その16
「!!!」
「!!!」
グラリッチとトピーズは、目の前の光景が信じられずに、唖然としていた。
ドッカーン!
轟音と共に、1隻の艦が吹っ飛んでいた。
沈んでいくという生易しいものではなかった。
2人は商人であると共に、船乗りである。
よって、艦と艦の距離は見間違えるという事はまずない。
ワルデスク艦隊側は砲撃を続けていたが、当てる事は出来なかった。
これは、射程外からの砲撃という事で理解が出来る。
だが、その射程外からの砲撃である筈のエリオ艦隊の砲撃が、総旗艦を直撃していた。
それに、2人は驚いていたのだった。
だが、現実を突き付けられたので、両国の艦隊の力量差が大きい事が2人にもはっきりと分かった。
そして、エリオ艦隊の面々は、撃沈という戦果を上げたにも拘わらず、例によって例の如くだった。
何事もなかったように、次の仕事へと移行していた。
まあ、圧倒的に数的不利な状況、総旗艦を沈めたぐらいで勝ったという訳には行かなかったのも影響しているのだろう。
だが、それにしても、この淡々さは、賞賛に値すると言うより、傍から見ると不気味そのものだった。
2人は頭の中がパンク状態になっていた。
情報担当であり、それなりの修羅場見たいのを見てきた自負があった。
だが、砲撃によってそれらは一瞬にして吹き飛んでしまったかのようだった。
そこに更なる状況変化が起きた。
「おい、あれ!」
グラリッチが、トピーズの袖を右手で掴むと、艦尾方向を左手で指差した。
「……」
トピーズは、何も言わずに、と言うより言われるがままに、グラリッチと同じ方向を見た。
そこには、突然新たな艦隊が出現していた。
頭がパンク状態なのに、矢継ぎ早の状況変化。
2人は全くついていく事が出来ずに、思考を放棄したかのように、呆然とする他なかった。
新たに出現した艦隊は、リンク艦隊だった。
まあ、2人にはそれすら認識が出来ないでいた。
そうこうしている内に、エリオ艦隊の第2撃が放たれた。
それにしても、戦いが始まる前までウジウジしていたのが嘘のように、もう容赦がなかった。
第2撃は、エリオ艦隊に一番近い敵艦を沈めていた。
これにより、ワルデスク艦隊は動きを止められた。
そして、指揮官が不在の中、艦隊の動きに大きな混乱が見られた。
それは、重複波のように、混乱が拡大していくのが、傍から見ても分かった。
それでも、エリオ艦隊は容赦しないようだった。
淡々と、第3撃の準備を行っていた。
それに加えて、リンク艦隊からの砲撃も始まった。
こうなると、もう誰の目から見ても、戦いの帰趨は明らかだった。
圧倒的不利な状況から、一気に圧倒的な有利な状況に転じた場面を見せられている2人は、もう立ち竦むしかなかった。
だが、状況の変化は、これだけでは済まなかった。
ワルデスク艦隊が、急に白旗を揚げたのだった。
「今更、そんな事をしても……」
グラリッチは、気の毒そうにそう呟いた。
ここで、漸く口がきけたと言う事になる。
その隣にいるトピーズも、グラリッチの言葉に同調するかのように、頷いていた。
とは言え、ワルデスク艦隊にとっては、最悪の事態である。
教訓としては、人間、常に冷静に行動せねばならないという事である。
だが、それが出来る人間なぞほぼいない。
サラサに弄ばれた後に、目に付いた弱そうなのに生意気な艦隊。
誰しもカッとなるような場面かと思われる。
願わくば、カッとなった時に、どうしようもない人間に出会さないようにしたいものである。




