episode.25 可憐な花
「剣のキャッスル奪還!?」
その話を聞いた時、私は思わず大きな声を発してしまった。
剣のプリンセスが言うには、自力で剣のキャッスルを取り戻しに出掛けてくるらしい。その内容自体に驚いた部分もないわけではないけれど、私が一番驚いた点は厳密にはそこではなくて。あまりに急だったから驚いたのである。
ただ、剣のキャッスル奪還もいずれ通らなくてはならない道であるということは理解している。
急過ぎて驚いてしまっただけで。
「これまた急ですね……」
「うん、驚かせちゃってごめんね」
「剣のプリンセスさんが一人で?」
「そうそう」
盾のキャッスルを奪還した時だって数人でかかってようやく奪還できたくらいだった。そこそこ苦戦もした。なのに今度は一人で取り戻しに行くというのか。もちろん剣のプリンセスの戦闘能力が低くないことは分かっている。それでも、一人でというのは、どうしても不安に思わずにはいられない。彼女を信頼していないわけではないけれど。
「……私も一緒に行きましょうか?」
一応言ってみるが、剣のプリンセスは首を縦には動かさない。
「ううん! 大丈夫!」
その表情は快晴の空のように澄みきっている。
発する言葉は偽りなど少しもない本心そのものなのだろう。
「そうですか……分かりました」
「え。あたしもしかして何か悪いこと言ってる?」
「いえ、そんなことはありません」
少し間を空け、続ける。
「どうかご無事で」
私には祈ることしかできない。
すべてが上手くいきますように、と。
◆
剣のプリンセスは出掛けていき、クイーンズキャッスルに一人になってしまった。
私は座に腰を下ろしてはぁと溜め息をつく。もっとも、何が生んだ溜め息かなんてよく分からないけれど。
そんな時、通信が入った。
『いきなりすみませんね、クイーン。調子はいかがです?』
連絡してきたのは杖のプリンセスだった。
「あ、はい、元気です」
『それは何より。安心しました』
私を気遣ってくれているのだろうか?
あるいは別の用事なのか?
「あの……何か用事でしたでしょうか」
一人もやもやしていても生産性がないので、直球で尋ねてみることにした。
杖のプリンセスは嫌そうな顔はしなかった。
『剣のキャッスルの件はお聞きになりました?』
「はい。聞きました。剣のプリンセスさんがお一人で行かれると」
『そうなのです。良かった、きちんと伝わっていたようで』
パネルに映る杖のプリンセスの表情が僅かに柔らかくなった。
『それに関係する件なのですが、剣のプリンセスの代わりとして森のプリンセスの遣いを派遣することになりました』
「遣い? ウィリーさんですか?」
『いえ、彼ではなく、フローラです』
フローラ。
その名は森のプリンセスから聞いたことがある。
少し前のことになるので若干怪しい部分はあるけれど、確か、妖精の一種で女性と聞いた記憶がある。ただ、この前の通信の時も説明してもらおうとは考えていなかったため、結局彼女のことはあまり知らないままだ。
「そうなんですか」
『はい。その点に関しましては、森のプリンセスが決めたことのようでした』
フローラと自然に知り合えるよう配慮してくれたということだろうか。
『そういうことですので、よろしくお願いします』
「は、はい! 分かりました!」
こうして杖のプリンセスとの通信は終了した。
フローラが来てくれるのか。それはつまり、一人にならず済むということだ。森のプリンセスの気遣いや親切さには感謝しかない。ただ、派遣されてくるのがまだ知り合いでないフローラであるというところに、多少不安もある。妖精と聞いているが、彼女にもきっと人格はあるのだろうから、上手く付き合えるだろうかという心配はある。
それから数時間が経った頃。
突如五本ほどの花が降ってきて、地面に突き刺さった。
いきなりのことに驚き言葉を失っていると、一筋の光が空中から駆け下りてきた。流れ星のようなそれは、私の目の前まで来ると、人に似た形へ姿を変える。
頭のてっぺんから足の裏までの長さは、私の腕の指先から肘くらいまで。
背中には半透明な羽根が生えている。
「ふふ、びっくりした?」
派手ではない薄めのラベンダーカラーの髪を後頭部の高めの位置で大きなお団子にしていて、煌めく宝玉のような瞳はミントグリーン、耳は人のそれより心なしか先端が尖っている。チョーカーには小さな花の飾りが二つほどついている。ワンピースも他と同じくラベンダーカラーとミントグリーンというカラーリングだ。
「あ……貴女は」
「アタシ、フローラ! 森のプリンセス様から派遣されてやって来たのよ。ま、よろしくね!」
人に似た容姿なのに、小さくて、宙に浮いている。
これが妖精という種族か。
絵本やら絵画やらで妖精という存在が出てきているのを見たことはあるが、実際に目にするのは初めてかもしれない。
あくまで架空の存在という認識だった。
だがたった今証明された。妖精は確かに存在しているのだ、ということが。目の前に浮かんでいる彼女の存在が、その種族の存在を証明している。
「フローラさんでしたか。来てくださってありがとうございます」
「気にしないで!」
「心強いです」
「何でも任せてよね! こう見えてアタシ結構強いのよ!」
なぜ強さの話になるのか。
正直そこは今の話にあまり関係ない気がするのだが。
「アタシ、弓が得意なの! 小さくてもそう簡単には負けないのよ!」
フローラは宙で軽やかに回転しながらそんなことを言う。
それも自慢げな顔で。
「それは……凄いですね」
「ちょっとその顔は何なの? むー。もしかして疑ってるの?」
「そんな! 疑ってなんていません!」
「ふっふーん。冗談なのよー。ふざけて言っただけなのよー」




