episode.41 不安と危機と
海のプリンスは言葉を選ばない。躊躇などしない。だが悪気があるわけではないのだろう。彼は思ったことを真っ直ぐに言う、いつだってそう。それが彼という存在なのだ。彼は決して遠慮などしないし、気持ちは口に出す。
そう分かっていても、はっきり言われると悲しくもなる。
彼は何も間違っていない。
私がしっかりしなくてはならない、それもまた事実だ。
巻き込まれること、壁にぶち当たること、すべてを受け入れてクイーンになった。それはつまり、もう決して逃げられないということ。クイーンとなることを選んだ瞬間から、私はその運命を受け入れなくてはならないこととなったのだ。
分かっているつもりだった。
あくまで、自分の中では、だが。
『フレイヤちゃん、気にしないでー。彼はすぐそういう意地悪なことを言うのよ。そういう性格なの。だからね、気にしないで。心配しなくていいのよー』
森のプリンセスはそんな風に言ってくれるけれど。
でも申し訳なさは消えない。
消えるわけがない、そんなくらいで。
「……私が力不足なのは事実です」
自然と視線が下を向く。
誰のことも真っ直ぐには見られない。
『ええーっ!? まさか落ち込んでますっ!?』
口を挟んでくるのは愛のプリンセス。
『酷いこと言われたからですかっ!?』
「いえ、違うんです。自分の力のなさが情けなくて……ただそれだけなんです」
『嘘ですよねーっ!?』
愛のプリンセスは握った両手を顎の前あたりに置いて目をぱちぱちさせる。
『フレイヤちゃんを傷つけるなんて、いくら海のプリンスでも許せないわ』
『はぁ? いちいち出てくんなババア』
森のプリンセスと海のプリンスはまたしても険悪な空気になる。
『……ま、無駄な争いね。無意味だわ。フレイヤちゃん、放っておけばいいのよー。あんなの、相手するだけ時間の無駄だわー』
こうして通信での会合はお開きとなった。
皆の関係には心配な点が多いので、本当に、不安しかない。いや、その不穏さを招いているのは私でもあって、文句を言えるような立場ではないのだけれど。しかしながら、これから起きることを思うと、どうしても不安しか湧いてこないのだ。
◆
少し居眠りしてしまっていて、ふと目が覚めた瞬間――私はすぐそこにミクニが立っているのを確かに目にした。
「……っ!!」
意外の存在を目撃してしまったことに驚いてがばっと上半身を起こす。
そしてすぐに後悔する。
起きたと分かられるようなことをするべきではなかった、と。
だがもはや手遅れで。
「あら、お目覚めのようね」
ミクニは確かにこちらを見ていた。
唇にうっすらと笑みが浮かんでいて不気味だ。
まずい。ミクニを包んでいたリボンがどうなったのかという点も気になるが、そんなことはどうでもいいと言えるほどのまずさだ。うたた寝している間に殺されるという最悪のパターンだけは回避できたけれど。起きたことに気づかれてしまった、これもまたかなり危険な流れである。
フローラがいる時なら良かったのだが……残念ながら彼女は今ここにはいない。
「本来であれば何を言わず仕留めるべきなのでしょうけれど……そうはしないでおくわ。それより、聞きたいことがあるの」
……すぐに攻撃する気はないということ?
ならばまだやりようはあるかもしれない。
即座に仕留めようとしてくるとなると抵抗することさえ難しい。でも、現時点で仕留めようとしてこないのなら、話は少しばかり変わってくる。
彼女の中にある『私を仕留める』という発想さえ掻き消してしまえれば。
「聞きたいこと、ですか?」
「そうよ。ここはどこなのかしら」
……本当のことを伝えて問題ないのだろうか?
「ここ、は」
「ちょっと何なの? ここがどこか知らないの?」
とても迷ったけれど。
「……ここは、クイーンズキャッスル、です」
本当のことを言ってしまった。
込み上げてくる罪悪感――それを掻き消すように、今はそれどころじゃないんだ、と自身に言い聞かせる。
「あらそう。通りで見かけないところだと思ったわ。……どこもかしこも白いわね」
「はい」
しばらく周囲を見回していたミクニは、数秒の沈黙の後、僅かに目を伏せる。
「記憶がないのよね。あたしったら何をしていたのかしら」
リボンに包まれていた間のことは覚えていないみたいだ。
「ま、いいわ。そんなことどうでもいいことだもの」
「……はい」
これからどう展開していくのか、まったく想像できない。
私はどうなってしまうのだろう。
殺されたくはない。だから、もし攻撃されたとしても、せめて少しくらいは反撃しようと思う。プリンセスやプリンスのようには戦えないかもしれないけれど。それでも黙ったまま大人しくしているまま殺されるのは嫌だ。
できれば戦いは回避したいが。
「さて。これからどうしようかしら」
低めの声でじっとりと言い、それから彼女は私へ視線を向けた。
「ここらで金星をあげるべきかしら……?」
視線が重なる。
目を逸らせない。
……なぜだろう、今は目を逸らしてはいけない気がする。
「待ってください」
聞き入れてもらえる可能性は低い。
それでも言わなくては。
「戦う必要はないはずです」
「あら、そうかしら」
「そうです。そもそも、本当は誰も戦わなくていいのです。悲しみが生むのは悲しみだけです」
「そうかしら? ……説得力がないわ。だってお仲間も戦っているじゃない」
そうだろうか。
そもそも向こうが仕掛けてこなければ戦いは起きない。
「私たちには戦う理由などないはずです」
「理由ならあるわよ。戦う運命、という理由が」
「そんなものは変えられます!」
戦うこと、それが定めだから、人は戦うのか?
そんなことなら、その定めそのものを叩き壊せばいい。
「戦う必要はありません。……どうか、そう考えてくださいませんか」




