その16
荒れるかなと思われた報告に対してもサラサは上機嫌のままだった。
やはり、サラサの成長が大きいのだろう。
だが、まあ、それだけではなかった。
兎に角、安心したのだった。
今回の旅では、今までは体験できない事を経験してきたのは間違いがなかった。
それを乗り越えて、無事こうして戻ってこられたのは何よりである。
いや、まあ、無事ではないですね。
バンデリックは、一生直らない傷を負ったのだから……。
だが、まあ、幸いな事なのだろうか、本人はそれを全く気にしていなかった。
と言うより、あれだけ危機的な状況で、これだけで済んで良かったとさえ思っているようだ。
そして、今回の海戦で、自分の体が海戦に耐えうる事が確認できた。
まあ、まだ慣れが必要があるのだが……。
とは言え、それは、サラサの傍にいる事が出来るという何にも代えがたい事であった。
でも、まあ、やっぱり、バンデリックは、M体質なのだろうな。
本人は気にしてはいないので、あまり触れないでおくが……。
(まあ、今回は色々とあったけど、一番被害を受けた張本人が平気な顔をしているから、問題ないわね)
サラサは、普段と同じように振る舞まうとした。
だが、心の中ではずっとバンデリックを気にしていた事は言うまでもない。
でも、まあ、それより、サラサとバンデリック以外の周りの人間達が、ハラハラしていた。
当然、2人には気付かれてはいない。
そこが、サラサ艦隊が上手く行っている要因でもある。
まあ、それはさておき、サラサやバンデリックだけではなく、艦隊の全員が2人の関係が問題ない事を確信して安心していた。
こうして、トット連盟への密使から始まった一連の件は終了を見せた。
そして、母港のワタトラが視界に入ってきた。
「全方位、周辺に敵影なし」
バンデリックが、改めて報告を行った。
「よろしい。
全艦、ワタトラへ入港せよ」
サラサは、笑顔でそう命令をした。
わぁぁぁっ!!
命令と共に、全艦から歓声が沸き上がった。
この辺はサラサのアイドル性を示すもので、エリオ艦隊とは真逆である。
とは言え、今回に関しては、艦隊の面々も大いに肝を冷やした結果なのだろう。
いつも以上に、喜んでいた。
そして、その歓喜は港に近付くにつれて、広がっていった。
岸壁には、ワタトラ市民が歓声を持ってサラサ艦隊を出迎えていた。
サラサの危機は、機密なんてないが如く、市民が知る事となっていた。
そんな危機的な状況からの生還である。
アイドルであるサラサに対して、市民が歓喜の声を上げない訳はなかった。
入港中、サラサはずっと笑顔で手を振っていた。
そして、それを見てバンデリックはなぜか気難しい顔をした。
これだけ派手なのはないが、間々ある事だった。
だが、こうなるとクローズアップされてくるものがある。
それは、サラサが背負っている期待である。
バンデリックから見たら、重圧である。
その大きさを改めて認識させられていた。
バンデリックは、手を振っている華奢なサラサを見ていると、それはとても大変そうに思えた。
(私が支えていかなくてはならない!)
バンデリックは、急にらしくない感情が湧いて出てきた。
これは、たぶん彼自身の成長の表れだろう。
えっ?と思われるかも知れないが、今回、死にそうな目に遭って気付かされたのだろう。
「???」
サラサは、何だか異様な雰囲気をバンデリックに感じて思わず振り向いてしまった。
「閣下、私と結婚してくれませんか?」
バンデリックはサラサの顔を見ると、自然にそう言っていた。
「ええ、いいわよ」
サラサはびっくりした様子は全く見せずに、飛びっきりの笑顔でそう答えた。
それはごく自然な流れであった。
目敏い旗艦の水兵達は、サラサとバンデリックのやり取りを静かに無言で注視していた。
「でも、2人で御父様に許可を貰いに行かないとね」
サラサはやけに静かな旗艦上で、そう続けた。
うぁぁぁっ!!
旗艦だけが大いに盛り上がったのは言うまでもなかった。




