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その18

 もう片方の方の、ワルデスク艦隊である。


 現状、彼らが中心地点にいる。


「攻勢を緩めるな!敵は怯んでいる!逃すな!」

 ジル・ワルデスク伯爵は、艦隊全体を叱咤していた。


 ドッカーン!ドッカーン!


 叱咤する度に、砲撃音が鳴り響いていた。


 だが、水兵の方には戸惑いがあるのかも知れない。


 手応えが全くないのだ。


 なので、叱咤されると義務のように撃ちまくるのだが、手応えがないので、撃っていいものかという疑念が湧いてくる。


 どうも上手く噛み合っていない。


「父上、敵は怯んでいます!

 このまま、一気に押し切りましょう!」

 伯爵は、ギラギラとした目でそう断言していた。


 砲撃の度に、サラサ艦隊は陣形を乱し、逃げ惑っていた。


 接触した際の綺麗な陣形は既になく、無残な陣形へと変わっていた。


 そして、大した抵抗もない。


 完全に、逃げに徹していた。


 サラサ艦隊にしてみれば、戦略上、逃げるのは正しい。


 だが、戦術上、この無秩序さはどうなのだろうか?


「敵、旗艦の位置は?」

 ワルデスク侯の方も息子同様の態度かというと、そうではなかった。


 極めて冷静に、副官のスライスに聞いてきていた。


「はっ、敵艦隊の先頭、我が艦隊から一番遠い位置にあります」

 スライスは、侯爵の質問に直ぐに答えた。


 有能である。


「うむ」

 侯爵の方は、そう答えただけだった。


 大したやり取りでは内容に見えるが、侯爵は今回の戦略目標を見誤っていない証左である。


 今回は、サラサ艦隊に勝つ事ではなく、サラサを捕らえる、或いは、殺害するのが目的である。


 なので、サラサの旗艦の位置は重要であった。


「部下を犠牲にして、自分だけ助かる気でしょうか?」

 伯爵は、憤慨していた。


 とは言え、サラサはそんな事をするだろうか?


 しないとは言い切れない。


 必要とあれば、結構躊躇なくやるような人物である事は間違いない。


 と言うより、部下の方が、積極的にそうやる事は間違いがないだろう。


 それ故に、サラサ艦隊が強力なのである。


「仮にそうだとしたら、厄介な事になる……」

 侯爵は、息子の質問にそう答えていた。


 現状、サラサの下に到達するためには、周りの艦をすべて排除しなくてはならない。


 そう考えると、暗澹たる思いに駆られるのだった。


「そうでしたら、何たる卑怯者か!

 どうして、堂々と撃ち合わないのか!」

 伯爵は、更に憤慨した。


「……」

 スライスは、2人のやり取りを見て、呆然としていた。


 特に、伯爵にだ。


 こちらの目標がはっきりしている以上、こういった戦術を取るのは悪くはない。


 それに、向こうにしてみれば、どうして堂々と撃ち合う必要があるのだろうか?


 そんな必要は全くないのだ。


 その辺の事を弁えているスライスにとっては、不安しか感じられなかった。


 とは言え、昔のサラサだったら、堂々と撃ち合っていたかも知れない。


 これは、バンデリックの談話である。


 まあ、話を戻すと、そう考えているので、サラサ艦隊に目を向けると、更に不安になってきた。


「閣下、意見の具申、よろしいでしょうか?」

 スライスは、意を決したようにそう尋ねた。


「うん、何かね?」

 侯爵は、直ぐにそれを受け入れた。


 13貴族という高い地位にいる人物だが、部下の意見を無視するほど狭量ではないようだ。


 と言うか、まあ、高い地位にいるからと言って、誰もが狭量ではないのは確かだ。


「敵艦の動きが妙です。

 ここは慎重に行った方がいいのでは?」

 スライスは、そう進言した。


 やむにやまれずと言った感じなのだが、具体的な懸念ではなかった。


「ふん!」

と伯爵は一笑し、

「砲撃を緩めるな!」

と再び叱咤した。


 ドッカーン!ドッカーン!


 砲撃は、叱咤と共に再び激しくなった。


 それに伴い、サラサ艦隊の陣形が再び乱れた。


 まるで、サラサ艦隊の旗艦への道が出来ていくようだった。


「確かに妙だが、それは我が艦隊の攻撃に押されているからではないか!」

 伯爵は、軽蔑したようにそう言った。


 その軽蔑は、サラサ艦隊だけではなく、スライスにも向けられていた。


 スライスは、貴族ではなかった。


 前国王が創設した士官学校出身者だった。


 サズーやイーグもそうだった。


 艦隊創設と共に、士官学校出身者が多く採用されていた。


 因みに、艦隊創設は、ここ20年ぐらいの話である。


 そして、それは、前国王の意向だが、貴族の中にはあまりいい風潮とは捕らえない人間も少なくなかった。


 伯爵の反応は、そう言う事なのだろう。


「副官の懸念は分かるが、目の前の光景を見ると、伯の言うとおりだと思う」

 侯爵は、年長らしく公平性を持って判断を下した。


 侯爵の方はスライスに対して、特別な感情を持っているという訳ではなさそうだ。


 きちんと意見は聞いてはくれている。


「畏まりました」

 スライスは、言い知れぬ不安を抱えながら従う他なかった。


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