【第105話】演劇デート
「そう言えば見てもらいたい素材が有るとか?」
ヴェルナーが思い出したように聞いてきて、俺もすっかり存在を忘れていた素材を収納鞄より取り出す。
ついこの間攻略した際の戦利品、『オリハルコンゴーレムの外殻』だ。
俺がそれを取り出した瞬間ヴェルナーの顔色がすぐに変わるのがわかった。
「その、独特な輝きを放つ金属!まさか・・・!」
「オリハルコンの様です。」
「オ、オリハルコンですか!?失礼しても!?」
「ええ、どうぞ。」
興奮気味のヴェルナーの様子を見るにやはり相当珍しいものなのだろう。
確かにゲームの中でも伝説級の金属として扱われることが多い金属だ。
「何ということだ・・・。確かにこの輝きは紛れもないオリハルコン・・・。だが、しかし・・・。」
そう言うとヴェルナーは黙りこくって考え事を始めてしまう。
何か問題が有るようだ。
「残念ながら当店では扱いは難しいかと・・・。」
反応から察する部分はあったが、この様に大きな商会でも扱えないという予想外の答えが返ってきたため理由を聞く。
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
「はい。一つは確かに特徴や鑑定の結果からもオリハルコンだということは間違いなのでしょうが、余りにも貴重な物。本の中でしか語られることしかないような一品であるため真贋鑑定が行えないということになります。」
「ふむ・・・。」
「それと仮に引き取り手が現れたとしても値段が付けられないという点、更には加工できる職人がいるかどうかも怪しいというこの3つの点が上げられます。」
「なるほど。」
確かにヴェルナーが突きつけてきた理由はどれも最もな理由となる。
下手な商品を扱えば商会の名に傷が付きかねない。
ならば最初から扱わないというのは最善の手だろう。
「そこで私から出来る提案は一つ。ススム様ご自身で職人を見つけられその職人の手に委ね自身の装備にするというのは如何でしょうか。」
「なるほど・・・。悪くない案です。」
俺には丁度研究熱心な鍛冶師と彫金師の知り合いがいる。
久しくあってないが物を見せれば良いものを作ってくれるかも知れない。
「提案ありがとうございました。そうさせて頂きます。」
「いえいえ、私としても伝説級の一品を実際の目で見ることが出来、眼福でございました。今後も継続してサーシャ様と連携し、ススム様の冒険に必要なものは叶えられる範囲でご用意したいと考えますのでどうぞこれからも宜しくお願い致します。」
「こちらこそ助かります。」
俺とヴェルナーは握手をしこの店を出ることにした。
時刻は丁度昼頃になっていたので穴熊亭に行きアリスと合流し食事を一緒に取ることにした。
「うわ、流石に昼時になるとすごい人だかりだ。」
穴熊亭に群がる人は以前にもまして増えている。
その為、自警団の連中を持ち回りで警備で毎日借りているし、従業員の数も徐々に増やしているようだ。
「おまたせー!」
「お疲れ様。待ってはいないけど穴熊亭大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。何かあったら連絡来るようになってるし、普段から私は裏方に徹してほぼ関わらないようにしてるしねえ。」
「なるほど。じゃあお昼食べに行こうか?何食べたい?」
俺がアリスとサーシャにそう聞くと二人は困ったように悩みだす。
「うん?どうかしたの?食べたいものがないとか?」
「いやあ、だってねえ・・・。ススム君のご飯の味を知っちゃったら・・・。」
「そうですね。この街でも超高級なお店でも正直霞んでしまうというか・・・。」
「あはは・・・。そういう事か。じゃあ、今日は皆で作ろうか。」
「それは良いねえ!」
「ええ、そうしましょう!」
俺達は材料を買い込み、家に戻り一緒に昼食を作ることにした。
今日は何時ぞやに仕込んでおいたパスタを使った簡単な昼食を皆で作る事にする。
「これで簡単な部類ってススム君、料理人に本格的になればいいのに。」
「あはは。まあここでだけ食べられる特別な食堂とでも思っておいて下さい。」
「そう言われると、特別感が増しますね!」
昼食後、演劇の時間まで少し合ったのでしっかりと食器を片付けた後俺達は各部屋に戻り支度をすることになった。
「うーん、これで大丈夫かな?」
『とっても似合ってますよ!ススム様!』
『御主人かっこいいのー!』
フィルルとポチは褒めてくれる。
「そうかなあ?お洒落は本当にしたことがないから合格点が良くわからん。」
俺は何度も見直しているとセリルから声がかかる。
「ススム様?お二人の準備は済んだようですが?」
「ああ、ごめんなさい。すぐ出ます。」
俺はその声に慌てて自室から出てリビングに向かうと、この前とは違う綺羅びやかだけど落ち着いた感じの余所行きの服で着飾ったアリスとサーシャの姿が目に入り、思わずぽーっとしてしまう。
「お、来たねえ!ススム君!」
「どうですか?どうですか?」
俺が魅入っていると二人から声がかかりアワアワしてしまう。
「何と言うか、ただただ魅入ってしまって言葉に出ませんでした・・・。」
俺が申し訳なさそうに言うと二人は見合ってにこーっと笑っている。
「ふふふ!なら良し!」
「ええ、最大の褒め言葉ですね。それに今日はススムさんもとても素敵ですよ!」
「こういったお洒落は本当にしたことがないし、二人に見劣りしてるんじゃないかと心配でならないよ。」
「そんなことないよ!とってもかっこいい!」
「ええ、流石私たちが見込んだだけのことはあります!」
「ええー・・・。まあ褒めて頂けて光栄です。」
そんなことを話しているとナナリーから声が掛かり馬車の準備ができたという。
サーシャ達が本格的にこの家に引っ越してきてからというもの、ナナリーが世話している馬と馬車もこの家の裏手で管理されているのでこうしたお出かけの際に馬車を出してもらえるのは正直助かる。
「さあ、二人とも。お手をよろしいでしょうか。」
俺がキザっぽくそんな事を言ってみると二人はノリノリで付き合ってくれる。
「「よろしくお願いします。」」
俺がエスコートし馬車に乗り込むと軽快に馬車は進み、あっという間に劇場前に到着する。
二人を下ろすと、ナナリーは頭を下げる。
「またお時間の頃、お迎えに参ります。」
「わかりました、ありがとう。」
やはり人気な演劇ということだけ有り、非常に賑わっている。
それでも前伯爵が用意してくれた席はVIP席だったようで、通された席は非常に優雅な席だった。
「うわぁ!こんな豪華な席を用意してくれたんだねえ!」
「本当に。今度ヴォルフガング様にお礼を言わなければいけないですね。」
俺とアリスがそんな事を言っていると、サーシャは逆に厳しめに返してくる。
「普段からあれだけ家に押しかけてきてるんですから十二分ですよ!」
「あはは・・・。」
少しおしゃべりをしていると、劇の始まるベルが鳴りいよいよこの国の物語、『ソーイチロー物語』の幕が上がる。




