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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第2章】乙女ゲームの始まり
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神子と神官

 アイルの手料理でお腹を満たした後、わたしは、「鏡の間」で神官と話した内容の記録を始めることにした。


 異文化交流って本当に難しいです。


 同じ言葉で話をしているはずなのに、考え方が違うと対話ができている気がしません。


 いや、違うね。

 わたしは相手を理解しようとしているのに、相手は、わたしを理解しようとしてくれないのだ。


 それはなんと厄介なことなのだろう。


 確かにそんな人と会話をしたこともある。

 人の話を聞こうともしない人種と言うのは、社会に出れば珍しくもない。


 自分の考えが絶対的な正義であり、僅かな反対意見(ズレ)は理解できない「悪」と決めつける。


 でも、あの神官の考え方は、それとはまた違う気もするところが、難しい。


 完全に敵対してくれるなら、なんとしてでも言論の暴力(自由)を持って、叩き潰す……いや、叩きのめす……いやいや、穏便に説得を(反 駁)するため、全力を尽くしたくなるのだが、そうではない相手に対して尽力するのは何か違う気がするのだ。


 あの神官は、わたしの言葉を「神子」の言葉として受け止めてくれていた気がする。


 貴い立場にいる人間だと思うから、雲の上にいる人の言葉として受け止め、自分と考え方が違っても、意見をすり合わせる努力をすることもなく、先に諦めてしまうのだ。


 「偉い人にはそれが分からんのです」というやつだろう。


 話を聞いた限りでは、風の大陸の神官であるジドニリーク曰く、「子供と言う生き物は百害あって一利なし」の存在らしい。


 さらに話を詳しく聞いてみると……。


 生まれる前に数ヶ月の間、母親となってくれる女性を振り回し、その体調や気分を左右した上、最悪、死に至らしめることもある。


 しかも、生まれた直後にも何もできないばかりか、暫くの間は母親の足を引っ張る存在に変わる。


 言語を解するまでに時間がかかり意思疎通自体ができない。


 まともな働き手に育つまで、かなりの時間を要する。


 言語を理解する時期を迎えても、導き手の意思に従わず、感情のままに動き、その言動は理解しがたい。


 そんなことをつらつらと語られた。

 その弁をわたしも賛同してくれると信じて。


 いや、わたしとしては、話を聞いている間、何度も「お前も昔、子供だっただろう」と言いたかった。

 よく我慢したと褒めていただきたい。


 だけど……、それ以外の話を聞く前に、別れの挨拶を済ませ、とっとと退散してしまったのは言うまでもないだろう。

 

 これが、この世界共通の考え方なのか。


 それとも風の大陸だけの教育なのか。


 単純に、子供嫌いの神官の中で、脳内完結している話なのかが正直、判断できなかった。


 だけど、それについて、参考としてわたしの世話係をしてくれているアイルに確認はしたくもない。


 もし、あの神官と同じ言葉を話し出されたら、わたしは彼女の料理を美味しく食べることができなくなる気がしたのだ。


 わたし自身、特別子供好きってわけではない。


 親戚を含めて自分の身近にいなかったせいか、どちらかというと「宇宙人」みたいで、訳が分からない存在ではある。


 だが、「邪魔」とか「不要」とかまでは思わないのだ。


 広い目で見れば、次代の担い手であり、わたしたちの住んでいた世界では「国の宝」とまで建前では言われていた存在である。


 その教育の結果だろう。


 何故、建前か?

 実際は、退職した世代の方が優遇されていた世界ですよ?


 そりゃ、投票権のない世代や投票にいかない世代に対して、選挙で支えられているお偉い方々が、気を配ってくれるはずもないよね。


 そこに投資する利点があまりないのだ。


 誰だって、見えない未来より目の前にある現在を大事にしたい。

 それについては、わたしもそうだから、考え方も分からなくはないのだ。


 そう……、問題は「利点」である。


 幼い世代に目に見えるような「お得な情報」がないから、子供たちがないがしろにされているのが、この世界なのだろう。


 つまりは、それらを解決しなければどうにもならないのだ。


 わたしの住んでいた世界にいた、頭の良い人たちにもできないような問題を、一介のOLにすぎないわたしが?


 それって、かなりの無理ゲーすぎると思うよ。

 クリック一つで解決できる問題でもない。


 少子化の問題。

 それは見えていない未来を先読みしなければいけないということ。


 たった30年ほどという寿命が短い人たちに、自分が死ぬ前、死んだ後のことを考えさせても想像ができるはずもない。


 具体的に、どんな死因が多いか分からないけれど、年老いて、体力の低下とかで要介護者にならない限りは、自分より若い世話役を考えることもしないだろう。


 それとも、急速に年をとる身体?

 ここは異世界だから、それもありえると思う。


 いや、思い出せ!

 「すくみこ! 」の世界を!!


 確か、「すくみこ! 」のゲーム開始を、新年の始まりとして考え、次の年になるたびに、神官交代の挨拶があったはずだ。


 この世界の1年が人の世の10年ほどとズィード様は言っていた。

 一年は12の月で回っていたことは同じだったから……、細かい計算は面倒なので、一月で一年と考えた方がわたしには分かりやすい。


 でも、神官の体面にビジュアル的な変化は……、ほとんどなかった……?

 いや、服装の変化が一度だけある。


 確か、最初に黒地に象徴色(シンボルカラー)の入った服。


 あれ?

 デザインはともかく、神官の服の基本的な部分は一緒だった。


 そして、最後の月だけ、茶色の服に象徴色(シンボルカラー)の入った服へと変わるのだ。


 でも、申し訳ない。

 神官との対面を重要視していなかったから、正直、あまりよく覚えていない。


 攻略対象でもなく、毎年変わるようなサブキャラクターで、しかも特に好みの容姿でもない乙女ゲームのキャラまで全て、覚えていられる女子なんていないと思うのですよ?


 ああ、確かに選んだ神子ごとに神官の顔は違っていたので、合計35種類の顔が出てきたことだけは間違いないのだけど……。


 あの頃はそこまで深く考えてもいなかったけれど、実はどこまで拘って作られていたの? あのゲーム……。


 そんな神官も変わるのは服が最後の一度(一月)だけ。

 年が変わり、新たな神官に代わると、黒をベースにした衣装に戻っていた。


 つまり……、あの神官の代替わりって……、前の神官が寿命を迎えて死んでしまったということなのだろう。


 その考えに行きついて、わたしは少しぞっとした。


 それだけ拘って描かれていた神官たちの顔に大きな変化はなかったと思う。

 細部まで覚えていないので、自信はない。

 その時のわたしにとっては、そこまで重要なこともでもなかったし。


 いや、だって思わないでしょう?

 10年も経った後に、その世界の主人公たちの中に放り込まれるのなんて……。


 だけど、顔に変化がないってことは、老化が主な死因ではないと思う。

 30年と言う寿命の短さは、別の原因があるのだろう。

 

 ゲーム内では、月に一回ぐらいしか神官との対面していなかったけれど、もっと頻繁に会った方が良さそうだと思う。

 ついでに毎年、年齢の確認をしておこう。


 少しでも、わたしに関わる神官たちのことを覚えておくために。

 「すくみこ! 」内では名乗ることもなかった神官たち。


『初めまして、みこ様(一年目、一月)』


『みこ様はお変りもない(毎年六月)』


『私も歳を重ねました(最終年以外の十二月)』


『今回から私が新たな神官となりました(二年以降一月)』


『みこ様にお会いできて良かったです(最終年、十二月)』


 それらをどんな気持ちで歴代の神官たちは「みこ」たちに向かって語ってくれていたのだろうか?


 彼らは自分たちの寿命の短さも、勿論、理解していたはずなのに……。


 少子化も問題だけど……、そのことが気になってしまって頭から離れなくなった。



 わたしが、「すくみこ! 」をプレイしていた時、「ラシアレス」はどんなことを神官たちに伝えて、どんな選択をしたっけ?


 そんな今更考えても仕方のないことまで考えてしまうのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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