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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法なんてあるの?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第四部 過去の清算

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お飾り夫ユリウス・アールグレンの幸せ

最終回です、今まで読んで頂きありがとうございました。

 セレーナが預かった亡きアウグスト・デ・ヴィセンテの形見をラリサに渡した。渡すかどうかしばらく悩んだ末のことだった。


「受け取ってほしいものがあるんだ。アウグストという男からラリサへの形見だそうだ」

「黒い……ブラックダイヤモンド……ア、アウグスト様……?」

「覚えているのかい、あの男を……つい先日死んだよ」


 虚ろな目をしていたラリサの瞳にかすかな光が灯った。

 ――やはりラリサはアウグスト・デ・ヴィセンテのことが忘れられないのだろうか? 何度も『愛してる、ラリサ』と言ってもただ微笑み返されるだけ、『王子様』という架空の人物に私をあてはめるだけで、名前を呼んでくれなかった愛しい人。


「アウグスト……アウグスト……どこ?」


「もう、いないよ」


「いない……わたくしの、王子様は?」


「私だよ」


「……わたくしの、王子様?」

「そうだ、あなたの……覚えていないのかい? ずっとそばにいただろう? 私の名はユリウスと言うんだ。ラリサの夫だよ」

「わたくしの……夫……ユリウス!」


「やっと名前で呼んでくれたんだね」


「……わたくしの子は?」


「いるだろう、目の前に」


「わたくしの……黒い髪の……子……?」


 思い出したのか、ラリサ?

 アウグストではなく、娘のことを?

 かつて幼い娘を見るなり『黒い髪……黒い……あぁっ……!』と叫びながらパニックを起こし、拒絶した娘を?


 目の前にいる黒髪の少女に気づいたラリサが、ソファから立ち上がった。


「私たちの娘だよ。セレーナという名前なんだ。分かるかい、ラリサ?」

「えぇ、えぇ、分かるわ。わたくしとあなたの愛しい子……!」


 ヴィセンテ家の色をしたブラックダイヤモンドを見た彼女は、驚くことに正気に戻ったようだった。

 まさかこんな日がこようとは!


 私は彼女の肩を支え、セレーナの前に連れて行った。


「お母様!」


 セレーナが顔をくしゃくしゃにして泣いている。

 十数年前、『お母様』と喜び勇んで近付いた娘を拒否したラリサ――それがどうだ、今は愛しそうに娘を抱いているではないか!


 こんなことがあるのか!


 今までわたしは泣いたことなどなかったのだが、このときばかりは涙が出た。

 クリストフもソーニャも、ブランカ夫人まで目を赤くしている。


 婚姻届けは出しているものの、ラリサは侯爵家から預かっただけの女性だった。

 あの戦勝記念パーティーのとき侯爵から提案されたのは――。


『ひと目見ただけでプロポーズ!? そんな男を信用できるわけないだろう!』

『で、ですが、婚約者だった男からは裏切られました……それなら……私が、必ず大切にいたします!』

『よかろう。ならばこの条件でお前に託そう』


 その後交わされた結婚に関する契約書は……。


『書類上の夫……ですか?』

『そうだ」

『そんな……!』

『遠いノルデン国なら娘を醜聞から遠ざけることができる。その代わりアールグレンには毎年相応の援助をしよう。これでどうだね?』


 家格も社会的地位も低く若輩者の私が拒否できる状況ではなかった。


『あ……か、かしこまりました……ありがとうございます……』


 これは彼女を醜聞から守るための、形式上の結婚だったのだ。


 私は大佐に信用されていなかったんだろうな。娘を守るためだけの隠れ蓑。ラリサの表向きの夫というのが私の立場。

 彼女を見守り、わたしを監視するために侯爵家から遣わされたのがブランカ夫人だった。

 どんなに彼女に触れたくても触れられない。唯一触れられるのは、彼女が取り乱したとき、彼女をなだめるときだけ。


『お前は大した男だ、ユリウス・アールグレン。長い間ラリサとセレーナを守ってくれた。契約を果たしてくれた。これで契約は終了とする。契約書は暖炉に投げておけ』

『ありがとうございます、大佐。これで私も救われます』


 これを機に、書類上ではなく本当の夫婦になれたらと思う。

 ずっとそう願っていた。

 丘の上の離邸へ行くたびに恋い焦がれていた。


 あの男は最後にひとつだけ良いことをしてくれたな。


 ラリサに過去を思い出させたヴィセンテの家宝――ブラックダイヤモンドの指輪は、私が預かることにした。いずれ公女となったセレーナに渡すつもりだ。


 これでラリサは私の本当の妻になる。


 長年のわたしの夢がかなうのだ。





 翌年わたしたちに赤い髪の娘が生まれた。


「お父様、こっちに来て! 赤ちゃんを抱いてみて!」

「あ、あぁ、そうだな、でも壊れそうだ。大丈夫なのか?」

「心配しないで、ほら、そうっと、そうっと」

「あぁ……私とラリサの……子……」



- - - - - - - - - - - - - - - - - -


「こちらへいらっしゃい、わたくしの可愛い娘たち」

「は〜い!」

「あ〜い!」

「この中からどのウエディングドレスがいいか選んでね、セレーナ」

「目移りしちゃう。どうしよう」


 ――私の人生はおおむね幸せだった。


 私たちの結婚式はもう行われることはない。

- - - - - - - - - - - - - - - - - -



☞長い間読んでいただき、誠にありがとうございましたm(_ _)m。ラブコメにしようと思ったら、途中からなんだかシリアスになってしまいました。

☘お願い☘「面白い」と思って頂けましたら、[☆☆☆☆☆]の☆をタップして[★★★★★]にして頂けると、とても嬉しいですm(_ _)m


☞『婚約破棄→断罪→めでたし』ではなく、それぞれの物語があればと思って書きました。セレーナの夫になるのはあの人です。『ラストではないラストダンス』で一応結論は出ていたので、その後の詳しい過程は冗長じょうちょうになると思い、省きました。


☞『婚約破棄の落とし前は命をもってあがなえ』という、ソアレス大佐の激ヤバ某マフィア映画もどき(R15)小説を書けたらいいなと思っています。ホセ(当時は若い)も活躍させたいです。オヤジ小説は人気がないのでほぼ自己満ですが……(T_T)。サンタソアレス島は風光明媚な所です。


✦来週からシリアス度が限りなくゼロに近いお馬鹿コメディー『奥様は聖女様』を投稿予定です。こちらは不定期連載です。読んで頂けると嬉しいですm(_ _)m✦

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