【第95話】世界を滅ぼす勇者
翌朝、アインズが出立する日となる。
「ふぁあーあ・・・。」
俺はほぼほぼ役目を終え、眠い目を擦りながらも一応は準備を整えリビングに向かうと既に着飾ったアリスとサーシャ達の姿が目に入る。
「おはよう、二人とも。アリスさん、調子はどう?」
「お陰様でバッチリ!今日は王子様の見送りだけだって言うから私も参加させてもらうね!」
「無理は厳禁だよ。」
「うん!ありがとう。」
「ススムさん。おはようございます。私への心配はないんですか?」
「心配はしてないけどアリスさんのこと看病してくれて感謝しています。ありがとうございました。」
サーシャに俺はそう言い礼を述べると満足したようした様だ。
「それにしても流石ススムさんですね。これで国という大きな庇護を得て運営ができますね。」
「そうだねえ。と言っても実際は名前を貸してもらって、一部資金を出してもらうだけで運用自体は今までと何も変わらないんだけどね。」
「それでも一商人としては有りえない話ですよ!全く・・・。相変わらず欲がないと言うかなんというか。」
「欲はありますよ。これで安心してまた一時的なダンジョンに行けそうだなあと昨日考えてました。」
「あはは。ススム君らしい。」
「一時的なダンジョンですか!実はあれからまた【呪われた】ピースを幾つも回収しておいたのでいつでもお声掛けくださいね。」
「本当に!?流石サーシャさん。」
「その代わり!」
「【呪われた】装備が出たら一緒に鑑定するんですね・・・。分かってます。」
この前、呪われた短剣を自分で鑑定した後ルビアに渡したのが何処かからか話が漏れサーシャの耳に入ったときは散々怒られてしまった。
「理解しているようで結構!」
そんな事を話していると迎えの馬車が来たので再び二人をエスコートして馬車に乗り込み、王子が滞在している役場まで向かう。
どうやら自分たちが最後だったようだ。
「お待たせしてしまい申し訳有りません。」
「おはよう。アリス嬢、体調はよろしいのか?」
前伯爵がアリスに心配そうに声を掛ける。
「ありがとうございます。ヴォルフガング様。お陰様で。」
「それは良かった。サーシャ、ご苦労であった。」
「この程度、アリスの為でしたら。」
「揃ったようですのでご案内致します。」
俺達は案内役に導かれアインズの待つ部屋へと移動する。
「おはようございます、皆さん。昨日は本当にありがとうございました。非常に有意義な時間が過ごせ、また国としても大きな事業の締結に至ることが出来大変満足しております。それとこちらが我が国から寄贈させて頂く、学校に掲げるための旗となります。」
前伯爵が学校長ということも有り、代表としてアインズから直々に受け取る。
「確かに、お預かり致します。」
これで、正式に学校の運営は国が関わっているという誰がどう見ても理解できる『証』が手に入った。
見送りの時になり一斉に整列をし、アインズを見送る。
「ススムさん。貴方は本当に素晴らしい方だ。これからも我が国の者がこちらに指導を受けに参るがその際はよろしく頼みます。」
「はい。こちらとしても国からの正式な庇護を受けれることになり満足しております。今後とも宜しくお願い致します。」
俺は深々と頭を下げると、アインズは俺に手を差し出してくる。
意図を理解した俺は手を握り返す。
去っていく王子達一団を見ながら俺は安堵の息を漏らす。
「ふぅーー。」
それを見た前伯爵より労いの声が掛かる。
「本当にご苦労だったな、ススムよ。」
「まあ、結果としては両手で喜べる内容だったので満足です。」
「ススム様。本当におめでとうございました。一商人仲間としてもここまでの成果を見れたのは行幸でした。」
「バレッサさんもお疲れ様でした。今度、更に商業ギルドから人を貸してもらうことになりますが大丈夫そうですか?」
「ええ、勿論です。ススム様の資料の作成方法やそろばん教室等は商人にとっても今後非常な重要な案件になりますのでこちらとしても助かる限りです。」
「ではそれはまた近日中にでも。」
以前からバレッサに対し今後資料の作成や纏め方、更にそろばんを普及させるためのそろばん教室などを国からの使者が来る前に先に商業ギルド員の一部を生徒として指導し、その生徒の中でも優秀なものを国からの使者への指導を行う際の担当にしようという相談を行っていた。
俺達は見送ったその足で学校に向かい、前伯爵が受け取った旗を飾るのを見届ける。
自然とスラム街の住民たちも集まり、旗が学校に掲げられると自然と感性と大きな拍手が上がった。
それから数日が経ち、何時もの自分たちの日常が戻った時であった。
俺が学校に何気なく行き礼拝堂であったであろう場所で少し休憩しようとしていた時である。
そこには一人の先客がいたがその人物には見覚えがある。
正確には『人』ではなかった。
「ヴェリティア様?」
『来ましたね。ススム。こちらへ。』
俺は幸運の女神ヴェリティアに招かれた席へと座る。
「どうかされたのですか?」
『ススム。話があります。【勇者】が降臨してしまいました。このままでは世界が滅ぶかも知れません。』
「えっ!?」
世界を救うべく存在するはずの勇者が降臨したことで世界が滅ぶ!?
なんだその究極の矛盾!!
「それはどう言った事でしょうか・・・?」
『これを。』
ベリティアはそう言い、既に完成された一時的なダンジョンのピースらしきものを俺に手渡す。
らしきものと言ったのは俺が今まで扱ってきたものとは雰囲気が明らかに違うからだ。
「俺にどうしろと?」
『封じられし私の親兄弟を助けて下さい。これは貴方にしか出来ない話です。』
「何故俺なんですか!?」
『頼みましたよ。』
「そんな!?ちょっと!!」
俺がそう言いかけた所でヴェリティアはスッと姿を消す。
俺が大きな声を出していたからだろうか、前伯爵が様子を見に来た。
「どうした、ススム。その様に一人で大きな声を出して。」
「ヴォルフガング様・・・。」
俺の思い詰めた表情を見て察したことがあるのだろう。
校長室に案内された。
「それで、何があった。」
「・・・ヴェリティア様にが俺に会いに来てあることを言いました。」
「ヴェリティア様が居たのか!?」
「はい。」
「して、なんと仰っておったのだ?」
「【勇者】が降臨したと。そして自身の親兄弟を助けてくれと・・・。」
「なんと・・・!!」
「ヴォルフガング様。どうやら僕はこの世界の神話を知る必要があるようです。勇者のこと、神々のこと、教えてもらえないでしょうか?」
「・・・、良かろう。」
そうして俺は前伯爵よりこの世界についてのことを改めて教えてもらうことになる。




