神子の揶揄い
『しかし、火の大陸も風の大陸も、少子化問題を問題と思っていないのは大問題だよな』
『そうだね』
わたしたちは再び、本題に向き合っている。
『現実的に国が解決できないような問題を、15歳のガキどもに任せるとは、正気じゃねえよな』
そんなゲームの根本から否定するようなことを書きだす主人公(その1)。
そんなことを今更言っても仕方がない。
基本設定というやつなのだ。
『ゲームではどんな風に解決したんだ?』
『神子たちが不思議な力を神官の世界へ向かって送り続ければ、自然に増えていった』
そういえば、そのやり方については何も説明されなかった。
「すくみこ! 」では、最初の神官と、初めて会話した時に、そんな説明があった覚えがあるのに。
『超常現象でしかない』
アルズヴェールは身もふたもない言葉を返す。
だが……、実際の「すくみこ! 」プレイヤーのほとんどは、この世界を救わずに恋愛に走る方が多かったことだろう。
そう考えると、どれだけの大陸が滅びの憂き目にあったことか。
『原作の「救いの神子」たちはどうしたの?』
『原作から離れた時代だから、具体的にどうしたとかは描かれてなかったんだよ。ただ人口減少を止めて、滅びの世界を救ったから「救いの神子」とされた、だったはず』
う~ん。
残念ながら、具体的な対策は自分たちで考えるしかないようだ。
『単純に「ヤれ」って命令するか? 分かりやすく年頃の男女は「一日一発」を義務付けるとか?』
『直接的過ぎる!』
なかなかとんでもない意見が美少女から提案される。
しかも、パートナーについて、触れてもいないってことは、それって不特定多数でも了承ってことですか?
『でも、言葉を飾ったって、結局、そ~ゆ~ことだろ? 避妊せずに数をヤれば、ポコポコとできるんじゃねえのか?「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うだろ?」』
『だから、表現!』
そんな風に言われたら、間違いなく、提案された側が引くだろう。
『表現? 男女の営みを大切にしましょう?』
『そして、それを、どう神官に伝えろと?』
『軽いセクハラだな』
いや、軽くない。
絶対に軽くない。
ドン引きされて、二度と通信に応じてくれなくなってしまうことだろう。
『生物の本能を否定することは神の教えを否定するとかなんとか?』
生物の本能……。
確かに生態系の維持は生物の本能に組み込まれているはずのものである。
数が多いならともかく少なくなっているのに危機感を覚えないというのは、生物としてどうなのだろうか?
『その言葉なら納得できなくもないけど、仮にも神子という聖女が神官と言う聖職者に対して生殖行為を勧めるってどんな世界だ!?』
『生殖行為って?ああ、セッ』
危険な単語を書こうとした気配がしたので、わたしは慌ててアルズヴェールの会話用に渡していた紙を奪い取って、ぐしゃぐしゃに丸める。
「ら、ラシアレス様!?」
わたしのあまりの剣幕に背後にいたアイルが流石に驚きの声をあげた。
ロメリアもどこか驚いた様子だったが、今回は仕方ない。
全部、あなたの主人が悪いとだけ言わせていただきたい。
……と言うか、可愛らしい乙女しかないこの空間で、なんて言葉を書こうとしているのだ、この男は!?
「羞恥心」って言葉を一万回ぐらい書いて覚えてください!
そう叫びたかった。
ただ、アルズヴェール本人はそれを気にした様子もなく、次の紙を横から取って……。
『落ち着けよ、処女』
と、紙いっぱいにでかでかと書きやがった。
『うるさい!!』
口にしてはいなくても、これだって立派にセクハラだと思う。
しかし、残念ながら、この苦情を訴える先も分からない。
普通に考えれば……ズィード様なのだろうけど、そこに至るまでの経緯を含めて話せるはずもなかった。
「アイル、この世界では罪人たちってどんな扱いを受ける?」
「は? ざ、罪人でしょうか?」
何かを察したのか、ロメリアとアイルの視線がアルズヴェールに向かう。
「罪を犯した内容にもよりますが……、大陸によって異なるとは聞いております。シルヴァーレン大陸では、最高刑で他者による魔法死刑。次いで、服毒死。その次は魔法力枯渇系刑」
最高刑が死刑……か。
その辺り、わたしたちの世界と変わらない。
ただ……、魔法か。
「ロメリアさんの大陸ではどうするか伺っても?」
「え? あ……、我が国では最高刑は魔法の的、次に魔法力枯渇刑、そして、新型魔法の実験体となっており、死による救済はありません」
戸惑いながらも、真面目に答えてくれたロメリア嬢。
完全なる魔法に関する求刑しかないため、それらは想像することしかできない。
しかし……、「死」が「救済」と言うからには、それなりに過酷な求刑ではあることは間違いないだろう。
「ラシアレス様。我が主人が何か、貴女様に対して無作法でも?」
ロメリアは、どこか警戒するような視線を送る。
まさか、「貴女の主人にセクハラを受けました」と言うわけにはいかない。
わたしは少し考えて……。
「ただでさえ少ない人間が、各大陸で罪を犯せばどうなるかを知りたかっただけなの。刑罰の名のもとに、些細な罪で人口を減らされるのも困るから。でも、恥ずかしながら、わたしも知らなかったし、アルズヴェール様もご存じないようでしたから」
そう言いながら、アルズヴェールに目配せすると、彼女は俯きながら、無言でこくりとだけ頷いた。
「確かに……、神子様たちにお教えするような知識ではありませんから、ご存じないのは当然でしょう」
ロメリアはそう言った。
わたしの言葉を完全に信用をしてはいないが、疑うには材料も足りない……そう言った様子である。
うんうん。
盲目的に信じるのは危ないことだから、あなたの判断は間違っていないと思うよ。
『オレに対する仕返しが酷い。上級者向けの言葉責めだ』
アルズヴェールがなんとも言えない顔でそう書いた。
『誰のせいかな?』
『分かってるよ。からかいすぎたよ』
どうやら、本当に揶揄われていたらしい。
わたしの方が先にそれなりの言葉で攻められたのだ。
だから、少しぐらいの言葉責めが男性にどれだけ有効となるのだ? と言いたい。
いや、確かに周囲を固めてからというのは少しばかり性格が悪いとも思ってしまうのだけど。
『悪かった』
こうやって素直に謝れてしまうのは、彼の良い所だと思う。
わたしはどちらかと言うと、簡単に謝罪する方じゃないから。
なんとなく、相手に負けた気になってしまうのがいけないのだろうけど。
『そう思うなら、二度と、あんな言葉を書かないで』
ほら、わたしはやっぱり素直じゃないし、可愛げもない。
こんな時、乙女ゲームの主人公なら笑顔で「気にしてません」と応えるのが正解だってことも分かっているのに。
だけど、そんな態度のわたしを見ても、アルズヴェールは笑顔だった。
『本当に悪かったよ。でも、本当に可愛いな、ラシアレス』
ああ、なるほど。
今のは、「愛でられた」のか。
思わず間抜けな声を出して、反応してしまうところだった。
『そりゃ、乙女ゲームのヒロインの一人ですもの。ある程度の愛らしさは持っているでしょうね』
それに、彼に言わせれば「ドストライク」の容姿なのだ。
確かに「可愛い」と言いたくもなるのだろう。
だけど、何故か彼はきょとんとした顔をした。そして、何かに気付いたのか。
『いやいや、違う違う。オレが言いたいのは』
そう紙にさらさらと書いていく。
『ラシアレスは、外見だけじゃなく、その中身もとても可愛い』
アルズヴェールはある意味、極上の微笑みを浮かべながら、そんな言葉を丁寧に書いたのだった。
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