琉錨VS怜川
「はあ?居ない?またかよ?」
怜川は呆れたように言う。
「ええ。今回はお一人で・・・」
需浬は苦笑する。
一度は帰ったもののやはり解決した方が良いという事で、楓雷を連れて来た妖怪達。しかし、またもや不在という。
「何処に行ったか分かるのか?」
吋土は聞く。
「冥界だと思うよ~?」
眞李が眠そうに答える。
「そうね。朱蘭がミッドナイトを連れて行かない時は、大抵冥界に行くもの。」
華蓮が魔術の本を捲りながら顔も上げずに言った。
「冥界って・・・」
梨亞は絶句した。
「行こうと思えば行けるよ。死んだら行く事になるけどね。」
蝋火はニヤリと笑った。
と、いう事で巫女と妖怪四人は冥界へと足を踏み入れた。
「何だか嫌な所ですね。」
梨亞は辺りを見回す。
「居心地悪いな。」
怜川も顔をしかめる。
「当たり前だ。ここで居心地が良いと感じるのは死人だけだからな。」
吋土が尤もなツッコミを入れる。
「確か吸血鬼は一番奥の大きな神殿に居るって言ってたよねぇ?」
蝋火は冥界に来ても緊張感を感じていないらしい。
「神殿には冥界を取り仕切る呪術師が住んでいると聞きました。」
楓雷がそう言った瞬間、梨亞と怜川は凍り付いた。
楓雷は言わない方が良かったと激しく後悔する。
「馬鹿だね、君達。そんな事も知らずに来たのかい?」
蝋火はやれやれと肩を竦める。
「命を取られても知らんぞ。」
吋土は冷たく言い放つと先に行ってしまう。
「待ってよ!」
「措いてくな!」
慌てて後を追う梨亞と怜川。
楓雷と蝋火も苦笑いを浮かべつつ歩いて行く。
「魅麗様、侵入者が入ってきました。」
紅茶を啜る二人に琉錨が報告する。
「あら、珍しいこと。自分から冥界に来る様な物好きさんがいるのね。」
魅麗は笑う。
「どうしましょう?」
「帰らせなさい。言う事を聞かなかったら強制排除なさい。殺さない程度にね。冥界で死んだら成仏出来ないから。」
琉錨の問いに魅麗は扇子を揺らしながら言った。
「御意。」
琉錨は姿を消した。
「あれ?」
梨亞は驚いて声を上げる。
「どうした?」
「あそこに白い虎が・・・」
梨亞は指差す。
目の前には、一頭の白い虎が待ち構えている。
五人は用心しながらも近づく。
「去れ。」
近づくと白い虎が喋ったので、梨亞はギョッとしたが妖怪達は驚かなかった。
「吾輩達は用が有って来た。通してくれぬか。」
「此処は生命有る者が来てはならぬ場所。すぐさま立ち去るが良い。」
「私達、朱蘭さんに会いに来たんです!」
梨亜は訴える。
「朱蘭様にお会いする事は許しません。」
「どうしても通さないって言うなら実力行使だぜ!」
怜川は一歩前に踏み出し、拳を構える。
「愚かな。この冥界という地で戦えば命を削るだけなのに・・・けれど仕方ありません。排除します。」
琉錨は、怜川に飛び掛かる。
怜川はそれをヒラリとかわし、水の術を放つ。
琉錨の瞳がアイスブルーに輝く。
その途端、琉錨の体からはもの凄い冷気が発せられ水は凍ってしまう。
「マジかよ?!」
怜川は、思わず叫ぶ。
琉錨は鋭い爪で怜川を引き裂こうとする。
怜川は、必死に避けながら勝つ方法を考える。
「そうだ・・・!」
怜川は琉錨と距離を取ると必殺技を使う。
「“水神 清龍の舞”!」
水が龍の形に成り、琉錨に向かって行く。
「・・・・無駄です。」
琉錨はその水の龍さえも凍らせてしまう。
「・・・・・・・・俺には無駄じゃないぜ!」
怜川は、凍った水の龍の上を走って琉錨に接近した。
「・・・・・・・!?」
驚いて動けないでいるその体に拳を叩き込む。
琉錨の体は吹っ飛ばされた。
「・・・ま、こんなモンかな。」
怜川は余裕の顔でニッと笑った。
「へぇ、君にしては上出来じゃないか。」
蝋火が吹っ飛んだ琉錨を眺めながら言う。
「貴様が必殺技を使った時は自滅する気かとハラハラしたが・・・」
吋土は溜め息を吐く。
「どうなるかって凄く不安でした~。」
「ああ。負けるんじゃないかと心配したぞ。」
梨亞と楓雷も安心したように口々に話す。
「何か、俺って信頼されてないみたいじゃないか・・・」
怜川は少しシュンとなる。
「それよりも・・・」
吋土は琉錨の方を向く。
「虎よ。神殿まで案内して欲しいのだが?」
琉錨は苦しげに息をしながら弱々しく立ち上がる。
「分かりました・・・・・こちらです・・・」
琉錨に付いて行く。すると、見事な神殿が見えて来た。
「あれが・・・・」
「そうです・・・・『魂の神殿』です・・・・・」
神殿の扉の前に琉錨が立つとゆっくりと扉が開く。
中に入ると、二人の女性が待っていた。魅麗と朱蘭だ。
楓雷は朱蘭の姿を見て唇を噛む。
「フフフ、琉錨。貴方が此処まで役立たずだとは思わなかったわ。」
魅麗が妖艶な笑顔で言う。口は笑っていたが目には怒りが見える。
虎は震えながら後ずさる。
「・・・・・・魅麗様・・・・っ・・すみませんっ・・・・」
「私は言い訳は聞きたくないの。下がりなさい。」
琉錨は姿を消した。
「・・・・・・・・さてと。」
魅麗は妖怪達に視線を戻す。
「・・・・オメー、誰だ?」
怜川が警戒しながら尋ねる。
「私?私は白櫻魅麗。以後お見知りおきを。」
それから朱蘭の方を向く。
「朱蘭、もう、いい加減全部話した方が良いんじゃないの?妙な意地張ってないで。」
楓雷は悲しげに朱蘭を見詰める。
「・・・・・お前は・・・・琥蝶・・・・そうだろう?」
「・・・・・・その名で呼ばないで・・・!」
朱蘭は、ギュッと胸元を握り締める。
「なぜ・・・・お前は死んだはず・・・それは私が見ていた。」
楓雷は朱蘭に尋ね掛ける。
「・・・・・・・・」
「どうして・・・どうしてなんだ・・・?教えてくれ、琥蝶!」
「嫌!」
朱蘭は耳を塞ぐ。
「止めて・・・・私は・・・・自分の記憶を封印したの・・・お願いだから・・・思い出したくないの!
それ以上、言わないで・・・・!」
魅麗は、静かにその様子を眺めていた。
「蛇妖怪さん。朱蘭を虐めないで?」
それから朱蘭に言った。
「朱蘭、奥の部屋で休んだ方が良いわ。」
朱蘭は小さく頷くと歩いて行った。
「謎は深まるばかりだねえ~。」
「ああ。俺もサッパリ話が見えて来ない。」
「楓雷、大丈夫か?」
「・・・・・はい。平気です。」
楓雷は朱蘭が歩いて行った方向を見ていたが、溜め息を吐く。
「蛇妖怪さん、貴方は朱蘭の事が好きなのね。だから、そんなに必死になって。」
「あの、魅麗さんは知ってるんですか?朱蘭さんの過去を?」
梨亞がおずおずと問う。
「そうね。大まかな事は知ってるわ。とはいえ詳細は聞いてないけど。」
「なぜ、琥蝶は生き返った?」
楓雷は魅麗に言う。
「あら、簡単な話よ。私が生き返らせて上げたのよ。吸血鬼として。」