全てが終わった後
最終章です。
長い……、とても長い夢を見ていた。
それは甘くて切なくて……、とても、淋しい夢だった。
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「おっと、いけない……」
久し振りにうっかり、PCを点けたまま、うたた寝をしてしまったようだ。
25歳も半ばだというのに、これは恥ずかしい。
こんな隙だらけの状態。会社でも、友人たちにも見せられないよね。
―――― でも、彼なら?
不意に、何かの思考が混ざった気がする。
気のせいだ。
わたしの友人に男性はいない。
会社は男性の方が多いけれど、社会人経験も数年しか積んでいないような小娘の失態を笑って許してくれるほど甘い人たちはいない気がした。
わたしは、何気なく……、開かれたままのブラウザゲームを閉じていく。
「このブラウザゲームもそろそろ、飽きてきたな……」
ディスプレイには、ログインボーナスを受け取り、キャラクターたちの育成もせず、ストーリーも碌に進めていないゲームが映し出されたままだった。
一日限定無料のガチャを回し、たまに運営からメンテナンスや不具合などのお詫びで貰える宝石を使ってキャラクターの収集だけをする日々。
ああ、なんて空しいのだろう。
課金でもすれば、気分が盛り上がるかもしれないが、そこまでの情熱を最近のゲームに対して持ち合わせてはいなかった。
でも、学生時代は違った。
特に、その時代にドハマりしていたゲーム「救いのみこは神様に愛されて! 」、略して「すくみこ! 」に至っては、どれだけプレイしても時間が足りないぐらいだった。
あの世界に入りたい……。
まだ幼かった思考は、そんな領域にまで達していたぐらいなのに……、何故、それを忘れていたのだろう?
―――― もう、戻れない。
不意に、何かが頬を伝った。
「あ、あれ……?」
わたしは何故か、泣いていたのだ。
仕事疲れだろうか?
今日もいつもと変わらなかったはずなのに……。
もしかしたら、うっかりうたた寝してしまったことから考えても、目の使い過ぎだったかもしれない。
気を付けなければ。
もう、若くはないのだ。
―――― 学生のあの人とは、違うのだから。
……なんだろう?
先ほどから、何か、不思議な思考が割り込んでくる。
確かに、自分の考えではあるのに、どことなくいつもと違う考え方をしているような?
「疲れかな?」
そう呟きながら、目を擦った後、残りのブラウザゲームも順番に閉じていく。
流石に、ブラウザゲームをいくつも同時に立ち上げて、インターネットをしながら、2窓どころか4窓プレイというのは、やりすぎのようだ。
少し、自重しなければならない。
最後の一つを閉じた直後……、なんとなく、自分の頭の上を見てしまった。
何かの気配があったわけではない。
本当に、なんとなく……だ。
そこには……、当然ながら、見慣れた天井しかなかった。
特に、機械的な音も聞こえることなく、静まり返ったいつも通りの自分の部屋。
いつも通りの「宮本陽菜」の生活。
―――― ただ、元に戻っただけ。
それだけが分かれば良い。
もともと、華やかな生活をしていなかった人間だ。
昨日と変わらず、刺激もない退屈な世界に戻っただけ。
それだけのことだった。
ただ……。
―――― ここにはあの人がいない。
そんなよく分からない思考が……、どうしても頭から離れなかったのだった。
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何かがずっと頭の中にある。
なんだか、とても、大事なものを忘れてしまったような違和感。
だけど、それが何かを思い出せないようなもどかしさがずっとあって……。
でも、そんな感覚も、日々の忙しさの中に溶けていく。
胸を擽るような思い出ともに……。
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ある日、なんとなく、仕事帰りに本屋に寄った。
最近は通販で済ませていたから気付かなかったが、かなり異世界モノが小説、漫画と共に増えていた。
なんだろう、この量。
既に書棚の一角を占めていると言うか……。
そして、「転生」、「異世界」、「乙女ゲーム」……。そんな分かりやすい世界観を示す単語が並んでいる。
どうやら、人類は、転生しなければ「乙女ゲーム」の世界にはいけないらしい。
「『乙女ゲーム』の世界も、実際は、ゲームほど煌びやかではなかったけれど……」
そう呟いた直後……、自分でも阿呆な発言をしていることに気付く。
26歳も目前にした女が、何を非現実なことを言っているのだ? と。
これでは二次元と現実をごっちゃにしているイタい人間だ。
確かに、学生時代は少しばかりそんな阿呆なことを、思い描いていたこともあるけれど、今はちゃんと分別の付く大人のはずなのに……。
人間はそう簡単に成長できないってことなのだろうか?
そんなことを考えながら、別のコーナーに足を運んで……、ふと止める。
「これ……」
学生時代にハマっていたゲームの原作だった。
でも、あまりゲームとは関係ない話だとも聞いている。
……そして、かなり古い作品なのに、何故かこの本屋では全巻揃っている。
最近、ほとんど見かけなかったはずなのに……。
これは、どんな「運命」なのだろうか?
なんとなく、綺麗な金髪、橙色の瞳を持った女性の顔が出てきた気がするが、気のせいだろう。
わたしに、金髪女性の知り合いなんかいないはずだ。
「う~ん」
困ったことに、学生時代と違って、今のわたしは長編漫画も大人買い出来るぐらいの財力は持ち合わせている。
これまでゲームはハマったが、絵が全く違う原作の方に全く興味は持てなかった。
でも、何故か、気付くとその全てを手に取って……購入していた。
目を丸くした若い店員さんの反応は、分かりやすい。
いい年して、何をやっているのかと、自分でも思うのだから。
そして……、その重たくも、大量の漫画を家に持ち帰って、読み始めて……、号泣することとなった。
なんで、わたしはこれまで原作の方を読んでいなかったのかと後悔したぐらいに。
確かに絵柄は古臭いけど、それでも、内容が凄かったのだ。
平凡だと思われていた主人公の少女が、周囲に助けられ、数々の困難を乗り越えて、成長していくある意味王道の物語。
それだけ聞いてもこの感動はとても、伝わらないだろう。
とにかく、後半に名シーンが多すぎて、語ることに困らない。
主人公が倒れた姿を見て、周囲が奮起するところとか。
親友が全てを懸けて主人公を助ける場面とか。
魅力的な殿方たちの中で、主人公が最終的に選んだ相手とか。
ある意味王道を貫き通した果てにあった、最後の話では、それぞれの登場人物がこれまでの思い出を語ってくれて、泣き続ける以外の選択肢がなかった。
そして、途中、何度もどうなることかと思ったけど、主人公が笑顔で終わることができて良かったと思う。
「これは確かに……、『すくみこ! 』よりも、男性陣がずっとかっこいい」
何故、こちらをそのままゲームにしなかったのだろう?
出てきた男性を見る限り、実際の神様よりもずっと人間らしい魅力に溢れている人ばかりではないか。
でも、最終的にはそれぞれに相手ができるから……、仕方ない気もする。
作者としては、主人公にも男性陣にも、原作以外のカップリングを認めたくなかったかもしれない。
個人的にはこの主人公には別の人を選んで欲しかったから、それを「IF」の世界として見てみたい気もするけどね。
―――― ああ、今なら熱く語れるのに。
この感動を分かち合えるような友人は、残念ながらいなかったのだった。
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その日、わたしは、会社を休んだ。
前日、長編漫画を読み切ったことがたたったのかもしれない。
どうも、身体がだるくて、布団から起きることもできなかったのだ。
そして、病院ではありがたくも「過労」の御言葉を頂戴し、念のため、三日ばかり休むことにした。
よりによって、明日は誕生日だというのに。
でも……、決算前にしっかりと休めと命令に近い状態ではあったので、使う予定もなく溜まっていた有給休暇を消化させていただくことになった。
「誕生日に休みなんて……、何年ぶりだろう」
だが、不意に連休を貰っても、使い道などない。
旅行するにも、この時期に、計画もなくいきなりできるはずもないし、1人では虚しい。
何より、身体がだるい。
学生時代のように、休みにゲームでもしてみようか。
どうせなら、学生時代に戻って、例の「すくみこ! 」でもやってみよう。
原作を知った今なら、感覚も変わっていて、逆に新鮮な気持ちになれるかもしれない。
流石に手元にはないから……、中古ゲーム屋にでも行こう。
自分への誕生日プレゼントとして、今日一日身体を休めてから、明日、買いに行くことに決めたのだった。
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身体がある程度、回復した後、我が家の近くにあるレンタルショップ兼中古ゲーム屋に来た。
久しぶり過ぎて、いろいろ、変わっていることに驚く。
今では、貸本屋もやっているのか、このお店。
てっきり、CDや、DVD、ブルーレイぐらいだと思っていたのに。
そして、ここにも原作は並んでいたが……、先にこちらを知らなくて良かった。
知っていたら、このまま借りてしまっていただろう。
でも、あの物語は手元に置いておいて、何度も読み返したくなるのだ。
長編だから、場所をとるのが難点だけど、電子書籍は目が疲れるから、本を買ったことに後悔はしていない。
そして……、「すくみこ! 」を発見。
少し高い位置にあるそれを手に取ろうと、手を伸ばした時……、横からも同時に手が伸びる。
どこかで見たことがある……、男の人の手。
「ヒカル……?」
その手を見た時、わたしは、思わず何故か、そう呟いていたのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました




