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「ジャナイ方」の異世界見聞記  作者: 那内


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48/48

48:《幕間》人の口に戸は立てられぬ

他者視点、三人称。

時系列は29話〜47話となります。



 魔の山の麓、瘴気溢れる森を訪れる者たちがいた。


 彼らは近くに住む村人であった。

 近くとはいえ大人の足でおよそ三日はかかる距離に村はある。

 その距離を寒さ堪え、雪の積もる悪路を数人の徒党を組み、魔物や魔獣が闊歩する危険地帯まではるばるやって来たのには、当然訳があった。


 税の取り立てである。

 なんでも聖女さまが召喚されたらしく、防衛や滞在費の為に先日、追加で徴収されたのだ。


 聖女さまが我が国に降臨されたのは重畳である。瘴気は辺境になるほど濃く、比例して瘴気症を発症する者も多い。中には住人を半数まで減らした町村も少なくない。

 明日は我が身と怯える日々は、聖女さまの浄化の力と癒しによって終止符が打たれるだろう。


 しかし、少ないながらに冬場を凌げる程には確保した蓄えを、現金で払えないならと取り立てられてはたまらない。

 元々さほどに裕福でない村人たちはたちまち困窮し、僅かにでも食料や金銭に替えられる資源の採取がないものかと、わざわざ危険な森までやって来たのだ。


 すると、なんという事だろう。


 藁を掴む心持ちだったというのに、森には僅かながら木の実や果物、薬草などが生えていたのだ。

 村人たちは魔物などに見つからぬよう森の縁を回り、喜々としてそれらを採取し持ち帰った。


 帰って来た者たちの報告と土産に、村人たちは喜んだ。採取物は決して多くなかったものの、人口の少ない村ならば春まで全員が賄える収穫だったからだ。


 その話は村人から、隣の村へ伝わった。

 隣村の者たちは体力のある若者が数人で雪道を旅し、森へと辿り着く。

 採取できる物は取り尽くされているだろうが、と藁にも縋る心地であった。しかしなんと薬草や短期間で新たに実っており、鉱石までも残っていて隣村の者たちは恵みを収穫し、帰っていった。


 その噂は隣村から別の村へ、かなり遠くの町村まで――そして森から最も近い辺境伯家の当主へと伝わる。


 魔の山と麓の森は瘴気が充満し、かつて恵みの宝庫であったが今や採取できる薬草など生えるはずがない。

 当代の辺境伯はそう訝しんだものの、しかし噂が真実ならば放ってはおけぬ。


 王都で聖女が召喚された故、自国ばかりか世界中に蔓延した瘴気は浄化されるだろう。

 だがそれは畢竟ひっきょう、マナの足りない時代がやって来る事でもある。瘴気は浄化されると、根源であったマナと共に消えてしまうからだ。


 僅かなマナでも麦や野菜は実る。しかしマナの少ない土地に自然界の精霊や妖精たちは生まれない為、収穫量は激減するだろう。

 そして大抵の民は、激減した実りに対応できず不満を抱くだろう。


 後にやってくるのは豊かな過去を忘れられない人々による、他者から奪い奪われる時代。どの国、どの時代の歴史書にもそう記されていた。

 それを憂いていた辺境伯は迅速に部隊を用意し、自身が指揮を執って魔の山――その麓の森へと調査に赴く。


 驚いた。


 辺境伯は剣と馬術、戦術の他魔法にも優れた魔法剣士であった。故に、森の瘴気が視える。

 森の外周部は瘴気が濃く魔物の類も出没するが、内部に入る程に瘴気が薄くなり、薬草などの恵みが増加していくのだ。


 いや、よくよく調べれば森のとある一箇所から奥に向かうに従い、一本の『瘴気のない道』ができている。まるで、清浄な存在がその道を通りでもしたかのように。


 更に驚くべきは、その清浄な一本道には瘴気に変化していない純粋なマナが存在する事である。

 一体この地に何が起きているのかと数日をかけ森の奥へと進んだある日。


 鬱蒼とした密林からやや拓けた空き地に出ると、そこで白銀に輝く翼付きの馬に遭った。


「魔獣! 閣下、お下がり下さい!」


「――待て! 止めよ!!」


 騎士たちが討伐態勢をとるのを、辺境伯は慌てて制止する。

 魔法剣士である辺境伯には分かった。その翼ある白銀の馬は瘴気に侵された魔獣などではない事を。

 寧ろ、余りに澄んだ魔力を纏っていた。


 何より、幼い頃に読んだ本。その挿絵にそっくりな神々しい姿――


天馬ペーガソス……」


 辺境伯の言葉に、臣下の騎士たちはどよめいた。


天馬ペーガソス!? 伝説の聖獣ですか!?」


「それは素晴らしい! 即刻捕らえ、連れ帰りましょう!」


「ならん! ならんぞ!!」


 色めき立つ騎士たちへと、辺境伯は再び制止をかける。

 何故なら辺境伯は知っていたからだ。聖獣とは霊獣が進化した高位存在。そしてその進化がどのように行われるかを。


 伝承が真実ならば、どこかにいる(・・)

 こちらを探るように美しい翠の瞳をじっと向ける天馬に、辺境伯は跪いて畏敬を表した。


「――げに気高き聖獣よ。土地の王、大妖精の遣いよ。我が名はバルカス・フォン・ノルトバルト。ノルトバルト辺境伯領を治めております。我々に敵意が無き事をご理解ねがいたい」


 辺境伯の言葉を解したか否か、馬の顔からは分からない。

 が、天馬はフルルと僅かに嘶くと、翼をはためかせ空に駆け上がり何処かへと去って行った。


 少なくとも、敵と認定はされなかったのだろうと辺境伯は息をつく。


(よもや聖獣が生まれていたとは……。以前にそのような報告はない、最近生まれた個体だ。となれば土地を守護する大妖精が堕ちることなく存在しているという事……)


 聖獣とは、霊獣が高位存在に祝福され生まれる。そしてこの地で言う高位存在とは、遥か昔『妖精郷エリュシオン』の伝承にある風精王シルウェストレに他なるまい。


 たった百年で魔の山に瘴気が溢れたのは、王個体が魔獣へと堕ちた故だと識者からの見解があったが――。

 何かしらの奇跡が起こり大妖精として再来した。そう考えれば、この森に恵みが復活している兆しにも頷ける。


(重畳。……しかし同時に頭の痛い問題でもある)


 中央(王家)に報告すべきかという問題だ。現国王は傲慢、その気質を長子である王太子も受け継いでいる。

 森の現状や聖獣の存在を報告すれば、どのような命令を下してくるものか。


 王侯貴族は自然の脅威、精霊たちへの畏敬を忘れて久しい。


 辺境伯は現状を、ひとまず調査中として騎士たちへの箝口令を敷いた。

 が――。


 人の口に戸は立てられぬ。


 天馬を目にした騎士の一人はその興奮を、妻にだけなら、とうっかり話してしまった。

 その妻もまた、仲の良い夫人にだけ、と話してしまう。


 話は人から人へ。町から街へ。


 そして加速した噂はやがて、王都まで届くのだった――。


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― 新着の感想 ―
あっ、これは風の精霊さんが解放されて、ノワとアシュが進化したあとのことですね♪ うわー、見つかってしまったんだ…これで山に人間がたくさん入ってくることにならないといいけど…
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