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episode.13 新たなるクイーンの誕生

 溢れる白い光、吹き荒れる強い風。

 視界が揺れる髪で埋まる。


 そして正気を取り戻した時、私は、白色のドレスを着用していた。


 胸もとには硬めのレースのようなものがつけられているが、全体は絹のように見える滑らかめの生地。丈は足首の辺りまで。自然に広がった裾には金の糸で刺繍が施されている。袖は七分袖くらいの長さ、腕の部分はやや半透明な生地になっている。


 また、靴も変わっていた。

 これまた真っ白なハイヒール。


 とにかく白、ひたすら白。身体そのもの以外、すべてが白色に染まっている。もはや笑ってしまいそうなくらい白まみれ。


「ここに、新たなるクイーンの誕生を宣言する」


 無意識に口が動いていた。


「フレイヤさん……! いえ、クイーン。ご立派です」


 杖のプリンセスがそう言って深くお辞儀するのを見たら何だか恥ずかしくなってしまって、目の前にいる彼女を直視できない。


「あ……その、なんというか……口が、勝手に……」

「かまわないのです。宣言なさるのは何もおかしなことではありません」

「そ、そうですか……」


 その時、女の子の声が飛んでくる。


『わぁーっ! きれーいっ!』


 声の主は愛のプリンセスか。

 この姿はどうやらプリンセスプリンスたちにも見えているようだ。


『素敵ーっ! 結婚式のドレスみたーいっ!』

「え。愛のプリンセスさんは意外と人の世の文化に詳しいんですね」


 プリンセスはそんな文化は知らないだろうと思っていただけに、驚きを隠すことはできなかった。

 きょとんとしていると、森のプリンセスが口を挟んでくる。


『彼女はね、元々人間なのー。だから詳しいのよー』

「そうなんですか!?」

『それにしてもフレイヤちゃん、とっても綺麗よ。わたしのお嫁さんにしたいくらい』

「あ……ありがとうございます?」


 なぜそんな話になるのか謎だが、まぁ、その辺は気にするほどのことでもないのだろう。


「ところで。盾のプリンス、何か言いたそうな顔をしていますね」


 杖のプリンセスが唐突にそんなことを言い出した。

 しかしすぐに反応は返ってこない。

 確かに、パネルに映し出されている彼の表情は少々不自然だ。というのも、一点だけをじっと見つめているような、妙な目つきをしているのである。


「盾のプリンス?」

『…………』

「何なのですか? ふざけているのですか?」

『……あ』


 ハッとしたような顔をし、盾のプリンスは話し始める。


『失礼。少しぼんやりしてしまっていました』

「特に何か言いたいことがあるわけではないのですか?」

『はい』

「そうですか。分かりました」


 杖のプリンセスは大きな反応はしなかった。

 眉一つ動かさず、どこまでも事務的に口を動かすのみ。


「では皆さん、これにて一旦お開きとします」


 杖のプリンセスが集まりの終わりを告げると、プリンセスプリンスたちは急激に身体の力を抜いたようだった。気も緩んだようで「だるかった」だなんだと言い出している者までいる。


 皆との通信が切れる。


 その後、私は、着ていた衣服について杖のプリンセスに尋ねた。あの服はどこにいってしまったのだろうか、と。しかし、明確な答えは貰えず、しまいには分からないというようなことまで言われてしまった。


 元人間の愛のプリンセスに聞けば何か分かるだろうか? なんて思ったりした。


「クイーン、後ほど剣のプリンセスをここへ派遣します」

「剣のプリンセスさんを?」

「はい。キャッスルがある者はそこから離れるわけにはいきませんので。その点、剣のプリンセスは今はキャッスルがありませんから」


 少し間を空けて、杖のプリンセスは問う。


「他に何か質問はありますか?」


 質問、か。

 いざ確認されるとパッとは思いつかない。


「今はちょっと、特には思いつきません」

「そうですか、分かりました。ではまた何かあれば通信で。お願いします」

「はい……! ありがとうございます」


 そうして杖のプリンセスと別れた私は取り敢えず椅子に座っておいた。というのも、できることがそのくらいしかないのだ。周りには誰もいないし、用事があるわけでもない。だから椅子に腰掛けるくらいしかすることがない。


 一人寂しく待つことしばらく。

 カランと小さな鐘のような音がしたと思ったら、座から見て右手側に伸びる通路から剣のプリンセスが姿を現した。


「来たわよ、フレイヤさん」


 まるで力強く燃える炎であるかのような色みの長い髪に、全体的に革製のような衣装。

 露出はそこそこ多いのに健全な雰囲気を漂わせている。


「剣のプリンセスさん! 来てくださってありがとうございます」


 久しぶりに人を見た気がした。

 いや、厳密には、人のような存在と表現するべきか。


「本当にクイーンになっちゃったわね!」

「そうなんです……。お恥ずかしいです……」

「いやいや! そんなことないって!」

「そうですか?」

「似合ってるよー!」

「ありがとうございます……」


 ドレス姿で彼女に直接会うのは初めて。それゆえ自然と恥じらいが生まれてしまう。彼女が批判してくる可能性なんて低いだろうからそもそも考えていないのだけれど、それでも照れてしまう。


「しばらくここにいるから、何でもあたしに頼って!」

「助かります」


 既にプリンセスプリンス業に携わっている人たちと最近こういうことに関わり出した私とでは経験に大きな差がある。自力ではどうしようもない部分もあるだろう。努力だけですべてが解決するわけではない。


 そういう意味では、剣のプリンセスの存在はきっと大きい。

 これからも色々教えてもらうことになるだろう。


「っていうか、その敬語ちょっと変な気がするのよねー。普通に喋ってよ!」

「えぇ……」

「ウソ。そんなに嫌だった?」

「いえ……そういうわけでは。ただ、この方が慣れているので」

「そっかぁ。オッケー。じゃ、今のままで」


 近くには椅子と球体を乗せた台がある。少し離れたところには数本の通路。しかしそれ以外に家具などはなさそうだ。いや、もしかしたら、どこかにはあるのかもしれないけれど。ただ、少なくともここから視認することはできない。


「ところで、ここでは何ができるんですか?」

「通信はできるし外出も長すぎなければ大丈夫だと思うわよ。あとは……これはさっき杖のプリンセスさんに聞いたのだけれど、クイーンズキャッスルは他のキャッスルが全部乗っ取られない限り敵襲の危険性はないらしいわ」


 人の世でも、杖のキャッスルでも、森のキャッスルでも、敵に襲われた。

 それだけに敵襲の危険性はないなんて言葉をすんなりとは信じられない。


「それは……本当なんですかね」


 もしかしたら本当にそういう仕組みなのかもしれないけれど、はいそうですかとすんなり信じることはできなかった。


「あたしもよく分からないけど」

「ですよね、すみません」

「ま! とにかく気楽にいっていいと思うわよ」

「頑張ります……!」

「力抜いて力抜いて」

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