【第123話】二柱の言葉
俺は、今後行われる結婚式のことについて頭を巡らせるが、当然俺はこちらの人間ではなくこの世界での常識が欠如しているため悩んでも仕方がないと思い、アリスとサーシャに相談を持ちかけ、更には前伯爵でサーシャの祖父であるヴォルフガングに相談を行うことにした。
「こちらの学校に来るのも久しぶりだねえ。」
「本当ですわね。それにしても随分とススムさんは慕われているのですね?」
俺達がスラム街の街に入るかどうかの所で自警団の面々に声を掛けられ、今も俺達のことを案内してくれている。
「そらあ、ススムさんは俺達にとっては英雄そのものだからな!」
「だな!」
そんな事を言い自警団の面々は笑っている。
「あ、ススム様だー!」
「ススム様ー、今日はお仕事ー?」
学校が終わり昼を食べ満腹になった学校の生徒たちからも声がかかる。
「あはは。これから僕は大切なお話があってね。また今度遊ぼうか。」
俺がそんな事言うと子どもたちははしゃいでいる。
アリスとサーシャもそんな様子を見て柔らかい表情を浮かべている。
「学校が終わったって言うことは先生たちもいるかな。丁度いいから混ざってもらうか。」
俺達は学校に入と直ぐに職員室に向かい真壁先生達に声を掛けた。
「先生方。お疲れ様です。今日この後お話があったのですがお時間頂いてもよろしいでしょうか?」
俺が先生方にねぎらいの言葉をかけると今後のことを話していたフリューセル夫妻と真壁先生がこちらに気がつく。
「おお、これはこれは。誰かと思えば。今日は両手に花で羨ましいことだね。それに聞いたよ?ススム君、二人とご結婚なさるらしいじゃないか。おめでとう。」
真壁先生が代表して俺を祝ってくれる。
「どこからその情報を?」
「そりゃあ勿論我が校の学校長にしてススム君の義理の祖父になられるヴォルフガング様からに決まってるじゃないか。」
そう言われればヴォルフガング様って義理の祖父になるんだ、なんてことを今思い出す。
「全く、お祖父様ったら。」
それを聞いたサーシャは若干恥ずかしそうにしていたが、そりゃ大切にしていた孫娘だ。
しかも今は問題ないが少し前まで呪われた身として結婚等も全く考えられなかったのだ。
祖父としては嬉しいに決まっているだろう。
「まあまあ。それよりそのヴォルフガング様も混じえてお話を。」
「ああ、そうだったね。何処で話をするかな。」
「それでしたら礼拝堂が良いですね。」
俺は説明がしやすくするように礼拝堂を指定する。
「では私が呼んできます。」
そういいフリューセル夫妻のカイゼルが行ってくれることになったので俺達は礼拝堂に向かう。
「んー?でもなんで礼拝堂なの?」
アリスは不思議そうな顔をしていたが、サーシャも同じ様にわからないと言った表情を浮かべていた。
それもそうだろうな。
俺も少し前まではこんな事考えた無かったことだ。
礼拝堂に入りしばらくするとカイゼルがヴォルフガングを連れてやってきた。
「うむ、待たせたな。」
「いえ、お忙しい所すみません。非常に重要なお話だったので特にこの学校の関係者の人には聞いてもらいたく、急では有りましたが声を掛けさせていただいた次第ですので。」
「そうか。して、正式に籍は入ったのか?」
それを聞いたサーシャが若干憤慨しながら説明をした。
「なんと・・・。そんなことが。まあでも確かに事情も事情だ。前もって役場の人間に伝えておくべきだったか。」
こういう時に貴族風を吹かさず、上級国民であっても一庶民に代わりのない役場の職員に激昂すること無く、事情を理解し配慮を見せるという所を俺は非常に評価している。
「それで。ススム君。お話とは?」
真壁先生がメガネをくいっと上げながら話を促す。
「ああ、はい。では今からお話することは内密とまでは行きませんがあまり大っぴらにしないでくださいね。」
俺がそう言うと皆が一斉にぎょっとし身構えた。
「ヴェリティア様。それにディメイロン様。いらっしゃるのでしょう?」
俺の問いかけに答えるかのように何も無い空間よりディロンが出現する。
その光景を見た皆が口をあんぐりとするが続けて礼拝堂内に光が指し、その光の中よりヴェリティアが出てきたことで更に皆は言葉を失う。
『ふむ。我々をこうも簡単に召喚するのは過去にも先にも君くらいなものだ。』
『ふふ。良いではありませんか、ディメイロン。他でもないススムの頼みなのですから。』
『まあ、それもそうだな。』
そう言うとディロンは黒猫の姿から中性的な人形に姿を変える。
俺はそれを見て二人に跪く。
「突然お呼び立てして申し訳有りません。ですが事情が事情ですのでお二人をお呼び出しした次第です。」
俺がそういうと他の皆も一斉に同じ様に跪き頭を下げる。
「所でお二人の声は他の皆には聞こえているのでしょうか?」
俺がそう言いちらりと横を向くと、先程の声を聞いていた皆が首を一斉に縦に振って肯定した。
『聞こえているようだぞ?』
「その様ですね。助かります。まず僕の方から皆さんに説明をしてもいいでしょうか?」
俺がそう聞くとヴェリティアが優しい微笑みで答える。
『その方が理解しやすいでしょう。』
「では少し失礼します。」
俺は皆の方に向き直り話を始める。
その内容は、この世界に来た原因でありかつ世界に混乱をもたらしている『ルミナリア』との決定的な確執についてだった。
当然ながら、この世界ではルミナリアがほぼ唯一神の様に信仰されていて、かつこの国自体もルミナリアとの因縁が深く結びついている国。
そうは簡単には信じられないと言った表情を皆浮かべる。
だが、これを俺は予見していたため、他の同等の神である二柱を呼び出したのだ。
『ススムの話に相違はない。』
『はい。間違いないです。そしてこの話は今現在も進行形で進んでおり、ススムは準備を進めております。』
その言葉にどよめきが起き、ヴォルフガングがおずおずと言葉を出す。
「失礼ながらご発言を。まず二柱の神々であらせられるヴェリティア様、そしてディメイロン様のお姿を見ることが出来、更にお声を聞けたこと誠に嬉しきことと思っております。それを踏まえたうえでお聞かせください。こちらに居るススムは・・・、二柱の神々の『使徒』なのでしょうか?」
その言葉に俺は驚く。
今の世界に不満はあるが、この二柱の神々の使いっ走りになったわけではない。
俺は大切な者たちを守るために自分ができることをしているだけに過ぎない。
やることやって問題が解決したら関わりたくない存在達なのだ。
俺がそう思い二柱の神々をじっと見つめるとディメイロンとヴェリティアは俺の今の考えをすべて読んだ様でやれやれと言った表情で笑っている。
『知って通り、私には特定の信仰者を持たない。故に私自身が誰かを使徒として遇することはない。』
『私も同じ様にススムを使徒として扱ってはおりません。あくまで利害関係が一致している協力者と言ったところでしょうか。』
ふう、これでなんとか神様から直接的なお墨付きを貰えた。
「左様でございましたか。大変失礼致しました。」
ヴォルフガングは二柱の言葉を聞きすっと下がる。
恐らく今の言葉で今後の『国』としての俺の扱いを見定めたのだろう。
使徒であるならばそれはもう『人』ではない。
この国では頂点は王であるが、それ以上の存在ということになってしまう。
そうなれば『国』としての存在も危うくなるのだ。
俺は二柱の言葉も仮、事情を説明し、今の自分の立場を明確することが出来た。
「ヴェリティア様、ディメイロン様。わざわざご足労いただきありがとうございました。」
『いいえ。この程度でしたら。』
『ああ、そうだ。私は黒猫の時は、あくまで【黒猫のディロン】だ。くれぐれも間違わない様にしてくれ。』
そう言うとディメイロンはするすると姿を黒猫に変える。
「そうだ。ついでなので。お二人にお聞きしておきたいことが最後に。」
俺がそう聞くとヴェリティアが答える。
『何か有りましたか?』
「数日前、私は急に倒れ、丸三日間の夢を見ました。これはヴェリティア様は関わっていらっしゃいますか?」
俺が宗一郎の夢の話を聞くと、ヴェリティアはふるふると首を横に振った。
「そう・・・でしたか・・・。わかりました。お時間ありがとうございました。」
俺は改めて二柱の神たちに頭を下げるとヴェリティアはフッと消えた。
それを見届けたディロンもとことこと自分の足で礼拝堂の外に行ってしまう。
一気に場の空気が緩むのが聞こえた。
それにしても宗一郎の夢がヴェリティアもディメイロンも関わってなかったのは意外だった。
じゃあ一体俺は何だってあんな経験をしたんだろうか。




