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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第3巻  作者: 妄子《もうす》
29.第2次スワン島沖海戦
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その13

「艦隊左舷回頭、敵の頭を抑える」

 フランデブルグ伯は、それでもワルデスク侯の命令通りに艦隊を動かした。


「……」

 サズーは不安げだったが、上からの指示だったので、何も言わなかった。


 イーグは、伯爵の命令を粛々と実行した。


 ……。


 艦隊は、何故か重い沈黙の中、回頭を始めた。


 圧倒的な有利な状況である。


 なのに、神域の近くだからだろうか?


 どうにも、嫌な予感しかしなかった。


「か、艦隊の速度を落とせ!」

 フランデブルグ伯は、エリオ艦隊が視界に入った途端、思わずそう口走ってしまった。


「???」

「???」

 サズーとイーグは、突然の指揮官の言葉に驚いて固まっていた。


(あれは、絶対に手を出してはいけない相手だ!)

 フランデブルグ伯は、自分の言葉を取り繕う事もせずに、そう確信していた。


 とは言え、その言葉だけは、口に出すのは何とか抑えられた。


 フランデブルグ伯の生き甲斐は出世である。


 俗物の固まりみたいな感じではある。


 とは言え、出世しないと生きていけないという立場に置かれる人間も存在する事は確かである。


 伯は、そう人間なのだろうか?


 それは置いておくとして、コネなどないに等しいフランデブルグ伯がここまで順調に出世できたのは、結構凄い事である。


 出世できたの一つの理由そして、敵に回してはいけない人間の見極めに優れていた事が挙げられた。


 年若い時分だと、こういうスキルはクソみたいなものと感じる場合がある。


 だけど、その人の能力とか関係なく、絶対に勝てない相手というものは存在する。


 そういった人を敵に回すという事は、あまり良い結果にならないというのが常である。


 今回、フランデブルグ伯がエリオに感じたのは、そういった類いのものである。


 いや、もっと始末が悪いと感じていた。


 どんな状況でも、力では全く歯が立たないと感じたのだった。


 それだけの力量差を一瞬にして感じてしまった。


 こうなった伯爵が取る態度は、一も二もなく、完全に決まっていた。


 対戦を絶対に避けるという事である。


「ワルデスク侯に、停戦の進言を!」

 フランデブルグ伯は、そう決断した。


「!!!」

「!!!」

 サズーとイーグはびっくりして尚かつ絶句していた。


 現状、圧倒的な有利な状況。


 嫌な予感はするものの、その進言が通るとは全く思えなかった。


「閣下、我が方は敵の約12倍ですが……」

 サズーは、伯爵に確認を取った。


「だからどうしたというのだ。

 敵の西方艦隊が加われば、そんなもの直ぐに吹っ飛ぶ!」

 フランデブルグ伯は、焦っているようだった。


「そうなった場合でも、数的有利ですが……」

 サズーは、フランデブルグ伯の言いたい事をちゃんと把握しているようである。


 しかし、再度、確認を取ってきた。


「そんな微妙な数的有利なぞ、今の力量差を見れば、全くないのは分かるだろう!」

 フランデブルグ伯は、珍しく怒鳴り声を上げていた。


 それ程、切羽詰まっているのだろう。


「確かにそうですが、総司令官閣下が進言を受け入れるでしょうか?」

 サズーは、確認に確認を重ねた結果、伯爵には賛同していた。


 だが、肝心な点を指摘しない訳にはいかなかった。


 そして、この進言により、伯爵の立場が危うくなる事も示唆したのだった。


「そうだな……」

 フランデブルグ伯は、力なくそう言った。


 と同時に、サズーの有能さを噛み締めていた。


「では、閣下、我が艦隊の移動速度を落とすだけに留めますか?」

 サズーは、自分の意見に同意したものと見なして、先の命令の実行性を尋ねた。


「そうだな、そうしてくれ」

 フランデブルグ伯は、溜息交じりにそう言った。


 完全に諦めたようだった。


 サズーは、伯爵の言葉を聞くと、イーグに目配せした。


 イーグは、敬礼して直ちに命令を実行させるべく動いた。


(そうにしても、クライセン公というのはどういった人物なんだ?

 あんなプレッシャーは、ルディラン侯にも感じなかった。

 『漆黒の闇』とはよく言ったものだ……)

 フランデブルグ伯は艦隊の士気に関わるので、口には出さなかったが、心の中で愚痴っていた。


 ま、感心ではなく、愚痴っていた所が伯の人物像をよく表すものであろう。


 と同時に、生き残るタイミングを見誤らないように気を配る事にした。


 フランデブルグ伯がそういった一連の思考を行った後、エリオ艦隊は進路を急激に変えたのだった。


 エリオ艦隊が本気になったのは、遠くから見ても感じられた瞬間だった。


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