その2
さて、もう一方の方である。
フランデブルグ伯は、法国に気を遣われたのか、エリオ達とは離れた桟橋に降り立っていた。
「果たして、これで良かったのだろうか?」
フランデブルグ伯は、そう口走ってしまった。
今更ながら、いや、ここに来るまで、ずっとやっちまった感を持ち続けていた。
それがついに、抑えられなくなってしまい、言葉に出てしまったと言う事だろう。
とは言え、伯爵の表情は言うんじゃなかったというものではなかった。
寧ろ、側近の意見を聞きたいという感じになっていた。
「はぁ……」
サズーは、何と答えを返していいか迷った。
そう、頭に浮かんだのは、「今更かよ」という文字だった。
とは言え、艦隊参謀長らしく、冷静に考えなくてはならないと思い返した。
傍らには、憔悴している指揮官、何とも言えない表情の副官がいた。
「とは言え、もうやってしまった事だからな……。
今更、どうにもならないのだが……」
フランデブルグ伯は、自虐的にそう言った。
サズーの言葉がすぐに返ってこなかった影響もあった。
「うっ……」
サズーは、同じくもうどうにもならないと言おうとしていた。
それを言われてしまったので、言葉に詰まってしまったは言うまでもなかった。
だが、直ぐに、冷静になる必要があると考えた。
「閣下、良いか悪いかは、今後の展開次第かと思います」
サズーは、先ずは目の前の状況に集中するように促した。
「まあ、そうなんだがな……」
フランデブルグ伯は、自嘲気味な笑顔でそう同調した。
「とは言え、戦場での閣下の行いは良かったと思えます。
結果的には、味方の多くの将兵を救えたのですから」
サズーは、考え得る良い点を挙げた。
ただ、これはお世辞とかではなく、本心からの発言だった。
特に、無駄な犠牲を防いだ事は賞賛に値すると思っていた。
まあ、これが、本国ではどう評価されるかは別なのだが……。
「まあ、部下達にそう思ってもらえるのなら、恥を掻いた事も無駄ではなかったな……」
フランデブルグ伯は、しみじみとそう言っていたが、何処となく確信が持てないようだった。
「閣下、その点はご心配に及びません。
私を始め、多くの将兵が例外なくそう感じていると思います。
そして、閣下に感謝しています」
サズーは、きっぱりとそう言った。
「そうか、それならば良かったよ」
フランデブルグ伯は、憔悴している中、笑顔を浮かべた。
サズーは、それを見て少しは安心した。
「それにしても、恐ろしい敵というものはいるもんだな……」
フランデブルグ伯は、ポツリと呟くように言った。
「!!!」
サズーは、びっくりしながらも興味ありげに伯爵を見た。
あの時、どうしてああいった決断を下したのかを聞けそうだったからだ。
「あの時、クライセン公は我々の停戦要求を受け入れた。
そして、ものの見事に停戦した。
あれは凄かったな……」
フランデブルグ伯は、遠い目をしていた。
でも、おかしい事に、相手方のエリオの方もそう思っていた点である。
2人は、意外と気が合う同士なのかも知れない。
それは、果たしてどちらにとっての名誉なのだろうか?
あっ、まあ、言うまでもない事でしたね……。
「確かに、そうでしたな……」
サズーは同意したが、何か引っ掛かるものがあった。
「あんな見事な芸当が出来るんだ。
戦っていたら、どんな酷い目に遭わされていたか……」
フランデブルグ伯は、その時の損害を予想すると身震いした。
「確かにそうですな」
サズーは、先程の引っ掛かるものがなくなったように、完全に同意した。
言われてみれば、確かにその通りだ。
あれだけ見事な艦隊運動が出来るのだ。
そう考えると、既に半包囲下に置かれたワルデスク艦隊はもとより、数的不利になったフランデブルグ艦隊も只では済まなかった事が容易に想像できた。
「あれは確かに、『漆黒の闇』だったな」
フランデブルグ伯はそう言うと、生還できた事をもっと喜ぶべきかも知れないと感じ始めていた。




