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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第2章】乙女ゲームの始まり
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余裕がない

「あ~~~っ!! もうっ!!」


 わたしは、自分のベッドに思わず突っ伏した。

 ぼふっと柔らかい布団や枕たちが、わたしの奇行を受け止めてくれる。


 勿論、アイルは先ほど部屋から退室させている。

 流石に、わたしを尊敬の目で見てくれている彼女の前で、こんなことはできるはずがないだろう。


 わたしがやや荒れているのは、勿論、昼間の出来事のせいだ。


 同じくこの「すくみこ! 」世界での主人公であるアルズヴェールが、わたしに向かって書いたこの文字。


 ―――― 中身も可愛い


 文字と言うのは、必要以上に頭に残ってしまうものだ。


 そうなると、ある意味、口頭で告げられるよりもずっと破壊力が高い兵器になるかもしれない。


 そして、あの場所で書かれたモノは、どんな落書きや雑談でも、わたしは持ち帰るように心がけていた。


 この世界の住民たちにこの文字を理解することは出来なくても、他の神子たちは、この言葉が馴染みある日本語だと知っているのだ。


 どこから余計な情報が洩れるか分からない。


 だから、あの時のメモも、資料の一部として持ち帰りはしたが、結果として、何度も見ることになってしまう。


 そのことも、かなり腹立たしく思えた。


「なんなの、あの男!!」

 大体、会って数日の異性(わたし)の中身など、どれぐらい分かっていると言うのか?


 いや、わたしの方だって彼について少しぐらいなら既に分かっていることはある。

 そこは認めよう。


 あの「アルズヴェール」の外見だけは誰が見ても文句なしの美少女だが、中身はただの軽いチャラ男だ。


 それだけは絶対に間違いない。

 断言できる。


 それも、彼女がいると宣言しておきながら、目の前に自分の好みにドンピシャな美少女がいれば、初対面でもあっさりキスできちゃうような最低男だ。


 だが、そんなことはどうでも良い。


 一番、問題なのは、そんな男だと分かっているのに、その軽すぎる言葉に簡単に振り回されてしまう自分なのだ。


 確かにこの歳になるまで、まともに恋愛してこなかった自分がいけないのだろう。


 自分が心ときめく相手と言えば、乙女ゲームの殿方ばかりだったことも悪かったかもしれない。


 だから、簡単にちょっとした褒め言葉で、簡単に転がされてしまうのだ。

 それはもう面白いようにゴロンゴロンと。


 しかし、口で言われたわけでなく、文字で書かれた言葉にここまで動揺してしまう自分のお手軽さが酷く悔しい。


 我ながら、どれだけチョロい女なのかと。


 こうならないためにも、元の世界でも一心不乱に仕事に打ち込んできた。


 男など必要ないと思い込んで、この世界でもそうして乗り切ると心に決めていたはずなのに、そんな決意も簡単に吹っ飛ばされてしまった。


 しかも、攻略対象である神様ではなく、同じ主人公の一人である「アルズヴェール」からあのように揶揄われるとかどんな世界なのだ!?


 うん。

 一通りグルグル思考を巡らせて、ゴロゴロとこの場で転がったためか。

 随分、落ち着けた気がする。


 広いベッドで良かった。


 それにしても……、ゲームで見た時も思ったけど、この世界のベッドって無駄に広い気がする。


 まさか、こんな風に転がるためとは思わないけれど、家具売り場で見かけるダブルベッドなんかよりずっと大きいのだ。

 ……クイーン、いや、もしかしたら、キングサイズというやつか?


 まあ、寝相を気にしないで済むところは助かるけどね。


 気を取り直して、昨日の神官との会話を含めて、今日の情報を纏めようか。


 現状として、風の大陸だけではなく、人間世界では、少子化の危機感はないってことになるのだと思う。

 ……と言うより、ほとんど問題視していない、というのが正しいだろう。


 ゲーム内、つまり、「すくみこ! 」世界では……、もっと鬼気迫ったような状態だった気がする。話している神官たちもどこか焦りの色があったような……?


 この違いってなんだろう?


 危機意識の欠如?

 そうなるともっとプレゼンの方向を考えていく必要があるな。


 少子化が進むことによるデメリットをもっと前面に押し出してみるか……。

 それと……「子供は宝」の認識を育てるには……。


 ―――― 単純に「ヤれ」って命令するか?


「アホか~~~~~~~っ!!」


 昼間、アルズヴェールとのやりとりを思い出して、わたしは思わず、思い出し笑いならぬ、思い出し叫びを行ってしまった。


 アイルを下がらせておいて、正解だったと心底思う。


 なんで、こんな真面目なことを考えているのにその思考にまで邪魔してくるのか、あの男の存在は。


 いや、確かに子供を作る行為は大事だと思う。

 だけど、それを強要するのは何かが違うだろう。


 それに……、そんな行いは、やはり想いが通った相手として欲しい。

 強制的だったり、義務的だったりするのはやはり、何か違う気がするのだ。


 でも、わたしにだって分かっている。

 そんな手段を選んでいるような余裕(時間)が、今の人間世界にはないことも。


 目に見えて分かるような子供の少なさ。

 それが事態の深刻さを表している気がする。


 ―――― 生物の本能を否定することは神の教えを否定するとかなんとか?


 だからと言って、単純に本能のままでは野生動物と変わらない。


 いや、滅亡の危機に近い種族にそんな綺麗ごとを言っても仕方がないのかもしれないけれど、少なくとも「救いの神子」という存在が人類の救済を謳うと言うのなら、やはり最低限、理性的な形で何とかして欲しいと願いたくなるのは我が儘だろうか?


 でも、それでは……、どうすれば良いと言うのか?


 落ち着いて、考えてみよう。


 人類を増やす……。

 明確な敵対勢力もないため、戦争もなく、疫病などの目立った脅威もない世界。


 無理して人間を増やさなくても、なんとか生きていけるほど余裕がある幸せな箱庭……?


 ん?

 今、何か引っかかった。


 しっかり思い出してみよう。


 あの時、わたしと会話をした神官は、今、人類の世界に「余裕がある」と言っていたか?


 いや、どちらかと言えば逆で、「余裕がない」と言っていたはずだ。


 だから、即戦力にならないどころか、足を引っ張っているようにしか見えない「子供」という存在が邪魔でしかないという結論に達してしまうのだ。


 思えば、いろいろな部分に余裕がなければ、子育てなんてできるはずもない。

 そんなの現代日本だって同じことだったはずだ。


 自分には経験がないけれど、基本的に育児には時間も金もかかると聞いている。


 この世界の育児も同じように金がかかるかどうかは分からないけれど、自分自身が手一杯な時に、子育てなんてできるはずもない。


 自分が生きるのに精いっぱいなのに、他者の命までその肩に担ごうなんてなんて、わざとハンデを背負う縛りプレイに等しいだろう。


「ああ、そうか……」

 わたしは、ようやく思い至った。


 余裕がないから、子供を育てることができない。


 それは金銭的なのか。


 時間的な話なのか。


 精神的なものなのか。


 生産力的なことなのか。


 それすらも今はまだよく分かっていないのだけど。


 それらが全て、無関係とは思えなくなってきたのだ。

 しかし、余裕というのは余剰でもある。


 そうすぐに成果がでるはずもない。

 だが……。


「そうなると……」

 原作を知っているというアルズヴェールに、確認しておかなければならないことができた。


 彼なら、設定という形で、その現象の理由も分かっているはずだ。


 でも、正直、彼との会話はまだどこか気まずいものがある。

 彼の方は、当然、なんとも思っていないのだろうけど……。


 それでも、わたしは少しだけ嬉しかったのだ。


 ―――― 可愛いなんて、今までに一度も、言われたことがなかったのだから。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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