本物を知って
原作を知るアルズヴェールの言葉。
『原作では、人類のほとんどは、「救いのみこ」たちの血を引いているという設定だったはずだ』
わたしは、それを聞いた時からずっと、その台詞が頭に残ったままだった。
人類のほとんどが「みこ」たちの血を引く……。
そんなことがあり得るのだろうか?
今、この「ラシアレス」は、15歳から始まって18歳になっている。
身長は小学校高学年並が、まあ、俗に言う、けしからん胸というモノを持っているので、18歳と言われても納得できなくはない。
本来の「すくみこ! 」が終了する年齢……、20歳ぐらいから40歳ぐらいまで毎年産んだら……、単純計算で20人ぐらい?
さらに、そこからネズミ算式に増やせと……?
いろいろ無理がある。
何より、20人も出産って……、どんなに健康体でも身体がもつ気がしない。
人間ってどれくらい出産可能な生き物なのか?
大体、そんな簡単に人類が増えるなら、人類衰退を防止するために呼ばれた「みこ」って要らなくない?
確かにわたしやアルズヴェール、その他の神子たちも手を入れているせいか、どの大陸も少しずつ、人口が上昇し始めている。
著しい発展はアルズヴェールと赤羽様コンビが守護する火の大陸らしいが、それを追うわたしとズィード様が大切に育てている風の大陸だって負けていないつもりだ。
そして……、その後ろにシルヴィクルたちが続いているようだけど……、他の神子たちも、神様の攻略中にちゃんと育ててはいるらしい。
報告会の出席率やその様子から、務めを忘れて色ボケしていると思っていたけど、そうではないらしい。
まあ、いくら「すくみこ! 」が乙女ゲームとは言っても、毎日のようにイベントが発生していたわけではないし、ある程度、人類を発展させていないと神様からの好感度も自然下降してしまうのだ。
「自分だけを見ろ」と言いながら、「役目を疎かにするな」と言う神様たち。
煌びやかな神々から甘く熱い言葉で口説かれる乙女ゲームと言う実情はともかく、その建前は人類の衰退を阻止するための箱庭育成ゲームだ。
だから、それらの事情を上手く共存させる必要があるのは当然だろう。
今の所、神子の内の誰かが妊娠したとかそんな話はない。
「すくみこ! 」は乙女ゲームだが、R18系のものではなかったために、妊娠エンドはなかった。
もし、そんな生々しいゲームなら、わたしは年代的にできなかったよ。
現実的に考えれば、ヤることヤれば、できることもあるということぐらい、わたしも知っている。現実を思い起こしても、そんな経験は一度もないが。
でも、このまま神様と愛を深めていけば、その可能性はあるかもしれない。
いや、神様ってよく考えれば性別あるの?
あの方々は、確かに男型をしてはいるけれど……。
いや、どこぞの神話の大神様は、迷惑なほど絶倫タイプで、あちこちにいる人間の女性に手を出しては、嫁である女神に怒られる……、を繰り返していたと聞いている。
つまり、神様にも性別があると思っていた方が良いだろう。
そして……、その某神話の方向性から考えれば、百発百中と言っても言い過ぎではないかもしれない。
なんで、かなりの確率で授かるのかね?
個人的には避妊してくれと言いたいが、当時にそんな考え方はなかったか。
でも、問題はそんなところでもなくて……。
アルズヴェールが言った「人類のほとんどはみこの血を引く」という言葉。
この世界は結局のところ、異世界ファンタジー。
そんな無茶な設定があってもおかしくはない。
だけど、実際にその世界で生きる人間たちにとっては、笑ってはいられない。
この世界が「すくみこ! 」に似ていると思っているが、そうなると、わたしが知らない原作設定が隠れていてもおかしな話ではないのだ。
「原作関係ねえ! 」と叫ばれても、原作あっての乙女ゲーム。
知らないところで繋がっている可能性はある。
つまり……、この先に神子たちが、誰かと結ばれて子供ができる未来が待っているということだ。
その相手となるのは、神か人間かは分からないが、現状、神との子供の可能性が高い。
わたしたち「神子」の世話をしてくれるのはほぼ女性だ。
そして、相方である神様は異性に見える。
わたしやアルズヴェールはともかく、他の神子は既に相方の神様に夢中な状態。
なんとも分かりやすい。
以前、神子たちは「純粋培養」と聞いたことがある。
今回、たまたま中身が別の世界から来た意識となっているが……、現実的に考えて、他の異性を知らない状態で、あんな顔面偏差値が高すぎる異性たちに愛を囁かれたらほとんどの女性は何も考えずに受け入れてしまうことだろう。
だって、比較対象がないのだもの。
その状態が良いか悪いかの判断もできないと思う。
そして、比較対象があったとしても、あれだけの高レベルな男性に囲まれては、耐性が無ければ、ころりと恋に落ちてしまっても不思議はない。
そして、現状も大差はないような気がしている。
何しろ、神子たちの中に入っているのは、乙女ゲームに夢中になってしまう人間たちばかりだ。
もしかしなくても、もともと現実の男に興味がない、あるいは、男性に夢を持てないと思っていたかもしれない。
わたしは……、現実の男に興味はそこまでなかったけれど……、だからと言って、二次元の男性が良かったと聞かれたら……、そこはしっかり否定させていただく。
ゲームに嵌っていた当時なら、彼女たちのようになっていたかもしれないけれど……、わたしはもう現実も知っているのだ。
正しく言えば、わたしは……、この生活が始まる直前に、「男性」を知ることになった。
いや、その外見は自分よりも美少女にしか見えなかったし、その性格だって、好みと言うわけではない。
寧ろ、苦手な部類に入ると言える。
それでも……、彼の長所も短所も知るほど、深みに嵌っていく自覚が十分すぎるほどにあった。
普通、短所を知れば、心が離れる気もするのに、逆にそんな部分も彼らしくて「好ましい」と感じてしまう。
もう重症だ。
救いようはない。
救って欲しいとも思わないけど。
始めは、利害関係で結びついた関係だったけれど、今はそんな意識もほとんどなくなっている。
単純に、彼と話したい。
もっと知りたい。
誰よりも傍にいたい。
そんな気持ちに満ち溢れている。
だけど、同時に……。
彼に嫌われたくない。
こんな自分を知られたくない。
何よりも拒絶されたくない。
そんな感情も溢れている。
自分の中に、こんな乙女心が眠っていたなんて本当に知らなかったよ。
もう二十も後半になったと言うのにね。
これまでずっと無縁の生活だったから。
乙女ゲームの恋愛だけで満足していたんだよ。
甘い言葉とありえないシチュエーションだけで、十分、心が揺れたから。
でも、本当は、攻略対象者からの熱く甘い言葉も、自分自身に向けられた言葉ではないことを知っている。
「画面に映った」世界にいる安全な「攻略対象」との「疑似恋愛」は本当に楽だったのだ。
自分に害が及ぶこともなく、そして、自分の本心とは別の「選択肢」でも、相手が満足することを知っている。
言葉一つにいちいち相手に気を使わなくてすむのだ。
それはなんて気楽なことだろう。
まるで、綺麗な言葉だけを言えば、先生や周囲に満足される道徳の時間のようだ。
でも、現実は厳しく、全ては予想外なことばかり。
だからこそ、より多く、より大きく、より激しく自分の心は揺らされ、落ちていく。
自分に向けられた言葉も眼差しも……、画面越しではない世界。
ごく普通の日常会話すら、何よりも得難い宝物。
本来なら嫌な感情である、悲哀も嫉妬も困惑も、彼が関わることで、もっとその深みは色を増し、やがて、甘く幸せな痛みへと変化する。
そんな泣きたいぐらい幸せな異物が混入した後に、作られた攻略対象の定型句が入る隙間など欠片もなかったのだ。
それは……、どんな不具合だったのだろうか?
そして、このことが、後に「ラシアレス」の運命を大きく変える。
いや、この世界の運命と言うべきか。
結果として……、それが良かったのか悪かったのかなんて、遥か先の未来でも分からなかったみたいだけど。
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