その15
そして、フランデブルグ艦隊である。
そこには、エリオと勝るとも劣らない被害者面のフランデブルグ伯がいた。
「閣下、我が方の総旗艦が撃沈されました」
イーグは、焦りながらそう報告してきた。
まあ、当然だろう。
敵は反撃してきたが、圧倒的な数的有利。
こちらが当てられない距離からの砲撃。
どう見てもそうなる状況ではなかったからだ。
1人を除いてだが……。
「!!!」
だが、その1人が、頭を抱えてしまった。
恐れていた事の最悪な状況が起きてしまった為だろう。
「総司令官閣下、侯爵閣下はご無事か?」
サズーは、固まっている指揮官に代わって確認を取った。
「いえ、確認は取れていませんが、脱出できる状況ではなかったとの事です」
イーグは、言いにくそうにそう答えた。
つまり、総旗艦は敵の砲撃により、木っ端微塵になったと言う事である。
「……」
フランデブルグ伯は、言葉も出ずに青くなっていた。
そこに、伝令係が新たな報告をイーグに渡してきた。
「リーラン西方艦隊が、この海域に到着。
間もなく、有効射程圏内に入るとの事です」
イーグは、目の前が真っ暗になる思いをしながらそう報告した。
「……」
フランデブルグ伯は、もう何も話せずに、発狂しそうになっていた。
とは言え、状況が掴めないからではなく、掴みすぎていたからだった。
ワルデスク艦隊は、既に半包囲下に置かれていて、蹂躙されるだけだという予想が立ってしまった。
そうなると、次のターゲットは我が艦隊である。
数的不利でとても勝てる見込みはない。
かと言って、このまま逃げ出す訳にはいかない。
正確に総旗艦を沈めた艦隊に対して、生き延びる術が見つからないと言った結論に達してしまっていた。
「閣下、閣下が最高位です。
全艦隊にご命令を!」
サズーは、危機的状況に陥ったにも拘わらず、直ぐに指揮官に命令を求めた。
あ、まあ、艦隊参謀長としては、当然なのだが、言い回しが絶妙であった。
それは、状況を完全に理解しており、彼の有能さを示していた。
「……?
私が、最高位?」
フランデブルグ伯は、発狂しそうな表情から、一気に生気が戻った表情になった。
伯は、出世が生き甲斐で、ちやほやされるのが好きである。
だから、あの言葉に反応した。
と言いたい所だが、この伯爵はそれ程脳天気な人物ではない。
直ぐに、自分の立場が強化された事を悟り、それを利用する事にした。
こちらもこちらで異常人物である。
「クライセン公に、停戦要請!
味方全艦に、通達。
停戦の意思を示す為に、砲撃を中止、白旗を掲げよ」
フランデブルグ伯は、今生き延びる術を見つけ出し、命令を下した。
「!!!」
イーグは、命令の実行を躊躇った。
当然である。
「総司令官閣下の命令を直ちに実行せよ」
サズーは、その反対に副官に命令を実行するように促した。
「りょ、了解しました」
イーグは、サズーの気迫に押されるように、命令を各所に伝達するよう指示を飛ばした。
「これで何とかなればいいが……」
フランデブルグ伯は、心配そうにワルデスク艦隊を見ていた。
停戦の意思を示した事で、フランデブルグ艦隊は恐らく大丈夫であろう。
たが、交戦中のワルデスク艦隊は、どうなるだろうか?
壊滅させられる好機を逃してくれるのだろうか?
そう考えると、無駄死にしそうな味方に同情せざるを得なかった。
「これ以上、なるべく、無駄な犠牲を出さない為には、今はこれしかないと思います……」
サズーは、伯爵の意を察して、そう言った。
とは言え、サズーも伯爵の意見に完全に賛同した訳ではなかった。
今回の命令は、伯爵自身の保身が先だった事もよく分かっていた。
そして、ここで戦わないのは卑怯だとも思えたからだ。
しかし、これで、犠牲が抑えられるのなら、マシだとも思っていた。
なので、サズーも固唾を呑んで推移を見守っていた。




