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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第2章】乙女ゲームの始まり
27/75

神子と好敵手

「神子」生活8日目。

 わたしは、今日もアルズヴェールと密談をしていた。


 だが……。


「へえ……、少子化問題に全く関心がなくて、その上、子供嫌いの神官様か……」

 アルズヴェールは、それを声に出した。

 密談、どこ行った?!


『声、声!』

 わたしはそう書き込みながら、思わず、頭を抱える。


『いや、これは口に出しても良い問題だろ?」

 それでも、筆談に変えてくれる。


『あなたに自覚がなくても、わたしたちはライバルなの。競争相手なの!』

「あ~、忘れてた、忘れてた」

 わたしの言葉に対して、そう書きながらも、素直にそれと全く同じ言葉を口にしてしまっては筆談の意味はなかった。


 そしてそれを聞いたすぐ傍にいるロメリアはアルズヴェールを睨むし、アイルは驚く気配が伝わってくる。


 外見は非の打ち所がない美少女の口から出てきた、呑気な言葉。


 そして、その表情から恐らく、彼女に仕えているロメリアはもう、既にその状態を知っているのだろう。


 こんな「アルズヴェール()」が、自分の部屋でまで、お淑やかな美少女を演じられるとはわたしには思えなかった。


『ところで、火の大陸はどう? あなたも行ったのでしょ?』

 わたしは、関心を逸らすべく、そう紙に書きこんだ。


 それを、ロメリアとアイルがさり気なく覗き込むのだ。


 どちらも、気付かれていないと思っているようだが、ロメリアの視線は何か書かれるたびに紙に必ず向かうし、アイルはしっかり背後から覗き込むような気配がする。


 アイルはもう少し、好奇心を隠そうか。


 どうやら、彼女たちは「神子文字(日本語)」に大変興味があるらしい。

 確かに内緒話は嫌だよね。


 しかし、海外の人たち曰く「日本語」は大変難しい言語。

 漢字、ひらがな、カタカナの規則性を理解した上で、単語を覚え、さらに文法を学ばなければいけない。


 しかも、彼女たちには教師となるような指導者がない状態である。

 我流では簡単には習得できないだろう。


 いや、覚える方法はある。


 わたしたち以外の「神子」に習うことだ。

 だが、それも、他大陸に対する良くない意識がある限り、難しいだろう。


 後は……、目の前にいるアルズヴェールやわたしが、彼女たちに教える……ぐらいか。

 本来なら、それが一番、良い流れだろう。


 だけど、今の所、彼女たちに対してそこまでの信用をわたしはしていない。

 多分、アルズヴェールも。


 年月が流れたら……分からないとは思うけどね。


 だから、積極的に教えないけれど、見学する分には止めない。

 何でも、学ぼうとする意思や意志は大事だからね。


『火の大陸の神官は、魔法の暴発について困っていた』

『魔法の暴発?』

 やはり、火の大陸でも少子化は大した問題になっていないらしい。


 でも、「魔法の暴発」について、か……。

 それはそれで、興味深い話題でもある。


『魔力が強すぎて、魔法の制御ができないらしい』

 それは困る。


『それに対して、なんと返答したの?』

『すぐに返答できないから、持ち帰って、前向きに返答するって答えた』

『どこのお偉いさんですか?』


 でも、言葉はともかく、アルズヴェールのその答え方に間違いはない。

 即答できるような話ではないだろう。


『多分、その原因はなんとなく分かっているんだよ』

『分かっている?』

 それは意外だった。

 てっきり分からないから調べようとしたのだろうし。


『魔法の暴発、暴走は、想像力と創造力の欠如だ。それは、古代魔法も現代魔法も変わらなかったはずだ。そして、聖女が誕生する前のこの時代は間違いなく古代魔法しかない。かなりの意思の強さが必要だと思う』

 そうスラスラと長い文章を書かれた。


 多分、これは原作の知識なのだろう。

 ゲームにはなかった設定だと思う。


『長文だね』

『悪いか?』

 悪くはない。

 これは、わたしにも助かる知識だし。


 あとで、メモして保管しておこう。


『で、それを上手く伝えるにはどうしたら良い?』

『おいこら、ライバル?』

『協力者だろ?』

 けろりたした顔で、そう書いた文字を見て、わたしは呆れてしまう。


『協力者でもあり、好敵手でもあるの。こういった部分は自分で考えなければ駄目でしょう? アルズヴェール』

 彼の素直さは悪くないけど、わたしたちの根本的な部分はゲームと同じなのだ。


 すなわち、競争相手を蹴落としてでも一番を目指せ!


 勿論、彼を積極的に蹴落とそうとは思わないけれど、それでも、他の神子たちに負けたくはないと言う気持ちはあるのだ。


『ケチ』

 一言かよ!?


『ケチじゃない。その辺は大事なんだから。なんでも教え合うのは協力ではなくて、ただの共依存になってしまうの』

『共依存?』

『お互いに対しての依存症。酷いDV男から離れられない女性って言えば分かりやすい?』

『オレは彼女に暴力を振るったことはないぞ』

 そんなことがあってたまるかと言いたかった。


 どんな状況でも、好きな相手に暴力は良くないと思っている。

 それは男女に関係ない話だと思うのよ?


 喪女の甘い(理想的な)考えですけどね。


『今のはただの例えだから。でも、お互いべったりと甘え合う関係は良くないってことぐらいは分かるでしょ?』

 少なくとも、それで後悔している知り合いが数組いる。


 付き合いだして、関係が新鮮なうちはそれでもなんとかなるけど、どちらかが相手のことを負担だと思い出したら、崩れる時は一気にいくそうだ。


『甘えることもできない関係も辛いぞ』

『甘えちゃダメってわけじゃなくて、甘えすぎ……いや、相手に過剰な期待をしすぎるなってこと。仲が良くたって、結局は他人だからね』

 相手にだけ無償の愛を期待してはいけないってことなのだろうけど、仲が良くなって、関係が深くなると、お互いに過剰な期待をしてしまうそうな。


 俗に言う「釣った魚に餌を与えない」状態なのだろう。

 相手に期待しすぎると、かえって身動き取れなくなると思うのだけどね。


『冷めてるな、ラシアレス』

『だから、独り身だったんだよ、アルズヴェール』

 わたしがそう書くと、アルズヴェールは何故かクスリと笑った。


『強すぎると、男は避けるからな。自分がいなくても一人で立てるような女の傍にいると辛い』

『辛い?』

『お前なんか不要だって言われている気分になるんだよ』

 よく分からない。


 一人で立てるからって、横に並んで立つ人が不要って気持ちにもならないと思うのだけど。


 ああ、でも確かに「お前は可愛げがない」って言った級友はいたな。

 なんとなくそれを思い出した。


 今までは思い出すこともなかったのに。


『そんな器の小さい男なら、要らないな。わたしは前で守られるより、一緒に横に並びたいから』

 わたしがそう書くと、何故かアルズヴェールが目を丸くした。


『どうして、そう思った?』

『前に立たれると、相手の顔が見えないからかな? だから、個人的には横に並んで欲しい』


 さらにはその状態で、自分が顔を向けた時に、一緒に顔を向けてくれるだけでかなり嬉しいと思う。


 あれ?

 この考え方ってちょっと少女趣味過ぎる?


 いやいや、分かっているのですよ。

 そんな都合が良い殿方なんて、存在しないってことぐらい。


 だけど、夢見るだけは自由なのだ!

 少女趣味上等!


 それを口に出さなければイタくない!!


 でも、わたしが『横に並んで欲しい』と、そう書いた後、金髪の美少女はその端正な顔を分かりやすく歪めた。


 勿体ないな。

 本来の中身なら……そう思いかけて……、それなら、彼女とこんな所にはいないかと思い直す。


 それぞれ中身が違うから、わたしたちはお互い、ここにいるのだ。


『それは、正面から向かい合えば良いのでは?』

 何故か、口元に手をやり、難しい顔で考え込みながら、アルズヴェールはそう書き込んだ。


『それじゃあ、前に進めないでしょ?』

『なるほどな』

 何故か、アルズヴェールは腕を組んで、納得した。


 ……いや、あなたは何かを理解したのかもしれないけど、わたしの方は訳が分からないよ?


「ハルナが神子に選ばれた理由が分かった気がする」

 アルズヴェールはわたしの本名を()()()()()、何故か極上の微笑みを浮かべたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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