第六十三話 面倒で優秀
クヒヒ。もうすぐ。もうすぐだ。
長かった。今日この日の為に二十余年の時を準備に費やした。
故に万全。
ここまで来れば後は繭の起爆のタイミングだけ。
モウスの繭も見つかるはずもない。
そして止められるはずもない。
ワシへの攻撃を感知した時点でモウスが、時が来ればワシが起爆する。
起爆はまだだ。シカク全域に恐怖と死が満遍なく散りばめられた時、ワシがこの国を救う英雄となる。
そしてっ!
皇に!この国の実権を!ワシは握るのだ!
ん?
「んおっ!」
「な、なんだ?!」
「落ち着け!備えろ!」
なんだこの激しい揺れは!?
巨人が城を叩いているかの様な揺れだ。
なるほど、ゲイズめ。相当激しくやっていると見える。よもや、ジャルジアを殺してはいまいな。
「んぐっ!」
「うわぁ!」
「なんなんだ一体!」
「今の衝撃はどこか崩れたぞ!?」
好き放題暴れよって!この先この城はワシのものとなるのだぞ!
まだ早いがやむを得んか。
繭の起爆を、
「ぁ……」
なんじゃ、この、重圧は。
身体が重い。一瞬にして身体中が吹き出した汗で濡れよった。
ま、さか。ダルイスが何かっ。
いや、そんな素振りは見せておらん。じゃがこの異変はワシの騎士共も感じておる様じゃ。ダルイスとメリートリスは平然としておる。
なんだ?
これは、恐、怖?
恐れておるのか?
息がしにくい。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
何にワシは恐れておるというのだ。
死ぬ?
何故だ。
分らぬ。もはや思考も覚束ぬ。言葉も出ん。モ、ウ…………
◇◆◇◆◇◆
ダルイス視点
面倒なことになったな。
これでは動けん。
今考えてみればいつもそうだ。
騎士になりそこそこの給金をダラダラと貰い続け、戦場ではなくベッドで最後に老衰で死ぬ。これが俺の理想だった。
なのに、リヒトに始まり同期の騎士が面倒な奴らばかりだった。やる気はないのに周りのレベルが低いせいでしたくもない出世をさせられた。
そんな折に陛下に目を付けられ長期諜報任務に付けられた。
早く帰りたい一心で任務をすぐに終わらせて帰ってみれば、スクエラ三大騎士団の設立を聞いた。勝手にしろと思った。
だが、いざ話を聞けば俺が緋縅騎士団団長に任命された。
何故だっ!?
なんでこうなった?!
だが、思った。団長という偉い肩書を貰ったのであれば、それを利用してサボればいいと。初めて自分を天才だと思った。
団長権限で俺が人事の申請をする事が出来た。
俺は今後サボるために全力で優秀な人間を探し選んだ。七日程完徹した。死ぬかと思った。だが、完璧な緋縅騎士団が出来上がった。
これで、サボれる。
それでも甘かった。
優秀な人材を集め、副騎士団長にメリーを置いた事が間違いだった。
コイツは優秀すぎた。
俺がどこに隠れてサボっていても必ず見つけ出され仕事をさせられた。
そんな事を繰り返していたら、仕舞いには俺の側を離れなくなった。
以前よりも全くサボれなくなった。
というより誰よりも働いている気さえする。リヒトは別だが。
そんなこんなでこの魔族の襲来。
以前から当たりをつけていたイディオを捕まえてすぐさま仕事を終わらせるつもりだった。
そうしたらこれだ。
動けないのはいい。何もしなくてもいいからだ。だが、このまま放っておけば、より面倒なことになる事請け合いだ。
でも動けんものは動けん。
俺が最速で刀を振るっても、俺を注視する騎士を掻い潜ってイディオを斬るのは難しい。
斬れるかもしれん。だか斬れなかった時、最悪の末路になる。
と、思った時、皇城が激しく揺れた。
周りの騎士は慌てふためいているが、俺から視線は外さなかった。
さすがに腐っても騎士だ。主君は守り通すつもりの様だ。
しばらくして更に激しい揺れが起きた。
確実に皇城のどこかが崩れたと分かるほどの衝撃。
その時、イディオを含め騎士達の様子がおかしくなった。
瞳孔を開き、蹲る者。挙動がおかしくなる者。奇声を発する者までいた。
何がなんだか分からんが、好機だと思った。だが、好機でも何でもなかった。
俺とメリー以外の人間が倒れていた。
「な、何が起きたのでしょうか」
メリーが油断なく辺りを警戒しながら俺に聞いてくる。
俺だって知らん。
「分かっています」
何がだよ。
いつもそうだ。コイツは俺が何も言ってないのに勝手に俺の意思を履き違えるきらいがある。
確かに喋るのは面倒だから最低限しか口にしないが、メリーのその補足も全てデタラメだ。ただコイツが言いたい様に通訳風に喋っているだけにすぎん。それで楽している事は確かに否めないのだが。
面倒で優秀な部下を持つと本当に苦労する。
ん?
そんな時、背後から気配を感じて振り返るとそこには
「ほっほっほ。久しぶりじゃのう。ダルイスにメリートリスよ」
「ゼ、ゼルバトス様!?」
ゼルバトスの爺さんか。なるほど。合点がいった。激しい恐怖心による気絶か。
気絶すればガディとのラインが途切れ、ガディも消失する。意識の外からの精神異常にテンパったまま気絶したイディオは起爆すら出来ずに倒れたわけか。
恐ろしい能力だ。確か、“ナイトメアラプソディ”だったか。
しかし、あのオーカとかいう小僧から聞いてはいたが、本当に健在であったか。
「ご無沙汰」
「ダルイス様は、ご無沙汰しております。本当にお元気でしたか。安心しました。また、お会いできて光栄です。と、仰っています」
だから言ってねぇ。




