第二十五話 汚ねぇ顔
うん。やっぱ綺麗だな。
こうして久しぶりに貴族街をゆっくり歩いてみて改めて思う。
石畳の地面にカラフルな建物。夜になると町中に散りばめられた光る石が貴族街を照らし、歩く人を照らし、平民街とはまるで違う事を思い知らされる。
そんな街が今日は祭り一色。所狭しに夜店が並び、暗くなったこの時間でもたくさんの人が賑わっている。
「オーカ。何が食べたい?遠慮など小僧の分際でするでないぞ?」
「全部」
「……おぅ。遠慮がないのぅ」
遠慮なんかするわけがない。
どれだけ俺がストレスを溜め込んでると思ってやがる。このストレスは食で発散させてもらう。
だが、やたら並んでるな。食いもんに並ぶ神経がいまいち分からん。とりあえず晩飯をお預けされてこちとら腹が減ってんだ。並ばずに食える店に行こう。
あそこだな。
「ん?綿菓子か。まずは飯かと思ったがの」
ワタガシ?
とりあえず食えればなんでもいい。さっさと金を払え。
ジジィが金を払い、ワタガシなるものを受け取る。
なんだこれ。
白いフワフワを割り箸にくっつけただけの、食い物とも呼びにくい物体。
とりあえず一口
「うんまっ!!!」
なんだこれ!思わず口に出ちまった。
甘い。口の中でワタガシなるものが溶けて口内へ甘さが染み込んでいく。素朴でシンプルな甘みなれど、それがまたいい。
いきなり出会ってしまった。
夜店の食いもん1位に。
「ほっほっほ。うまいか?では次はしっかりと腹に溜まるものにしようかの」
くそぅ。もう無くなっちまった。
ん?気づけばジジィはなんかの行列にならんでやがる。
仕方ねぇな。ジジィも食いもん如きに並べるタイプなのか。
たまには付き合ってやるか。
並ぶ事十分。
「ほれ。オコノミじゃ。ゆっくり食べるんじゃぞ。熱いでの」
並んでる時から感じていたが、匂いがたまらねぇ。匂いで口の中が早くよこせと涎が湧きあがる。
黒と白と緑と茶。色合いだけ見ると美味そうには見えねぇ。
箸を立ててオコノミを一口サイズに割り一思いに放り込む。
「はっふぅ、あっく……」
「ほっほっほ。言わんこっちゃない。ゆっくり食べなさい」
予想以上の熱さ。だが、
う ま い !!
この黒いタレと白いのはマヨだな!このコンボはエグい!
それに中の様々な具材が俺の歯と舌を喜ばせる。
美味い。旨い。上手い。
素晴らしい逸品だ。
これぞ夜店1位に間違いない。
ジジィが並ぼうと思うのも頷ける。
「お主は本当に美味そうに食べるのぅ。今、幸せか?」
美味いもんを美味そうに食うのは当たり前だろ。それに今が幸せかって?
「あぁ」
それも当たり前だろ。美味いもん食ってんだから。
「そうか。じゃあ、そろそろ”じいちゃん”と呼んでもいいんじゃぞ?」
「寝言は寝てから言え」
「辛辣じゃのう…………おっ。じゃあ勝負じゃ」
そう言ってジジィは何かを見つけて、ある出店を指差す。
金魚掬い?
「あれで、より多く金魚を捕った方の勝ちじゃ。そして儂が勝ったらオーカは儂をじいちゃんと呼ぶ。オーカが勝ったら、そうじゃの。無理じゃろうから、なんでも言う事を一つ聞く。って事にしようかの」
「なんでも?」
「なんでも。じゃ。どうじゃ?やる気出てきたかの?」
「乗った」
「決まりじゃ」
そうして俺たち二人は金魚掬いの出店に入る。
なんでも言う事を聞かせる権利。
これはでかい。
腐ってもこのジジィは偉い貴族。金も権力も影響力も周りの奴らに比べれば段違いだ。
そんな奴に、なんでも一つだけ言う事を聞かせる事が出来る。大概のことは叶う。
何がいいだろうな。
「いらっしゃい!お二人様ね!六百キラです!あい!ちょうど頂きました!そしたら、これポイ三つずつね!あい!頑張って!」
威勢のいい店主からポイと呼ばれる金魚を掬う為だけの道具を渡された。
緑色の縁と持ち手に丸く白い紙が貼られている。
やったことはないが、周りを見てたらなんとなく分かったぞ。
要は、このポイを壊さないように、より多く金魚を掬えって事か。
上手い奴は……居た。一つのポイで十匹近く掬ってやがる。
アイツの動きを真似すれば。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結果。
俺0匹。ジジィ15匹。
「いや汚ねぇだろ!一個めと二個め俺と同じ0のクセに、最後のポイ一個で15匹だと?!なんかしやがっただろ!」
勝負が始まると同時に俺とジジィのセンスの無さがすぐさま露見した。
俺たちは一瞬で二つのポイを失い、開始十秒で最後のポイを構えていた。
俺は果敢にもノータイムで三つめのポイを投下するも二秒で大破。
だが、ジジィも同じだろうと目を向けると、馬鹿みたいに金魚が掬われていく。それはもうポイではなくお玉で掬われてるかのように。
「ベツニナニモシトランゾ?」
「なんだその棒読みは」
「さて、オーカよ。儂のことを呼んでみよ」
くっ、ムカつく。
「ほれほれ〜、じいちゃ?ん?あ!言ってしもうた!ほれ、早く〜」
ジジィのはじゃぎぶりに殺意を行動に移そうか迷っていると
内臓にまで響くような爆発音と共に夜空に綺麗な花火が上がる。
まだ身長が絶賛成長途中の俺には人混みで全容は見えない。だが、次々に上がる花火に観衆は皆立ち止り、驚嘆の声を上げながら空を仰ぐ。
「どれ」
「おっ、おい」
急に身体を持ち上げられジジィの肩に乗せられる。
「おいやめろ何やってんだ降ろせ。今すぐ降ろせ」
「どうじゃ?よく見えるかの?」
確かによく見える。色とりどりの火花が星の散りばめられた夜空に、描かれては消えて幻想的な光景を映し出している。
だが今は
「見えるよ!綺麗だな!だから降ろせよ早く!」
「それは誰に言っとるんじゃ?」
く そ が
「早く降ろせ…………じいちゃん」
俺が言い終えた瞬間ジジィの体が、ビクンと一瞬震えた。何かと思っていると、ゆっくりと地面に降ろされ、ジジィの顔を見上げるとみっともない顔で泣いていた。
「言わせたクセに汚ねぇ顔して泣いてんじゃねぇよ」
「五月蝿いわい」
しばらくジジィの嗚咽と花火の音を聞きながら花火を眺めた。想像以上に六十を超えたジジィの男泣きは気持ち悪かった。
だが、この後も心地の良い祭りの夜をジジィと二人で、はしゃぎながら過ごした。
こういうのが親子って感覚なのかな。
どうでもいいけど。
ま、悪くはなかった。




