狂ってしまった歯車〔前編〕
楓雷と琥蝶は仲の良い親友だった。
妖怪と人間。二人を隔てる壁は楓雷と琥蝶を苦しめていた。
けれど、どんな辛い事に成っても二人は一緒に居たかった。其れ程までに結ばれ合っていた。
そんな二人の強い気持ちが哀しき選択を迫られる事に成る。
「楓雷~!」
明るい声で駆け寄って来る少女。
楓雷は顔を上げた。
「琥蝶。今日は随分と遅かったな。」
「ゴメン。ちょっと用が出来ちゃって。」
琥蝶は苦笑した。
琥蝶の家は、名門のお金持ち。琥蝶は唯一人の令嬢。
だが、琥蝶は礼儀正しいマナーを学ぶより外で遊びたいと言う自由を求めていた。
縛られるのが嫌だったのだ。
楓雷は、妖怪の中でも強い力を持つ蛇の妖怪。
神話に登場する八岐大蛇の血を引く妖怪で簡単に国の一つや二つを滅ぼした事も有った。こんな変わった身の上の二人は毎日の様に一緒に居た。
この日も何時もの様に時が過ぎて行く。
「ねぇ、楓雷。『静寂の森』に行かない?」
楓雷は不思議そうに琥蝶を見た。
「何故だ?」
「あの森を抜けた所に綺麗な虹が見れる場所が在るんだって。私、その虹が見たいの。」
「『静寂の森』は危険じゃないのか?」
楓雷は呆れた様に聞く。
『静寂の森』は人の憎しみや怨念、嫉妬の闇の感情で出来た森だ。
森の中でそんな黒い感情に呑み込まれる者も居る。
妖怪も例外では無い。
「へーき、へーき。大丈夫だって。」
楓雷は軽い頭痛を覚えた。
この少女、全く危機感が無いのんびり屋なのだ。
琥蝶の好奇心のせいで恐ろしい化け物に追い駆けられた事など一度や二度では無い。
楓雷は、溜め息を吐いた。
反対した所で琥蝶が聞く耳を持つとは思えないからだ。
「判った。」
この一言が二人の運命の歯車を狂わせて行く。
「この森、変な感じ。何だか息苦しいもん。」
「ああ・・・・」
『静寂の森』に入った楓雷と琥蝶。
楓雷はこの森に入った時から嫌な気を感じていた。
自分や琥蝶がこの闇に呑み込まれる可能性も有る。
楓雷は、琥蝶を不安にさせたくなかったため黙っていたが。
その時。
“グニャリ”
「!」
楓雷の目の前で琥蝶の周りの空気が歪んだ。
「琥蝶!」
反射的に手を伸ばす。
「え?」
琥蝶の足下も歪み、闇が溢れ出した。
楓雷は琥蝶を突き飛ばし、闇に呑まれて行った。




