その13
「では、何を御懸念なさっているのですか?」
ローグ伯の追求は弱まらなかった。
いつの間にか、エリオが何かを懸念している事になっていた。
おかしな話である。
「いえ、今回、相手のトップとして、フランデブルグ伯が出てきましたよね」
エリオは、仕方がないので説明を始めた。
その第一歩として、確認から入った。
これも、おかしな話である。
「はい、左様ですが……」
ローグ伯は頷いてはいたが、全く状況が把握できていないという表情だった。
まあ、説明が始まったばかりなので仕方がない。
「彼は13貴族ではないし、それに連なる者でもないですよね」
エリオは続けて説明した。
「と言う事は、閣下は、合意が破られる危険性があると?」
ローグ伯は十分前のめりになっていたので、即効で結論に持って行こうとしていた。
「合意が破られる事自体は懸念すべき点ではありません」
エリオは、前のめりになっているローグ伯を見て、苦笑いしてしまった。
ローグ伯は、大使なのでこう言った感じになる事は滅多にない。
隣に住んでいた時も、こうではなかった。
『漆黒の闇』に当てられているのは間違いなかった。
「どういう事です?」
ローグ伯は苦笑いされてしまったので、少しは冷静になったようだ。
「まず、海戦後、遺恨なしとは行かないでしょう。
しかし、即再戦という訳には行かないので、まあ、影響はほとんどないでしょう」
エリオは、そう説明した。
「……」
ローグ伯は、それに関しては敢えて何も言及しなかった。
『漆黒の闇』だから言える事だと感じたからだ。
そして、そこまで言うのなら安心とも思った。
「商人達の解放に関しても、一度解放してしまえば、後は何と言われても後の祭りです。
なので、問題ありません」
エリオはローグ伯に聞く姿勢が出来ていたので、続けて説明した。
「では、懸念点がなくなりますが……」
ローグ伯は、首を傾げながらそう言った。
だが、この指摘はおかしい。
最初から、懸念点など存在していないからだ。
何でこう言う話になったかというと、エリオが変な事を考えていたからだった。
「私が考えていたのは、フランデブルグ伯の事ですよ」
エリオは、同情したようにそう言った。
そして、これがエリオの考えていた変な事であった。
「はい?」
ローグ伯は、思わぬ言葉に驚きを隠せなかった。
「彼が本国に帰ったら、処断されるでしょうな」
エリオは、この際だから続きを話した。
「左様ですな……」
ローグ伯は完全に当てが外れてしまい、脱力した。
リーラン王国の危機だと感じていたのが、全く違っていたのだからそうなるだろう。
なので、おかしな話はここで終わりかに見えた。
「フランデブルグ伯は、話の分かる人物のようでしたから気になるのですか?」
マイルスターが、いつもの和やかな表情でそう尋ねた。
マイルスターにとっては、エリオがなぜそれを考えているのかが気になった。
隣のシャルスも、エリオの闇の部分が見られると期待しているようだった。
「いや、そうじゃなくてな。
人の責任を押しつけられるって、結構キツいよなと思ってね」
エリオは、心から同情しているようだった。
……。
エリオの言葉を聞いた3人は、黙りこくってしまった。
どう考えても、エリオの予想した未来図が的中すると考えたからだ。
そして、そうなった時……。
誰しも、こういった事態に陥らないように願うばかりだった。




