10秒、戻った
次の瞬間――
世界が10秒巻き戻り、景色が跳ねた。
音も、感触も、まとめて後ろに引き戻される。
――戻った。
私の手は、まだ光る板に触れていない。
指先が、あと数センチで届く位置。
周囲の人々も、さっきと同じ動きをしている。
誰かが走り、誰かが叫び、誰かが押されている。
――本当に……10秒前だ。
心臓が、どくんと強く鳴った。
指先が、光る板に触れる。
その瞬間――
また、理解が流れ込んでくる。
《能力:時間逆行》
《効果:10秒前に時間を巻き戻す》
《クールタイム:10秒》
……同じ。
一瞬、頭が真っ白になる。
――また?
でも、違った。
脳内に、表示されるものが変わった。
さっきまで一つだった能力表示が、今度は二つ並んでいる。
《時間逆行(10秒)》
《時間逆行(10秒)》
――二つ……?
思考が追いつく前に、ある考えが浮かぶ。
――つまり。
――これって……20秒、戻れるってこと?
そう考えた直後、もう一つのことにも気づいた。
――待って。
最初に使った能力の感覚が、まだ、はっきり残っている。
――クールタイム。
頭の中で、感覚的に理解できる。
――最初の能力は……まだ使えない。
――あと……6秒くらい、残ってる。
でも。
視線を落とすような感覚で、脳内の能力一覧を見る。
――新しく手に入れた方は……。
――使える。
――能力ごとに、クールタイムは別。
息を、ゆっくり吐いた。
――……じゃあ。
確かめない理由は、なかった。
私は、新しく手に入れた能力を使った。
世界が、また巻き戻る。
今度は――
光る板より、一歩手前。
一瞬、息が詰まる。
――……あれ? さっきより、少し遠い。
――戻り幅が、増えた?
そう思いかけて、すぐに首を振る。
――違う。
私は、すぐに思い当たった。
――さっきは能力を得て9秒くらい経ってから能力を使った。
――今度は能力を得てからすぐに発動した。
つまり。
――能力の性能が変わったわけじゃない。
――私の、使ったタイミングの問題。
10秒きっちり戻る能力は、発動した瞬間から、きっちり10秒前に戻る能力なのだから、早く使えば、その分、手前に戻る。
胸の奥が、少しだけ落ち着く。
――ちゃんと、仕様通り。
私は、改めて前に出て、光る板へと手を伸ばした。
触れる。
理解が、また流れ込む。
《能力:時間逆行》
《効果:10秒前に時間を巻き戻す》
《クールタイム:10秒》
脳内の一覧が、更新される。
三つ。
《時間逆行(10秒)》
《時間逆行(10秒)》
《時間逆行(10秒)》
……三つ。
心臓の音が、うるさい。
――これ……。
――もしかして……。
恐怖が、消えたわけじゃない。
でも、それを押しのけるように、別の感情が胸の奥から湧き上がってくる。
――勝てる。
はっきりと、そう思った。
――これなら。
――このゲームで……。
私はもう一度、能力を使った。
そして、また取る。
戻って、取る。
戻って、取る。
何度も。
何度も。
光る板に、触れ続ける。
10秒を、積み重ねる。
心臓の高鳴りは、止まらなかった。
恐怖のせいなのか、それとも――
見えてしまった道のせいなのか。
その区別は、もうつかなかった。
私は、ただ繰り返していた。
勝つための、その一歩を。




