その14
太陽暦536年11月、その儀式は執り行われた。
もう一組の婚約が決まってから、数日後のことだった。
リ・リラとエリオは、それぞれ違う控え室にいた。
「閣下、準備は出来ましたか?」
シャルスは、控え室でエリオにそう声を掛けた。
控え室には、エリオがいるのは勿論、介添人として、シャルス、マキオ、サキオがいた。
介添人の人数は決まってはいないが、未婚同性の近しい者が担当する。
具体的には、兄弟、乳兄弟、従兄弟、再従兄弟、その他、親友とかになる。
幸い、クライセン家にはそれなりの人材がいたので、エリオでさえ、介添人には困らなかった。
介添人はあまり多くなっても仕方がないので、3人であった。
エリオはシャルスに言われて、持ち物の検査の為、あっちこっち、自分の体を調べていた。
「???」
エリオは、案の定、準備が出来たがどうか分からないと言った顔をしていた。
「服装は、ちゃんとしていますので、後は、『結い紐の儀』の紐と、儀式の後、介添人に渡す杖ですよ」
シャルスは、やれやれと思いながらそうアドバイスした。
いつもなら、マイルスターがやってくれるのだが、彼はここにはいない。
今回は、招待客として会場の方にいた。
そして、マキオとサキオは、そういう件に関しては全く役に立たない。
なので、介添人としては失格である。
という事で、シャルスがその役目を果たす他無かった。
「うん、大丈夫」
エリオは、左手首に巻いている紐と、腰に差してある杖を見て、そう言った。
くすくす……。
準備を手伝ってくれた2人の侍女達が思わず笑ってしまった。
まあ、馬鹿にして笑ったというか、微笑ましくて笑ったのだった。
それに対して、エリオは無反応だった。
まあ、笑われる事には、慣れているからだった。
(やれやれ……、大丈夫かな?)
シャルスは、思いやられていた。
「この度は、ご結婚おめでとうございます」
マキオは、待ちきれないとばかりにお祝いの言葉をエリオに掛けた。
「ええっと、ありがとう……、まだ、始まってはいないけど……」
エリオは、マキオの圧に押されるように、そう答えた。
だが、現状把握が出来ているのはエリオらしかった。
「それにしても、本当におめでとうございます」
サキオの方は、しみじみとそう祝った。
「はぁ、ありがとう……」
エリオは、サキオの言い方がちょっと気になった。
「確かに、ご婚約から結構時間が掛かりましたからね。
ちょっと気を揉みました」
マキオも、サキオに釣られたのかしみじみとしていた。
決まってはいないが、婚約発表からあまり時を置かないのが、通例である。
なので、リ・リラとエリオのように、紆余曲折する事はあまりない。
と言うか、紆余曲折してはいないか……。
「これで、我々も安心できます」
サキオは、うんうん頷きながらそう言った。
エリオは、それだけ周りに心配を掛けていたと言う事を思い知る事となった。
(まあ、気持ちは分からなくはないけど……)
それに対して、シャルスは呆れていた。
2人の事情としては、こうである。
兄貴であるエリオを差し置いて、自分達が先に結婚する訳には行かなかった。
これで、漸く自分達は結婚できるという事情があった。
とは言え、呆れているシャルスも事情は同じである。
控え室では、エリオの思いとは裏腹に、それぞれの思惑が入り乱れていた。
そもそもの原因が、リ・リラとエリオのポンコツさにあるのだから、致し方が無いだろう。
そういう意味では、周りの人間達は、諦めの境地にいたのだった。




