【第103話】表と裏
「ふぁあぁ~あ・・・。」
昨日はダンジョン攻略していたことも有り非常に疲れてしまっていたのでスキルボードの更新をした後すぐに寝てしまった。
翌朝、比較的早くに目が覚めると俺よりも遥かに早起きをして身支度をしている女性陣達の声が遠くからしている。
俺はそんな声を遠巻きに聞きながらフィルルと共に朝食の支度を始める。
「ん!いい匂い!」
そう言ってまず最初に顔を出したのはアリスであった。
「おはよう、アリスさん。」
「おはよう、ススム君!いつも御飯作ってもらって悪いねえ。」
「あはは。気にすることじゃないさ。好きでやってるんだ。」
「流石、私たちが見込んだススムさんです!」
そう言って元気な声でサーシャ達も部屋に入ってくる。
「おはよう、サーシャさん。セリルさんとナナリーさんも。」
「本当にいつもいつも私たちの分まですみません・・・。」
セリルとナナリーが申し訳なさそうにしている。
「こういうのは適材適所ですよ。さ、出来たので食事にしましょう。」
そうして何時もの朝食が始まる。
「ススムさん。今日一日付き合ってもらうことって出来ますか?」
サーシャが唐突にそんな事を言い出す。
「一日です?商店に行くのは午前中だけかと思っていましたが。」
「うん、午後は私もお休みを取ってススム君とサーシャとデートなんてどうかな?って!」
「午後に二人とですか?」
「何か問題でもあったかな?」
そう言いサーシャとアリスが顔を覗いてきた。
「い、いや。何処に行こうともプランを練っていなかったので。」
「あはは。なんだー。そんなことか。」
アリスはサーシャと顔を見合わせ笑っている。
「実はですね。お祖父様からこんな物を頂いたのですよ!」
じゃーん!と取り出したサーシャの手にはチケットが握られている。
「チケット?」
「はい!この国では非常に有名なお芝居があるんです。ススムさんがこの国の成り立ちを知る良い勉強になるだろうということでお祖父様が用意してくれたんですが・・・、如何です?」
「国の成り立ちの勉強になるお芝居ですか?それは興味がありますね。良ければ是非!」
「じゃあ、午前中は私と一緒に商店に行って、午後はアリスと合流してお芝居を見ましょう!」
「本当は私も午前中から付いていきたかったんだけど店の見守りもあるし、なにより行く場所的に私的に楽しめそうになかったからねぇ。その分午後は楽しませてもらうよー!」
ということで今日の予定が決まる。
午前中の商店の見学は普段着のほうが良いだろうと良いことで、何時もの格好のままアリスを穴熊亭まで見送りその後サーシャ達と共にそのおすすめの商店へと向かう。
目的の商店は比較的穴熊亭に近いところにあった。
というか穴熊亭の位置が一等地に有りすぎるというのもあるとは思うが・・・。
だがその商店は5階建てでかなりでかい商店であった。
「ここのオーナーはこの街で年に1回行われるオークションの主催者でもあるんですよ。」
サーシャがその様な説明をしてくれる。
「ほー・・・。オーナーさんとは知り合いなんですか?」
「そうですね。『同じ趣味を持つもの』とでも言えばわかりますか?」
「なっ!?」
「しー。それ以上は心のなかで。」
ぐはぁ!サーシャがかわいい顔してウィンクなんてするもんだからおっさんときめいてしまったよ!
俺は違う意味でドキドキしながらその商店前に行くと、当然ながらドアマンに止められるがサーシャが自身の商業者登録票を取り出すと直ぐにドアマンは招き入れてくれる。
なるほど。
これが話に聞いていた『一定以上の階級の者しか入ることが許されない場所』ということなのか。
俺もドアマンに一応、商業者登録票を見せるとドアマンの表情は一気に変わる。
俺が疑問な表情を浮かべていると横でサーシャが笑いをこらえているのがわかった。
「何か悪いことしたのかな?」
「いいえ、ススムさんは『有名人』ですから。ほら、お越しになりましたよ。」
サーシャの示す先には細身の髭がよく似合う如何にも紳士という男性が向ってきた。
「いらっしゃいませ。お久しぶりです。サーシャ様。」
「お久しぶりです。ヴェルナー男爵。今日は私の『大切なお方』をお連れ致しました。」
ヴェルナー男爵と呼ばれた男は俺の顔を見るとにっこりと微笑む。
「その様ですね。お初にお目にかかることが出来光栄でございます。ススム様。私はこの『紫苑堂』の主でヴェルナー・フリードリヒ・フォン・ハイデンベルクと申します。宜しくお願い致します。」
差し出された手を握り返しながら僕は聞いた。
「初めましてヴェルナー男爵閣下。僕のことを何故ご存知で?」
「どうか気軽にヴェルナーとお呼び下さい。それにこの街でススム様のことを知らない商人はモグリですよ。」
「ええ・・・。そんなに有名なんですか?」
「それはもう。幸運の女神に愛されし者として。同じ商人としては羨ましい限りです。」
「あはは・・・。まあ、たまたまですかね・・・?」
「ご謙遜を。さて、立ち話もなんですし本日わざわざお越し頂きました件をお伺いしても?」
「実はサーシャさんの紹介でこちらに越させて頂きまして、特別これと言った直接的な目的はないんです。ただ色々な装備品を扱われているとのことでしたので見学したいなと。後は一点見ていただきたい素材があるのですが。」
「なるほど・・・。ススム様は最近『金級冒険者』にもなられたんですよね。いやはや素晴らしいご才能です。お力添えできればと思いますので、ご案内致しましょう。」
そう言ってヴェルナーはこの大きな商館を案内してくれるとのことだ。
流石に年一回、オークションを開いている胴元ということも有り非常に様々な品物が並んでいる。
それこそ美術的な物から、武器防具等様々だ。
どうやら価格帯で階層が決まっているようで上に行くほど価値やレアリティが高くなっているようだ。
「ちなみにお聞きしたいのですがこの店で扱っている装備品などで等級が一番高いものはなんですか?」
「ふむ、流石は金級冒険者様。良いご質問です。当店で一番等級が高いものは『ミスティック』になります。」
「『ミスティック』があるんですか!?」
ミスティックと言えば上から2番目のレアリティであり、俺が所持している最高等級『レジェンド』のその次の等級だ。
「ええ、当商館でも最大の目玉の商品ですよ。普段は厳重に金庫にしまい込んでいるのですが・・・、そうですね。ススム様にでしたらお見せ致しましょう。」
「本当ですか!?」
「ええ。ではこちらに。」
そうして通されたのは一番最上階にある警備が最も厳重なフロアだった。
その中でも異質な部屋が存在している。
どうやらこの一室丸々金庫になっている様な部屋にその品物は有るようだ。
「只今お持ち致しますのでどうぞこちらでお掛けになってお待ち下さい。」
そう言われ俺とサーシャは案内された席に座る。
暫くすると警備員に付き添われたヴェルナーがその品物を持ってくる。
「お待たせ致しました。こちらがその『ミスティック』等級の片手剣になります『エーテルブレイド』でございます。」
机の上に慎重に置かれた『エーテルブレイド』からは確かに詳しく見なくても分かるほどの圧倒的な威圧感を放っている。
「これが『ミスティック』等級・・・。」
「宜しければよくよくご覧になって下さい。」
「では失礼します。」
俺は机の上に設置された『エーテルブレイド』を見てみるとその性能が明らかになる。
【ミスティック:エーテルブレイド】
効果:HP+15、MP+8、STR+13、VIT+8、AGI+8
鑑定効果:【基本攻撃】属性の威力が20%上昇する。時々2回攻撃が発生する。
空きスロット:2個
「嘘だろう・・・。」
俺は余りの事実に表情が抜け落ち真顔になる。
「うわ!すごい性能ですね!流石ミスティック!!この目で見られるだなんて眼福ですー。」
俺の反応とは逆にサーシャがとんでもなく燥いで居るのが対比的になってしまう。
「ススム様、如何ですか?金級冒険者様としてご感想をいただければより当紹介の目玉商品としての価値が上がるかと思うのですが?」
期待満々と言った表情で聞いてくるヴェルナーと目が会い俺は戸惑ってしまう。
「え、ええ・・・。そうですね。流石ミスティックと言ったところでしょうか・・・。」
俺のその反応を見るなりヴェルナーの表情が変わる。
ヴェルナーは護衛に声を掛け、『エーテルブレイド』を金庫に戻すよう指示をする。
俺は悪い印象を与えたと思い弁明しようとするがそれをヴェルナーが制した。
「ススム様、少々お待ちください。『もう少しお待ちいただけたならば』お話をお伺い致します。」
そう言い、完全にこの部屋からヴェルナーと俺達以外の人間が立ち去ったことでヴェルナーはドアを締め切りそして話を切り出す。
「さて、如何でしたか?当紹介自慢の一品は?きっとススム様の『お気には召さなかった』でしょう?」
一瞬ヴェルナーの言っていることが理解できなかった。
『お気に召した』では無く『お気には召さなかった』だと?
それではまるで・・・。
「残念ながら、『表』で知られているミスティックの性能はこの程度なのですよ。ススム様。」
その含みをもたせた言い方、更にはサーシャは最初に『同じ趣味を持つもの』と言っていた。
つまるところヴェルナーは・・・。
「お察しの通りでございます。私も【呪われた装備】に魅せられた商人の一人でございます。」
「やはりですか・・・。」
俺がそう言うとヴェルナーはにっこりと微笑む。
「『呪われた亡霊』の二つ名をお持ちになるススム様に実際に『エーテルブレイド』を見て頂けたこと、本当にありがたく思います。何せあの武器の本当の価値を図れるお方に見てもらうことが出来たのですから。」
「もしかして最近、サーシャさんが【呪われた】ダンジョンのピースを大量に入手してきたのも?」
「ご明察。私が陰ながらお助けさせて頂いておりました。」
俺がサーシャを見るとサーシャは何時もの様ににっこりと笑っている。
「なるほど。流石にサーシャさんにはお見通しでしたか。」
「ふふ。何のことでしょうね?」
サーシャはとぼけているがサーシャには最近の俺の考えや疑問がお見通しだったのかも知れない。
だから、こうして世間では【呪われていない】所謂『表』の装備品を見る機会をくれたのだろう。
そう俺が考えているとヴェルナーが急に俺の近くにきたかと思うと跪き、頭を垂れる。
「な、何をなさっているんです!?」
「ススム様、不躾なお願い事で大変恐縮ではございますが、何卒このヴェルナーにススム様の装備品をなにか見せて頂けないでしょうか?」
男爵という爵位持ちが一冒険者の市民にこうして頭を下げるのははっきり言って異常事態だ。
俺は慌てながら答える。
「頭を上げて下さい、ヴェルナー様。サーシャさんのご友人でしかも支援までしてくださってくれていたのです。そこまでして頂けなくてもお見せ致しますので。」
俺がそう言うとヴェルナーはバッと顔を上げて感謝を伝えてくる。
「おおお・・・!ありがたき幸せ!!」
「ですが、僕の装備は御存知の通り【呪われた装備】が大半であって、その性能は読めないと思いますが?」
「ええ、存じております。ですので少々お待ち下さい。」
そう言うとヴェルナー部屋から退出すると思うと直ぐに一人の女声を伴って部屋に入ってきた。
「紹介致します。私の妻で名をヘレナと申します。」
妻として紹介を受けたヘレナは頭を下げる。
そしてヘレナは予想外の自己紹介を始めた。
「Nice to meet you. My name is Helena.(初めまして。私の名前はヘレナです。)どうぞお見知りおきを、ススム様。」
「英語!?ということはヘレナさんも・・・?」
「はい、所謂『迷い人』でございます。元はアメリカのカルフォルニアに住んでおりました。ススム様は風貌から察するにアジア人ですよね?中国か日本のお方でしょうか?」
「日本人です。そうでしたか・・・。大変な目に会いましたね。」
「ええ、ですがこうして今は夫に支えられこちらでの生活の方が長くなったくらいですのよ。」
「そうでしたか。ではもしかしてヘレナさんは『あのスキル』をお持ちなんですか?」
俺がそう言うとヘレナはニコリと笑みだけを浮かべて答える。




