迷子イベント
R4.6/3 ルビのミスがあり、修正しました。
乙女ゲームに限らず、一定の条件を満たせば、イベントが発生するゲームは珍しくない。
それは、当然の話だろう。
製作者たちによって、そうなるように指示されているのだから。
では、現実なら?
イベントの発生は偶然であるはずだ。
行動して、一風変わったハプニングがあったとしても、それは偶然がいくつも重なり合って起こる事故のようなものだろう。
だけど……、もしも、この世界が本当に「すくみこ! 」世界だとしたら?
わたしは、この出会いを「偶然」の言葉で片付けられるだろうか?
『偶然だな、ラシアレス』
そうわたしに呼び掛けたのは、相方のズィード様だった。
この方と、何の予定もなく会うことはない。
基本的に、事前に約束しておいて、部屋に訪問してくれる。
これだけなら、ただの偶然だと片付けて良いだろう。
だが、「救いの神子」になって以来、わたしは何度も、書物庫やそれ以外の場所にも移動しているのだ。
それでも、これまでにこの相方のズィード様を含め、他の神様にだってお会いしたことはなかった。
いつもとの違いは何か?
わたしの傍に「付添人」や、「他の連れ」がいないことだ。
あちこちに案内してくれるアイルがいないと必ず迷子になってしまう性質を、わたしは初期の段階で理解していたため、彼女がいなければわたしは部屋から出ないようにしていた。
そう考えると、「すくみこ! 」の「ラシアレス」はかなり脳みそにお花畑が広がっているとしか思えない。
何故、自分から迷子になりに行くのだ?
そして、書物庫ではいつもわたしの傍にアルズヴェールがいる。
会話の内容はくだらない雑談が多いのだけど、わたしはそれで十分満足して……、って、違う。
今回はそっちの話じゃない。
つまり、わたしが部屋から出る時は、必ず誰かがいるのだ。
例外として、神官に会うための部屋では一人になるが、その部屋は「神子」以外、入れないとアイルから聞いているから、神様だって入れないのだろう。
思い出してみる。
「すくみこ! 」内では、自室以外で攻略対象者とデート中の時、移動した先の部屋に先客がいた時は、恋愛イベントが発生しないようになっていた。
まあ、確かに第三者がいるにも関わらず、それでも無視して甘い雰囲気になるというのは乙女ゲームとしてどうかと言う話なのだろう。
……R18な乙女ゲームなら分からないけれど。
話を戻そう。
「すくみこ! 」内では、他の「みこ」や別の攻略対象者は、たまに移動した先の部屋にいることがあるが、その場合、自分と連れている攻略対象者の好感度が上昇し、その逆で、出会ったのが「みこ」なら、自分が連れていた攻略対象者とその「みこ」の好感度が下がり、別の攻略対象者ならプレイヤー自身との好感度が下がるようになっている。
ある意味、分かりやすい……というか、それは自然な流れではある。
相手からすれば、「自分よりも他の相手が良いのか!? 」って話だからね。
プライドが高ければ高いほど、相手が嫌になるだろう。
ただこのデート中の邂逅による好感度変動イベントの恐ろしい所は、場所によって、複数人と出会う可能性があるところだ。
1位は温室。
温室だというのに何故か庭園デートと呼ばれるのは、植物いっぱいなのはともかく、温室に見えないほど広い上に、唯一庭っぽさを感じる場所だからである。
かなり広いため、なんと最大6人の人間に出会うことがあるらしいが、流石にそこまで会ったことはない。
何かの偶然が重なれば、連れている攻略対象者以外の、神様たちの好感度が一気に数人下がることもある場所だった。
その分、一緒にいる攻略対象者の好感度は爆上がりとなるため、一気に好感度を上げたい場合は、攻略対象者との会話もいろいろ面倒だけど、そこに向かうプレイヤーは多かったらしい。
2位は祈りの間。
ここでは、最大4人に出会った。
この世界で言う神官たちと会う部屋だけど、「すくみこ! 」内では、他の人も入れたためだろう。
3位は書物庫。
ここでは、最大3人に出会う。
でも、この世界ではほとんど、わたしとアルズヴェールがいるためか、あまり、他の人は来ない。
シルヴィクルが来ることは何度かあったけれど、アルズヴェールが少し、席を外した時ぐらいだった。
そして、シルヴィクルと会話中の時は、アルズヴェールは戻ってこない。
当人は見つかりたくないので、隠れていると言っていた。
……うん。
気にしたこともなかったけれど、さり気なくこんな所にもプログラムっぽさがあったようだ。
『ラシアレス?』
いつまでも、返答をしないわたしにズィード様が再度、声をかける。
「あ、はい! 本当に偶然ですね、ズィード様!」
自分で言っていても、どこか白々しさを感じる。
いや、だって、偶然じゃないよね? これ……。
この建物内の特定の場所を除いて姿を見ない神様と、たまたま迷子になって別の場所にいたわたし。
こんなイベントが偶然、現実で発生する確率ってどれだけ低い?
しかも、この出会いも先ほどまで一緒だったアルズヴェールが離れてからだった。
それって……。
『困っているようだな、ラシアレス』
まるで心を読まれたかのような言葉に、背筋に冷たいものが流れ落ちる感覚があった。
『ここは貴女の部屋からかなり離れているが……、まさか迷ったか?』
迷ったのは確かだ。
そして、若干の違いはある気がするが、ラシアレスの迷子イベントで現れる攻略対象者たちの台詞と同じだ。
選択肢が発生し、「迷子です」と答えれば、その攻略対象者と自室デートに繋がり、そこで発生の時間帯に限らず一日の行動が終わる。
その反対に「迷子じゃないですよ」と答えれば、そこでイベントが終了し、午前に発生していれば、午後の行動に移り、午後に発生していれば、一日の行動が終了するようになっていた。
だけど……、素直に答えて良いものだろうか?
暫くすれば、何故かわたしの居場所が分かる不思議な能力の持ち主、アイルが迎えに来てくれることは分かっている。
それは、一年目、何度か迷子になったことで証明されていた。
「いえいえ、違います」
わたしがそう答えるとズィード様は目を細めた。
『ラシアレス、隠さなくて良い』
お?
『貴女の強さは魅力だが、無理をせず、不安な時ほど頼って欲しい』
な、なんかズィード様の様子が……。
そして、これは迷子イベントだけじゃなくて……、自室でデートイベントも混ざっているような……?
あれは確か……、そろそろ期限が近づき、不安を隠して強がるラシアレスに向かって、相方の「橙羽」様が珍しく真面目な口調で「自分の前では隠さず頼れ」と、言うのだ。
いつも軽い言葉だったあの方の意外な一面……ってやつだが、ズィード様はもともと、真面目な方ではある。
これがシナリオ通りの台詞かは判断できない。
そう考えていても、事態は待ってくれない。
ズィード様がわたしの手を取った。
『ラシアレス……。ここで迷っていたのか?』
なんだろう?
この強制イベントの香りは……。
まるで、「はい」か「いいえ」が表示された選択肢で、「はい」以外言わせないような迫力を感じる。
えっと……これは……?
「ラシアレス!」
わたしが迷っている間に、別の所から、声が聞こえた。
この声は……?
『火の大陸の神子……?』
ズィード様が呟きながら、わたしから手を離した。
その表情は読みにくい。
「これは、ズィード様。ご無沙汰しております」
そう言って、背後から現れたアルズヴェールは優雅に一礼をした。
……ちょっと待って? あなた、中身は殿方でしたよね!?
「そこのラシアレスを自室へ案内しようとしたところ、急にいなくなってしまって探しておりました」
……あなた、自分から離れたよね?
『……自室?』
「はい。ラシアレスは私の親友ですから。女同士、何の問題もないでしょう?」
なんだろう。
空気がピリッとしてきた気がする。
『本当か? ラシアレス』
「は、はい! アルズヴェールの部屋に向かうところでした!!」
嘘は言っていない。
『そうか……。ならば、良い。邪魔したな、ラシアレス』
そう言って、ズィード様はアルズヴェールに対しては何も言わずに、行ってしまったのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




