【第125話】ヴェリティア式結婚式
「それにしてもルミナリア教式結婚式以外での結婚式か。」
ヴォルフガングが少し悩んでいた。
「この国ではそれが一般的なんですよね?それ以外は異端になるとか?」
俺はこの国の常識を持ち合わせていないため結婚式がどのようなものになるのかといった知識がない。
「異端とまではいかないだろうが、聞いたことはないな。」
それにアリスが続いた。
「うーん・・・。私は庶民としての結婚式に何度か参加したことはあるけどやっぱりルミナリア教式しか記憶にないなあ。」
だがそれに異を唱えたのは意外にもサーシャだった。
「私は立場的に貴族間の結婚式も商人としての結婚式も見たことはありますが、貴族間は勿論ルミナリア式ですが、商人の結婚式ではヴェリティア様に習った結婚式というのも何度か見ましたよ。」
俺は思わず声を上げ驚いたが、以前の学校が開校した時、ヴェリティアが降臨し祝福を送ったことでその後暫く商人が押し寄せた事を思い出す。
「そうか。商人の間ではヴェリティア様は『幸運の女神』つまりは『商運の女神』として崇拝の対象になっていましたね。」
俺がそう言うとサーシャはにっこりと笑顔で頷く。
「そういえば、あの時は大変だったな。その後、跳ねっ返りのルビアが意外な才能を見せてそれから石像の建築を依頼したんだったな。」
ヴォルフガングがあの時を思い出し髭を撫でている。
そう、あのルビアが意外にも絵や芸術に長けているのが分かり、あの瞬間の絵を描きそれを石像として礼拝堂に祀るという話があった。
その後、バレッサが話を引き受けそのまま任せっきりになっていた。
「その・・・、ヴォルフガング様。提案なんですが結婚式は商人の結婚式に習いヴェリティア式結婚式でも問題はないでしょうか?」
俺がおずおずと聞くと逆にヴォルフガングが疑問に思ったようだ。
「うん?何故私に聞く?そもそもサーシャは正式に御主と結婚をすることにより伯爵家の身分から外れ庶民となるのだ。そうなれば貴族の外聞は何も関係はない。」
言われてみればそうだ。
サーシャが貴族としての身分を保ちつつの結婚であれば伯爵家の名に泥を塗る行為として言われるかも知れないが俺と籍が入ればその瞬間からサーシャは貴族の肩書が外れ庶民となる。
そして俺は気がついた。
「あ、もしかしてサーシャさん。それを見越しての発言でしたか?」
俺がサーシャの顔を見るとニコニコと笑顔を浮かべている。
本当にこの娘の思慮深さには頭が上がらない。
「ありがとうございます。明日バレッサさんと会い、祀る為の石像がどうなっているのか確認してきます。」
ということで俺達の結婚式はルミナリア式ではく商人達が好んで行うヴェリティア式になることが決まる。
翌朝、アリスとサーシャはいつも通り各々の仕事に向かい俺はバレッサに会いに商人ギルドを訪れていた。
暫くするとバレッサが笑顔で俺を迎えてくれる。
「ご結婚、おめでとうございます、ススム様。」
「あはは・・・。流石耳が早いですね。実はまだ書類の関係上籍は入ってはないんですがね。ありがとうございます。」
俺がそう言うと流石にその情報は持ってなかったようで役場での話をすると驚かれると同時に納得もされた。
「確かに・・・。状況が状況なので致し方がないでしょうか・・・。」
「まあ、しょうがないですね。大切なのことですので不備はないようにしたいですし。所で今日出向いた内容なんですがヴェリティア様の石像ってどうなっていますか?」
俺がそれを聞いた所でバレッサは瞬時に内容を理解したようだ。
「まあまあ。ではススム様達はもしかして商人達が行うヴェリティア式の結婚式を挙げるおつもりですか?」
「凄いですね。今のやり取りだけでもそこまで分かるんですか?」
俺はバレッサの頭の回転の速さに度肝を抜かれる。
「ふふ。商人とはこれぐらい頭が回らないと獲物にされてしまいますからね。」
「では僕は絶好の獲物ですね・・・。同じ階級なのがお恥ずかしいくらいだ。」
「私も、あの石像のことは気にかけており何度か見に行ってはおりましたが、最近は顔を出せておりませんでしたので一度確認に行きましょうか。」
「ええ、是非。」
俺とバレッサは席を立ち、石像を依頼している工房へと出向く。
「ここがその工房になります。ここの代表の者の作品は非常に人気が高く王宮にも何点か展示されているくらいなんですよ。」
「それは凄い。」
バレッサに先導してもない中に入るとカーン、カーンと石をノミで削っている音が聞こえてくる。
弟子の一人だろう若い男性が俺達に気が付き声を掛けてくれる。
「こちらです。足元にお気をつけてどうぞ。」
案内された工房の中は数人の職人と無数の大小様々な石や作りかけの石像などが並んでいた。
工房の一番奥で作業を行っていた人物がどうやらこの工房の主らしい。
「作業中お邪魔しますね、レオ。」
バレッサにレオと呼ばれたその人物は俺達の方をちらりと向き直ぐに自身の取り組んでいた物に向き直ってしまう。
「どうもすみません。師匠はいつもあんな様子なんで・・・。」
どうやら人付き合いよりも作品に集中したいタイプの人間のようだった。
「いえ、大丈夫ですよ。それにしても今レオさんが取り組んでいるのは例の?」
「どうやらその様ですね。前回来た時とあまり工数が変わってない様ですね。」
バレッサがそう言うとレオがじろりとこちらを睨んできた。
「・・・この作品はそう簡単に出来るものじゃない。何せ話によれば『本物の女神を模した』物らしいじゃないか。その本物を見たことがない俺がどうやってそれを形にしろっていうんだ?」
なるほど。
どうやら渡されたルビアのデッサンを形にする為のインスピレーションのような物が足りないようだ。
それもそうだろう。
依頼主から『本物の女神の姿』として依頼されてもそれを自身の目で見ていなければ何が本物なのかも理解できない話だ。
下手すれば狂人の妄言と思われてもおかしくはない。
だが今回は目撃者も多く話題性もあったため、レオは取り組んでいたのであろう。
だからといって昨日の今日で何度も目の前に現れてくれる訳じゃないだろうしなあ。
そんな事を思っていると何処かからか声が聞こえてきた。
『ふふ。そんな事はありませんよ?』
ええ・・・。まさか・・・?




