その12
「意外とすんなりと行きましたね」
マイルスターは、和やかだが些か拍子抜けしたようにそう言った。
エリオ一行は、会議後、リーラン王国の大使館に引き上げており、休憩していた。
「……」
エリオは、マイルスターの言葉に反応しなかった。
そうなると、必然的に場に沈黙が訪れてしまった。
……。
マイルスターは確認するかのように、シャルスを見た。
シャルスの方は、マイルスターを見て首を横に振るのだった。
まあ、要するに思い当たる節はないとの事である。
とは言え、この2人、慣れているので別に気にはしてはいなかった。
また、何か、変な事を考えているのだろうと思っていた。
大変な事が起きている場合、こうやってのんびりと休憩している筈がないからだ。
が、ローグ伯はそうは考えなかった。
旧知の仲ではあるが、それはエリオがまだ幼かった頃に話である。
クライセン艦隊の実質的な指揮を取り始めた頃からはあまり接点がなかったからだ。
なので、戸惑っていた。
「公爵閣下、何か、ご懸念でも?」
ローグ伯は、そう聞いてしまった。
その様子を見て、マイルスターは苦笑いしながらシャルスを見た。
シャルスはいつもの表情で、何ともないと言った表情で、マイルスターを見返していた。
まあ、大方予想しているのだろう。
「いやぁ、特には……」
エリオは、いやに間延びした言い方をしていた。
それが却って、ローグ伯の疑念を深めたのは言うまでもなかった。
まあ、マイルスターとシャルスの方はこの際、書くのが面倒なので放っておこう。
「海戦に関しましては、これ以降遺恨は持ち込まないという事で妥結しました。
現在、軟禁中の商人達は、お咎めなしと言う事で、放免。
それに伴い、クラセックも即時釈放となりました」
ローグ伯は、会議の結果を確認するように述べた。
「……」
エリオの方は、それをのほほんと言った表情で聞いていた。
無論、反応が全くない。
こうなると、真面目な人間は不思議なものである。
益々焦ってくるのである。
ローグ伯は、何か、見落としていると思って必死に頭を回転させていた。
が、当然、思い当たる節などはなかった。
だが、真面目でよく気が利く人間であるローグ伯はハッとした。
「もしかして、ワタトラ伯の事でしょうか?」
ローグ伯は、議題に上がらなかったサラサの事まで持ち出していた。
「あっ……」
エリオは、サラサの名前を出されて現実に戻ってきたような表情になった。
それは、決してサラサへの対抗心からではない。
そんなもの、端っからないからだ。
それよりも、放っておくとどんどんと話が変な方向に行ってしまう事を認識せざるを得なかった。
実際、ローグ伯は、喰らい付かんばかりの表情へと変わっていた。
「ローグ伯、今回の会議は全て上手く行きました。
こちらの要求が全て通ったのですから」
エリオは少し焦っていたが、極めて抑制的に話した。
これ以上、ローグ伯を興奮させる訳にはいかなかったからだ。
「しかし、ワタトラ伯の事はどうお考えですか?」
ローグ伯は、それでも追求を止めないといった感じだった。
「彼女の場合、自分の力で強引に突破していきましたからねぇ……。
それに関しては、我々が関知する事ではないでしょう」
エリオは、サラサの見事過ぎる逃げっぷりに感心していた。
今回の事後処理には、勿論、サラサの事は含まれていない。
自力で脱出していったので、どうにもならないといった感じである。
だが、今回の中心人物は間違いなくサラサである。
そのサラサに関しての議題が、全て吹き飛んでしまっているのも、妙な話であった。
まあ、外交ではよくある話の一つとかも知れない。




