた。
その様子を見ている感じだと特に大きな問題はなさそうだ。
「脇腹、怪我して……」
「それは問題ない」
少年のナイフにえぐられた脇腹の部分は服の生地が切れている。微かに血が滲んでいる様子も見てとれるが、本人はあまり気にしている感じはない。
「本当ですか……!?」
「嘘はつかない。言ったはずだ、頑丈にできていると」
「そうでしたね……でも心配です」
「必要ない」
「でも……」
「気にしなくていい」
杖と剣のプリンセスに温かな視線を向けられていることに気づき、半ば無意識のうちに盾のプリンスから離れてしまった。
「気にしなくて良いのですよ」
「そうよ! 気にしないで! 仲良くしてていいわよ!」




