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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法なんてあるの?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第二部 ミスター・ミハイロフ

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セレーナの初心(うぶ)すぎる初恋

「結局あのお見合いはどうなったの?」

「それが……」


 わたしはヘイデン家からのやり直し要望をソーニャに伝えた。

 無かったことにしたはずなのに、お人好しの父が要望を承諾したらしいのだ。


「本当に? またあの坊やに会うの?」

「坊や……ソーニャにはそういう風に見えたの? わたしはあまり顔を見ていないんだけど……」

「女性への対応がイマイチだったわ。あれは……DTね、絶対に」

「DTって……ソーニャったら! お父様は断りたかったみたいなんだけど……」

「先方に押し切られちゃったのね?」

「みたいなの」


「「はぁ……」」


 さすがに次回は屋根裏部屋に逃げるわけにはいかない。結婚なんてする気はないのに、どうすればいい?

 嫌味な悪女を気取ればいいのかな。


「わたしはミスター・ミハイロフ一筋なのに」

「ソレ本気!? あの方は遠い外国の貴族だし、たぶん一生結婚しないタイプだと思うわよ。それにきっと、あでやかなパートナーがいるのよ」

「分かってるわ。でも、素敵だし憧れるの、大人の男性って感じよね。隣にいるだけでドキドキしちゃう」

「大人の男性だったらクリストフもじゃない?」

「クリス叔父様? 比べものにならないわ」

「超面食い……」





 ――ほどなくして。

 社交シーズン到来のため、アールグレン一家は首都のタウンハウスに移動した。


「ようこそ、首都のアールグレン屋敷へ」

「クリス叔父様、ちゃんと屋敷を管理してた? 知らない女性を連れ込んでない?」

「心外だな、レディーたち。ぼくは真面目に管理していたし、浮気なんてしてないよ」


 浮気ダメ!

 わたしみたいに所在のない子を増やさないためにも。


「ソーニャ、確認よ。徹底的にね!」

「もちろん!」

「おいおい、貴族の令嬢が男性の体を撫でまわすのはいただけないな」

「「フフフフフ……!」」


 久しぶりのクリス叔父様。

 父と同じ金髪の癖っ毛に、グレーアイ。中肉中背の優男。大学へ行くようになってからずっと首都に滞在しているから、垢抜けた感じ。





「できたわ、ソーニャ。新作よ。さっそくミスター・ミハイロフのところへ持って行くわ」


 あれから一度も外出せずに書き上げた新作小説ができた。五点のイラストも。

 小説といっても、ご令嬢方が暇つぶしに読むギフトブック――大人向け絵本――だから、文字数は少ない。短編よりは読みごたえのある中編といった感じ。

 スタイリッシュで読みやすい文字、乙女受けするイラスト付きのシンデレラストーリー。


 これでばっちり。


「もうできたの? 書きはじめてから一カ月しかたっていないのに」

「ホホホ、ネタはあるし、絵なんてどうにでもなるわ。だって本物の背景があるんだもの」

「どういうこと?」

「フフッ、何でもない」


 資料やネットを漁らなくても本物の貴族の屋敷や街並みがあるものね。普段の生活や服装も。小説の内容だって書きやすいんだ。

 今回は薄暗いヘイデン屋敷で令嬢が虐げられるストーリー。

 陰気な屋敷だったな。ホラーハウスみたいだ。吸血鬼やゾンビがいそう。

 あんな家にお嫁に行くのなら独身の方がマシかもね。

 ソーニャの子供のお守りでもしようかな。

 その前に頭のぶっ飛んだ両親の介護が待っている。





 新作小説の原稿を持ってソーニャと向かったのは、首都の一等地にあるアートギャラリー。

 オーナーはミスター・ミハイロフ。

 数年前、北方のセーヴェラ国からふらりと来た貴族。わたしとは十歳以上年上だ。

 金髪碧眼、笑顔が眩しい、都会慣れしたお洒落な男性。性格は……謎。

 彼がわたしの作品を手がけていて、ギャラリーの隣にある書店でギフトブックを売っている。


 ギャラリーに来るたびに、素敵なレストランができただの、カフェがあるだのと、わたしとソーニャを連れ出してはごちそうしてくれる。


 ミスター・ミハイロフって彼女さんはいるのかな? 結婚はしていないと聞いているけれど。





「おや、ようこそお二人さん。ようやく首都に戻って来たんだね。冬の間ゆったりと過ごせたかな?」

 ギャラリーの応接間で葉巻をふかしていたミスター・ミハイロフが、立ち上がってわたしたちを迎えた。

 パーティーのない日の彼は、たいていここで暇つぶしをしている。


「えぇまあ……いろいろあったんです」

「ふぅん……今日はセレーナ嬢の新作が書店に並んでいるよ」

「いつもお世話になります、ミスター・ミハイロフ」

「こちらこそ、可愛らしいレディーたち」


 ミスター・ミハイロフがわたしとソーニャの手に、うやうやしくキスをする。

 本当にするわけではなく単なる挨拶なのだけど、男性に慣れていないわたしは結構恥ずかしいのよね。


「そんなに顔を赤くして。まだ恥ずかしいのかい、セレーナ嬢」

「だって……」

「そろそろ男性のエスコートに慣れないとパーティーへ行けないよ」

「行かないから構わないわ」

「そんな寂しいことを言わないで。小説のネタになるだろう? 僕を練習台にしていいよ」

「いいの?」

「もちろん。パーティーのエスコート役になってもいいかな」


 ミスター・ミハイロフってタラシなのよね~。複数の彼女さんがいそう。でも素敵。


「セレーナ、甘言に乗ってはいけないわ」

 で、出た〜、ソーニャの教育的指導!

「ハイハイ、分かっています」

「酷いなぁ、ソーニャ嬢」

「新作ができました、ミスター・ミハイロフ」

「冬の間に書いたのかい? 読ませてごらん」


 新作は『捨てられ令嬢――草を食べて命をつなぐ三日間――谷底からの復讐』。

 短い話だけれど、二ページぶち抜きのイラストが何点か入るから、そこそこのページ数になるはず。

 いいのよ、ギフトブックだから文章は少なくても。絵が綺麗ならそれなりに売れるもの。

 表紙は売れっ子画家さんが描いてくれるし、わたしのイラストが足りなかったら、それなりの画家さんを紹介してもらおう。これで儲けるつもりはないから。

 そういえば母は服装デザインが趣味だった。絵の心得は遺伝もあるのかな。


「斬新だね、草を食べて生き延びるなんて」

「食べられる草もあるのよ(ヨモギとか、ヤナギランとか)」

「う~ん(クローバー? 家畜かな)……『真似をしないでください』という注意書きが必要かもしれない。真似した読者が病気にならないように」

「おまかせしますわ、編集長様」

「僕は編集長じゃないよ、文章を直して本を作るのは印刷屋だから」

「そうでした」


 ミスター・ミハイロフのギャラリーが契約している印刷屋は出版社を兼ねている。わたしが書いた文章やイラストはそこで文章と内容を審査され、少し違う話になって世に出るのだ。


「そろそろ取材と称して貴族のパーティーへ行ってみないかい?」

「パーティーへは舞踏会へ一回行っただけで……」

「来週ハンソン家のサロンで演奏会パーティーが開催されるんだ。お二人もどうかな? 参加するのならレディー・ハンソンに伝えておくよ」

「演奏会……行きたい。行きたいわ! いいでしょう、ソーニャ?」


 この世界の音楽は独特の旋律を持っている。哀愁漂うというか、音階が二つ抜けているというか。


「待って、セレーナ。旦那様に相談してからよ。未成年は保護者がいないと出席できないのよ」と、ソーニャお姉様から注意を受けた。


「保護者なら僕がいるよ。営業も兼ねてアールグレン伯爵にご挨拶したいと思っていたんだ」

「さすがは商売人です。父にどんどん売りつけてもいいです」

「褒めてくれているのかな?」

「勿論です」

「ありがとう。セレーナ嬢のエスコートができるなんて光栄だな。君の漆黒の髪は、とびきり目立つようにしたいね」

「黒なんて地味な色だと思いますけど」

「そんなことはないよ。両親がメリディアナ皇国の縁者なのかな?」

「母の実家が……」

「どうりで。そういえば今、メリディアナ皇国の外交使節団がこの国に来ているようだね」

「そうなんですか」


 さすが、情報通。

 メリディアナ皇国といえば――祖父母は皇国のお金持ち侯爵家だった。

 わたしのために信託財産も残してくれたのよね。だから結婚しなくても何とか生きていけるんだ。





『お近づきの印』という風景画をもらった父はミスター・ミハイロフを認め、わたしたちはハンソン家のパーティーへ行くことになったのである。

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