その11
「シーサク艦隊、前進・砲撃共に止めません」
シャルスは、真面目な表情でそう報告した。
そうしないといけなかったからだ。
「……」
エリオは例によって例の如く、唖然として口をあんぐり開けていた。
事態が理解できていないのは明らかだった。
「閣下が煽るからこうなったのですよ」
マイルスターは、和やかに状況を説明した。
「……」
エリオは更に理解できないと言った感じだった。
そして、一方的な被害者のような表情になった。
「停船勧告に、従わない場合は砲撃するなんて言うからですよ」
マイルスターは、呆れながらいつも通り和やかに更に説明をした。
「???」
エリオは、これ以上まだ当惑できるのかという表情になった。
「……」
そのエリオに対して、マイルスターが呆れて絶句してしまった。
これだけ説明しても、事態が理解できていないからだ。
でも、よく考えてほしい。
エリオのやった事は悪手だったのだろうか?
いや、いきなり砲撃戦を始めるのではなく、きちんと手順に則って、勧告している。
それの何処が間違っているのだろうか?
しかし、まあ、こう言う事は、世の中でよくある事である。
後に、シャルスは、エリオが真面目に仕事をすると、何故か面倒事が湧き上がってくる事を指摘する事になる。
まあ、未来の事は置いておいて、今である。
エリオの勧告は、全て相手の神経を逆撫でするものであった。
その事をもっと自覚すべきだと思うが、まあ、無理だろう。
何かやっちゃいました?系は始末に悪いと思うだろう。
だが、本当に、エリオの始末の悪い事は、これからである。
理解できないが、こう言う事も有り得る事は第3次アラリオン海戦で学んでいる。
なので、こう言った事について、理解は出来ないが想定はしていた。
つまり、この状況を逆手に取る準備はしていた。
これは、本当に始末の悪い。
そう、あんぐりしながら敵の行動を正確に把握しているのだった。
「閣下、そろそろ決断を下してください。
間もなく、敵の有効射程圏内の入ると思われます」
シャルスは、本当に真面目な表情を保ちながらそう進言してきた。
「う~ん、あんまり気が進まないけどね……」
エリオは、頭を掻きながらそう言った。
敵とは言え、こんな意味のない戦いで死なすのは忍びなかった。
これは、かなり奢った感情だ。
ただ、このまま自分がやられる訳にも行かないので、その辺を割り切らなくてはならなかった。
……。
しばらく、沈黙が流れた。
シャルスやマイルスターだけではなく、誰もがエリオの命令を待った。
ドッカン!バッシャ~ン!!
シャルスの進言通り、艦隊の近くに砲撃が及んできた。
「……」
それでも、エリオは無言だった。
だが、視線を机上の地図に移した。
「敵旗艦は、この位置にあります」
シャルスは、地図を指差しながらそう言った。
敵艦隊の後方中央に、ワルデスク侯が乗っている旗艦があった。
こちらからの反撃がないせいか、敵は嵩に掛かって突っ込んできていた。
「全艦、取り舵一杯!
敵艦隊の左側面を逆進!
敵の指揮系統を圧迫するぞ」
エリオは、ついに命令を下した。
命令を受けると、エリオ艦隊は、一気に左舷回頭した。