episode.14 二人で、は、絶対嫌です
盾のキャッスル――その中央にある座に腰を下ろしているのは、盾のプリンスではない。
「アザリケは捕まった、か……」
やや灰色がかった肌の女性。四肢はすらりと伸び、背も女性にしては低くない、そんな人物だ。赤紫のウェットスーツのようなものを着用している。唇には紅を塗り、瞼は青く染め上げて。軽くまばたきするたび、長い睫毛が大きく上下する。
今、盾のキャッスルは、悪の手に落ちている。
この地は既に悪のもの。
座に座るのは、盾のキャッスルを乗っ取る際に指揮していた女性ミクニ。彼女は今、全身黒タイツの部下より、仲間アザリケに関する報告を受けているところである。
「はい。生死は確定できていませんが、どうやらそのようです」
「実に残念なことね」
ミクニはそう言って、黒に近い色の長い髪をわざとらしく掻き上げる。
彼女の周りには数名の女性がおり、一人一人が手に大きめの扇子を持って、座に腰を下ろす女性に風を送っている。
「ま、元々それほど使えないと思っていたけれど」
紅を塗りつけた唇を優雅に動かす。
「救出のため誰かを派遣しますか?」
全身黒タイツは尋ねた。
しかしミクニは首を横に振る。
「いいえ。その必要はないわ。わざわざこちらから出向きたくないのよ、分かるかしら」
「は、はぁ……そうですか……」
「アザリケにそこまでの価値はないし。そ、れ、に」
「はい?」
「いずれあちらから攻めてくるでしょう。このキャッスルを取り戻すために。アザリケを回収するにしても、その時を待った方が効率が良いわ」
「な、なるほど……!」
ミクニは右隣の女性の顎に指先をかけ、その頬にキスをする。
「下がっていいわ。また何か新たな報告があれば伝えに来て」
「承知しました」
全身黒タイツは一礼してそそくさと去っていく。
その場にはミクニと扇ぐ係の女性たちのみが残った。
全身黒タイツがいなくなると、ミクニは座から立ち上がり、近くの棚の前まで移動する。壁から生えているかのように作られた金属製の棚は二段あり、それぞれ小瓶のようなものがいくつかずつ置かれている。小瓶の中身の形状は色々で、錠剤のようなものもあれば液体のものもある。
「しっかし本当に、何なのかしら。こんな怪しいものばっかり置いて。気味悪いわ」
ミクニが「ね?」と同意を求めるように女性たちの方を見ると、女性たちは「はい」「仰る通りです」などと返した。
◆
『どうです? 調子は。問題は発生していませんか?』
「あ、はい。剣のプリンセスさんには色々助けていただいています。おかげで問題なしです」
今日は杖のプリンセスが連絡してきてくれた。
クイーンズキャッスルに住み始めて二日目のことである。
『そうですか。それは安心しました。では本題に入ります』
「本題?」
『盾のキャッスル奪還に関して、です』
いつかは通ることになる道、か。
でも不安はある。いや、厳密にはそうではない。戦いになるのだとしたら不安しかない。生き抜く自信がないし、皆の力になる自信だって欠片ほどもない。
たとえクイーンだとしても。
全知全能になったわけではないし。
『盾のキャッスルは現在敵が占領しています。ちなみに、先日拘束した少年の話によれば、代表者は女性とのこと。もっとも、性別などあまり関係ありませんが。念のため』
杖のプリンセスは淡々と言葉を紡ぐ。
感情を読み取らせない口調だ。
「あの、今さらかもしれませんけど、どうすればキャッスルを取り戻せるのですか?」
『座につく者を意識不明にすれば良いのです』
私の隣に立っている剣のプリンセスは「敵が盾のプリンスをそうしたみたいに、ってわけね」と独り言のように呟いていた。
『ただ、盾のプリンスが自力で奪還するとなると成功率が限りなく低いため』
酷い言われようだ。
盾のプリンスだって、あの無自覚な握力を使えば――っと、これ以上は余計か。
『剣のプリンセス、同行してください』
「はい!? あたしっ!?」
『盾のキャッスル奪還に協力してやってください』
「本気で言ってます?」
剣のプリンセスは凄く嫌そうな顔をした。
そこまで嫌な顔をしなくても……と思ったことは彼女には秘密にしておこう。
「先に言っときますけど。二人で、は、絶対嫌です」
剣のプリンセスは両手を腰に当てながらきっぱりと言い放つ。
『断らないでください』
「喧嘩なりますもん! 絶対! 無理ですよ」
『そこを何とか』
その時ふと思いつく。
二人で、が嫌なのなら、二人でなければ良いのではないかと。
「杖のプリンセスさん、少し構いませんか?」
思いきって割って入ってみた。
『何でしょうか』
「私も同行して構いませんか? それなら二人にもなりませんし、三人になりますし」
『クイーン……』
困り顔になる杖のプリンセス。
私はすぐ横にいる剣のプリンセスへ視線を向けて「三人なら大丈夫ですよね?」と尋ねてみる。すると剣のプリンセスは少し呆れたような表情を浮かべ「なるほど考えたわね……」と返してきた。それから数秒空け、彼女は「それならいいよ」と続けた。
「ということですので、三人で行って参ります」
『そうですか。分かりました、ではそれで。クイーン、どうか、お気をつけて』
「ありがとうございます」
『盾のプリンスには一旦そちらへ行くよう伝えておきますので。失礼します』
そこで通信は切れた。
思いつきのままに言ってしまったが、私も同行する、なんて滅茶苦茶過ぎる話だ。素人でしかない私が参加して何ができるというのか。恐らく足を引っ張ることくらいしかできまい。
「奪還なんて……できるでしょうか。今さらですけど、自信がなくなってきて……」
「大丈夫よ! きっとできる!」
剣のプリンセスはこんな時でも明るい。
面を上げて、迷うことなく、拳を突き上げる。
「あたしが戦うから! 頑張るから!」
「は、はい……!」
「どう? できる気になってきた?」
「あ、いや、その……自信はまだあまりないですけど……」
その後盾のプリンスがクイーンズキャッスルへ来てくれた。
久々に直接会ったが、どことなくぼんやりしている部分があって心なしか不安だ。それでも、もはや引き返すことはできない。今は進むしかない。
「盾のキャッスル奪還大作戦! 頑張ろ!」
剣のプリンセスが中心となって宣言する。
「は、はい!」
取り敢えず返事をしておく。
「騒がしい」
盾のプリンスは相変わらずテンションが低い。
そして、剣のプリンセスへの接し方が、妙に冷たく心ない。
「はぁ!? ちょっとは物の言い方を考えなよ!!」
「うるさい」
「あーもういい加減にしろーっ!」




