番外編 第1話 追い抜かないでください、閣下
本編は完結したのですが、番外編を書くために一度、完結済を外しました。
(システムがわかってませんでした)
混乱させてしまった方がいたら、すみません。
南辺境伯騎士団の騎士カッケルは、誇り高き早馬の名手である。
王都への伝令といえば、彼の名がまず挙がる。通常十日かかる道のりを、五日で駆け抜けるその腕前は、騎士団内でも群を抜いていた。
誰にも真似できない――そう、あの方以外は。
「バルト辺境伯閣下だけは、ほんと、勘弁してほしいんですよ……」
御年四十。まだまだ現役の騎士であり、剣も馬も衰え知らず。
カッケルは閣下を心から尊敬している。しているのだが、こと“早馬”に関してだけは、話が別だ。
「閣下、いつ出発されるんですか?王城への先ぶれですから、決して自分を抜かないでくださいね」
何度そうお願いしたことか。
そのたびに閣下は、にっこりと笑ってこう言うのだ。
「そんなこと、わかっとる。のんびり行くから、お前も安心していってこい」
――だまされる。毎回だ。
気づけば、王都の門前で閣下の馬が先に立っている。
しかも、涼しい顔で「おう、来たか」と言われる始末。
「面目が、立たないんですよ……」
最近では王陛下も事情を察してくださっているようで、叱られることはなくなった。
それでも、騎士団一の早馬としての誇りが、少しだけ傷つく。
だが、帰り道には閣下が王都の名店で豪華な夕餉をご馳走してくださる。
焼きたての鹿肉、香草のスープ、ふわふわの白パン。
「まあ、いいか」と思えるのは、その味と、閣下の笑顔のせいだ。
それでも、次こそは――と、カッケルは馬の手綱を握り直す。
南の風を切って走るその背に、騎士としての誇りと、ちょっとした意地が乗っていた。
カッケルのエピソード、書きたかったんです。
カッケル、ガンバ!




