第四十四話 二つの決め事
広場が岩山地帯へと変貌を遂げた後、広場の端へと連れられて、そこに赤色の旗が打たれた。反対側の端には同じように優男達の旗があるんだろう。
「今から十分後に開始のアナウンスが流れる。それまでここで待機だ」
委員の騎士がそう言い残しその場を去った。
「なるほどなぁ。十分か。なんかいい作戦ある奴いるか?」
デブがそうしゃしゃり聞いてくる。
十分で、しかもこの初顔でまともな作戦の練れる奴なんざいねぇだろう。
案の定一様に皆、首を横に振る。
「だろうな。俺ぁ傭兵時代こういう状況がままあってな。悪りぃが少し仕切ってもいいか?」
「私に異論はありません。是非お願いしたいところです」
「ナッパさんに同じくです」
俺とバーベルも首肯する。
こういう状況の経験者がいるなら、それに従った方がいいに決まってる。
「よし。まずこういう時は少ない決まりごとを作るんだ」
「少ない決まり事?ですか」
「あぁ。この場合はざっと二つ。一つはポディションを決める。守る奴らと攻める奴らだ。攻めと守り、どっちが得意か教えてくれ。ちなみに俺は守りの方が得意だ」
「私も守りの方がどちらかと言うと得意です」
「僕はどっちでもいいですよ」
「俺もなんでもいい」
「同じく」
「じゃあ俺が独断と偏見で決めるぞ。俺とナッパとノビルが守り。オーカとバーベルが攻めだ。こういう時は守りを多めに固めておいた方が無難だと俺は考える」
よりによってコイツと二人かよ。
まぁいいか。
「了解しました」
「僕も了解です。それで二つ目はなんなんですか?」
「あぁ。これは守り組と攻め組で一つの決め事を作る。それ以上のルールを作ると即席のチームの場合ポテンシャルが発揮できない事が多いんだ。攻め組はお前らで好きに一つ決めてくれ。ノビルとナッパ、俺達は、、、」
デブがそう言って三人で話し出した。
しかしこのデブ、見た目に反して割と頭がキレるんだな。言っている事は正論だし的確だ。
だが、コイツと一つの決め事か。
「クフフ。何かありますかねぇ?」
気持ち悪りぃ。
それにしても、そうだな。
一つの決め事、か。
先ずは状況を整理だな。
俺達の目的は二人で一つの旗を取りに行く。目的の障害は三人の敵。向こうが何人で守って、何人で攻めてくるかは分からない。だが、変わらないのは取る旗は一つだけって事と、こっちの攻める人数は二人って事。
その中で作る一つだけの決め事。
となると。
「先に攻め入る方と、後に攻め入る方を決めるってのはどうだ?」
「陽動、という事ですかねぇ?」
「いや、そこまで決めちまうとあのデブの言った通り、ポテンシャルが発揮できない場合がある。だから、どっちが旗を取っても構わないが、先か後かだけを決める」
先に攻め込んであっさり取れるなら良し。先に攻めた方が失敗して後で攻めた方が取っても良し。仮にどっちも失敗して、結果先に攻めた方でも後に攻めた方でも旗を狙いに行く。
「クフフ。いいでしょう。オーカさんはどちらがよろしいですか?」
「どっちでもいい。それくらいお前が決めろ」
「そうですねぇ。では、先に攻めさせてもらいましょうか」
「決まりだ」
「そっちも決まったみてぇだな。よっしゃ!そろそろ時間だろう。備えるぞ」
デブが仕切り、皆それぞれスタートの合図に備える。
少しだけ、テンションが上がるな。こういうのは初めてだからか。他人と協力して作戦を練り、一つの目的達成のために勤しむ。
騎士になったらこういう事が増えるんだろうな。
やってやる。
この場にいる奴らに俺の汎用性を示して、駆け上がる。
待ってろよパルキア。
《それでは、第二次選抜試験開始して下さい!》
「それではオーカさん。行きましょうかねぇ」
「あぁ」
スタートの合図が流れ、バーベルに追従するように岩山地帯を走る。
やっぱ気持ち悪りぃだけじゃねぇな。動きの一つ一つが洗練されてやがる。速さもかなりのもんだ。
俺は常時20%の魔力纒身をしてるんだが、コイツはシラフでこのスピードって事になる。俺でもこのスピードは、まず魔力纒身してないと出せねぇ。
これなら、十秒くらいで反対側まで行ける。
「クフフ」
と考えた時、急にバーベルが少し方向転換した。
「旗の位置、分かるのか?」
「えぇ。それと相手方は守りに一人、攻めに二人でして、今接敵しそうでしたので躱しました」
便利だな。
どんな魔法だ?詠唱してるようには見えなかったが、他にそれらの情報を手に入れる方法でもあんのか?
「では、お先に失礼しますねぇ。クフフ」
そう言ってバーベルは更に速度を上げ、目先の岩山を超えた。
コイツっ、マジで人間かよ。
とにかくこの岩山の先に旗があるって事だろ。それを守ってんのは一人。十中八九あのクソ偉そうな優男副騎士長だ。
先ずは30%に魔力を上げとくか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
※副騎士長リヒト•ブライトネス視点
「おっ、来たな!一人、か。舐められたもんだね!」
色白の彼が岩山を飛び越えて真っ直ぐ俺の元へ突っ込んでくる。
そんな真っ正直に来たって返り討ちだよ!
愛剣のアブロンダイトを抜く。そして突撃してくる色白君を上段から斬り下ろす。
が、躱されたっ!
すかさず剣を振り下ろした反動を利用した回し蹴りを入れる。
瞬間、目が合った。
なんて、目だ。
人を見る目じゃない。その辺に転がる家畜の糞を蔑むような目。死んだ眼光。
彼は、なんなんだ。
危なげなく蹴りも躱され、また斬りかかる。
その時、また岩山を超えてくる奴がいる。
「二人だったのか!なるほど、色白の彼は陽動だった訳だね!」
いい作戦じゃないか。でも即席だけあって甘いな。
お、この黒髪の彼も物凄いスピードだ!一気に旗を狙う気だね。
だけど。
斬りかかるのを止めて、黒髪の子の元へ跳ぶ、瞬間。
「シュナイダー」
出るか出ないの声で我がガディ、シュナイダーを呼び出す。
シュナイダーの固有能力“ラストホープ”で俺の能力を引き上げる!
そして、黒髪の子の目の前へ。
「危ない危ない。だけど、ここまでだよ!」
「うるせぇよ」
この子もなんて目だ。
自分以外の全ては敵だと思ってるような目。何者をも寄せ付ける事を許さない目。
だが、色白の彼とは違い、なんて鋭く尖った眼光なんだ。
と、思考が戦闘から一瞬逸れた刹那。
地面が激しい音を立てて消えた。
「なっ、!」
黒髪の彼が思いっきり足を踏み込んだんだ。それだけ。それだけのはずなのに、まるで薄い氷を踏み割るかの様に地面を割り崩した!
「ぐっ!」
と、思ったら後ろから間髪入れずに抱きしめられる形で、今度は色白の彼が飛び付いてきた!
「クフフ。オーカさん。私ごとどうぞ」
「何、を」
「おっ、マジで?」
色白の彼が声をかけて、すぐのレスポンス。『これ美味しいから一口上げるよ』とでも言われた、答えの様な軽さで。
まずい!
半端ではない音と共に、身体を伝うとてつもない衝撃。空中にいた為、黒髪の振り切った威力そのままに吹き飛ばされ、岩山に激しく衝突した。色白の彼も共に。
「なんて、子だ」
全力では無いにしてもラストホープをかけて尚、このダメージ。
自らに被さった岩を払い除けて前方を見ると。
「ご苦労さん」
旗を持った黒髪の彼がそこにいた。
《そこまで!公募者チームの勝利です!》




