その15
最後に、帰還途中のサラサである。
ワルデスク艦隊の追撃を振り切ってのワタトラへの帰還だった。
正直、不満がない訳ではなかった。
まともに戦っても、勝てたからである。
傲慢ではあるが、恐らく虚構ではないである所に始末の悪さが滲み出ていた。
以前のサラサだと、勝てる戦をみすみす逃す手はないと考えていただろう。
だが、そんな事は、気にはならなくなっていた。
オーマ艦隊も無事離脱できたとの報を受けると、益々気にならなくなった。
それは、サラサが成長している証と思ってもいいだろう。
まあ、そんな事はどうでもいいぐらい、サラサは、甲板上で、気分良く過ごしていたのだった。
(上機嫌だが、これは知らせない方がいいのだか……)
バンデリックは、紙を持ったまま突っ立っていた。
負傷した左足は、もう元には戻らないだろう。
とは言え、海戦には耐えうるからだという事を確認できた。
バンデリックとしても、晴れやかな気分だったのだが、紙を受け取ってからその気分が暗転していた。
紙の内容は、緊急性はないが伝えない訳には行かないものである。
そう、紙である。
バンデリックは、あくまでも報告書ではなく紙に拘っていた。
となると、さっさと報告すればいいのだった。
「どうしたの?足でも痛むの?」
サラサは、バンデリックが突っ立ったまま何もしようとしないので聞いてみた。
結構、敏感な部分を軽くネタのように扱い感があった。
こういう言い方をするのは、サラサなりに安心した結果である。
「いえ、大丈夫です……」
バンデリックはサラサの気持ちが分かっていたので、苦笑いしただけだった。
「で、碌でもない報が入ったのね」
サラサは視線を紙に移して、嫌そうな表情になった。
もう、この辺は以心伝心であった。
「それは、解釈次第かと思われます」
バンデリックは、サラサの嫌そうな表情を見て微笑んでしまった。
「勿体ぶらないで、報告なさい」
サラサの本心としては、そんな報告は聞きたくはなかった。
だが、まあ、艦隊司令官としてはそれはないだろうという事である。
「クライセン総旗艦艦隊とワルデスク艦隊が交戦。
クライセン公が、ワルデスク候を討ち取ったの事です」
バンデリックは、先ずはそう報告した。
「ぼやぼやしているから、喧嘩を吹っかけられたと言う事ね」
サラサは、状況を端的に全てを説明していた。
ただ気が付いていないのか、視点はエリオ側にあった。
当然、バンデリックの方は気が付いていた。
が、それを指摘するだけ命知らずではなかった。
笑いたいのをぐっと堪える為に、真面目な副官の表情を作っていた。
「両艦隊は、その後停戦。
報告にて、会談が持たれるとの事です」
バンデリックは、そう続けた。
「美味しい所は、全部、あれが持って行くという事?」
サラサは、不満げに言った。
とは言え、以前のように好戦的ではなかった。
今回の任務で身に染みたのだろうか?
まずは、自分達の安全が第一だという事を。
この変化は、今後のサラサにどういった影響を及ぼすのか、興味深い。
(美味しい所かどうかは、見方によりますよね……?)
バンデリックは口には出さなかったが、サラサとは違う見解であった。
面倒な事態に巻き込まれたエリオを慮っていたからだった。
まあ、バンデリックにとって、エリオの事はとても他人事のようには思えないからである。
色々と考えてしまうのだろう。
「でも、まあ、これで面倒事は全てリーランが引き受けてくれた事になるのかしらね」
サラサはバンデリックの心を見透かしたかのように、そう言うと、悪戯っぽく笑った。
「!!!」
バンデリックがドキッとしたのは言うまでもなかった。




