ゲーム開始前へ
時間が戻った直後、私は静かに位置を変えた。
誰にも気づかれないように、自然に、人の流れに逆らわないように。
光る板が現れた場所。
さっきまで、能力一覧が浮かんでいた空間。
――ここ。
間違いない。
白い床の感触を確かめながら、私は、そこで待った。
ほどなくして、声が響く。
「――お前らには、殺し合いをしてもらう」
邪神の声だった。
そして、
「ふざけんなよ!!」
前回と同じ中年の男性が、怒鳴り声を上げる。
同じ言葉。
同じ罵声。
そして――同じ絶叫。
私は、目を逸らさなかった。
男性が、見せしめのように殺される。
悲鳴が、白い空間に響き、消える。
――前と、同じ。
その直後だった。
光が、弾けるように広がる。
光る板が、前回と寸分違わぬ位置に現れた。
「うわあああ!!」
「早い者勝ちだ!!」
「どけっ!!」
人々が、こちらに殺到してくる。
押し寄せる足音。
荒い呼吸。
恐怖と欲望が混ざった声。
その中心で、私は静かに手を伸ばした。
どれでもいい。
どの能力でもいい。
指先が、光に触れる。
理解が、走る。
《能力:――》
内容を読む必要すらない。
その瞬間、私は能力を使った。
10秒世界が、巻き戻る。
隣の項目に、手を伸ばす。
触れる。
また、10秒戻る。
次。
その次。
戻って、触れて。
戻って、触れて。
人々が殺到してくる中、
私は、常に一歩だけ先にいた。
立ち位置の周囲で得られる能力を取り終えたところで、私は1分戻る。
そして立ち位置を、少しだけ調整する。
また、触れる。
また、戻る。
それを、繰り返した。
光る板に並ぶ能力が、
一つ、また一つと消えていく。
やがて、光る板に存在する全ての能力が、私の中にあった。
それでも、終わらない。
私は、能力を組み合わせ続けた。
攻撃と防御。
時間と空間。
知覚と演算。
身体と精神。
能力が、能力を呼び、能力が別の能力へと書き換わる。
思考が、加速する。
最適解が、瞬時に浮かぶ。
可能性が枝分かれし、そのすべてを、同時に計算できる。
私は、組み合わせた。
また、組み合わせた。
もう、何回、時間を巻き戻したのか分からない。
この白い空間で、どれほどの時間を過ごしたのかも。
たぶん、今まで生きてきた年月より、ずっと長い。
それでも、私は続けた。
――足りない。
――まだ、足りない。
その感覚だけが、ずっと胸の奥に残っていた。




