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episode.43 状況悪化?

 吹き飛ばされたミクニは暫し言葉を失っていた。

 何が起きたか分からない、理解できない、そんな風に訴えているかのような顔つきのまま、立ち上がるでも何でもなく停止している。


 恐らく、この場にいる誰もが、何が起きたか理解していないのだろう。


 暫しの沈黙の後、それを破る者が現れる――誰よりも先に口を開いたのは、炎のような影であった。


「何をやられているのだ、情けない女め」


 それの声はいつもより低く、怒りの色をはらんでいるように聞こえる。


「どこまでも……どこまでも使えぬ……」


 炎のような影が怒りを仄めかすように揺らぐ。

 それを目にしたミクニは血の気の引いた顔を強張らせる。

 顔面蒼白、まさにそれである。


「お、お待ちください! どうか! どうかお許しを……!」

「何度繰り返すつもりだ」


 黒ずんだ炎のような影は怒りを隠そうともしない調子で言葉を放ちながらじりじりとミクニに近づいていく。二者の距離が近づけば近づくほど、ミクニの面に滲む焦りと恐怖の色は濃くなっていっていた。

 影は本来ミクニの味方。味方同士であれば本当は恐れる必要などありはしないはず。だが今のミクニはそんな風に捉えることはできていないように見える。


 影は怒らせるとそんなに恐ろしいのだろうか?

 あるいは何か別の点に対して恐怖心を抱いている?


「申し訳ありません! 本当に! しかし、あたしはやってみせま――」


 ミクニは慌てた様子で訴える、が。


「使えんやつはもう要らぬ」


 これでもかというほどミクニに接近していた炎のような影は、大地が唸るかのような低音で述べる。刹那、黒い光のような何かが弾けて。その次の瞬間には、ミクニは地面に力なく倒れ込んでいた。


 脱力して倒れた彼女の瞼は閉じられている。


「……あなたは一体、何をしたの」

「わざわざ言うまでもない。役立たずを処分した、それだけのことよ」


 処分した、という言い方をするということは、ミクニは死んだのだろうか。

 肉体はまだ確かにそこにあるけれど。

 生きているか否かの参考にしたいところだが、少し距離があって、呼吸や心音の有り無しを確認することは難しい。


 ただ、炎のような影が心ない存在であることだけは分かった。


 人の形をしていないとか正体不明とかそういうこと以前に、それには、人間が持つ善的な部分はないらしい。


「役立たずって……あなたたちは味方同士なのでしょう!? それをそんな言い方!」

「何を怒っている。意味が分からぬ」

「私もよく分からないですけど……でも! そんな言い方はないと思います!」


 分かっている、分かってはいるのだ、こんなことを言うべきではないと。それは彼らの関係であって、私には何一つ分からないもの。本来無関係に等しい私が口を挟むべき点ではない。


 でも。

 こんなことって。


 これでは、こんなでは、ミクニがあまりに気の毒ではないか。


 彼女は期待に応えようとしていた。期待に応えるため全力でいたし、必死だった。それは影のことを嫌いとは思っていなかったからではないのか。さすがに恋愛的な情があったとは断言しないが。ただ、彼女が自身の役割を果たそうと懸命に生きていたことは事実である。彼女には彼女なりの責任感があった、それは確かに見ていた。


「それでは、少しでも気に食わない者は殺すと、そう仰っているようなものです」

「そうだが?」


 炎のような影は否定しなかった。

 彼からすればそんなことはどうでもいいことなのかもしれない。


「それのどこに問題がある? 失敗を重ねた者が処分されるのは当たり前のことだろう。むしろ、数回失敗を見逃してやっただけ優しい方だろう」


 分からないわけじゃない。

 失敗続きで許されるほど世の中はあまくない、っていうのも。


「ま、世には失敗に寛容な者もおるわな。だがそれは馬鹿としか言えぬ。無能は足を引っ張るばかり。そんなやつを生かしておれば、いずれ己に災難が降りかかるというのが世の常――それはお主が一番知っておるだろう。……のう?」


 私が皆の足を引っ張っている、暗にそう言いたいのか。


 そんな嫌みを言って何が楽しいのだろう。

 まぁ私が迷惑をかけていることは事実だけれども。


「だがまぁ一応お主には感謝はしておる。お主が足を引っ張ってくれているおかげで作戦をこうして順調に進められているのだからな」

「……本当に嫌みばかりですね」

「さて。では挨拶はここまでとしようか」


 ミクニの肉体はまだ倒れたまま、動いている様子はまだ少しも確認できていない。

 取り敢えず敵は一人減った――でも、もしかしたら彼女より厄介かもしれないような敵が現れてしまったので、正直、まだ何も解決していないも同然だ。

 むしろ状況が悪化しているような気さえしてくる。


「さらばだ、若きクイーン」


 影はそう言うとほぼ同時に黒い電撃のようなものをこちらに向けて放ってきた。


 一撃目はその場から飛び退いて何とか回避。しかし休む間もなく次が来る。体勢が崩れていてまずい。対処できそうにない。


 これは駄目なやつ、と、反射的に身を縮め目も閉じる――。

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