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その9

「閣下、総司令官閣下からの通達です。

 『当初の作戦を決行せよ』

 以上です」

 副官のイーグが、フランデブルグ伯にそう報告した。


「……」

 フランデブルグ伯は、もの凄い嫌な表情に変わった。


 眉間のしわが、更にしわになった。


 お気楽そうな言動をする割に、貴族のしがらみをもろに受けてきた人生だった。


 それが、しわに現れていた。


 ワタトラ攻防戦で、オーマとサラサと対等に渡り合った人物である。


 あ、対等かどうかは議論がある所か……。


 とは言え、状況を利用して、上手く立ち回った事には変わりなかった。


 なので、エリオなどは、海戦報告を読んで、大いに評価していた。


 そういう人物なので、この作戦が意味あるものとは思えなかった。


 立場上、出撃せよと言われたので、こうして出撃してきた。


 だが、気合い入れて作戦に臨む気には全くなれなかった。


 とにかく、相手が悪すぎる。


 前回は、時間差があったので、渡り合えたが、今回は下手したら正面衝突である。


(下手だろうが、何だろうが、ルディラン侯とワタトラ伯は、まともに戦ってはこまい。

 彼らの第一目標は、本国に帰還する事なのだから……)

 フランデブルグ伯は、現状を整理していた。


 だからと言って、不安がない訳ではない。


(何せ、向こうが本気にならないという保証はないからな……)

 フランデブルグ伯は、どうしてもネガティブ思考に陥ってしまう。


 だが、ある意味これは彼の持ち味だった。


 こうした思考の持ち主だからこそ、国内の権力闘争から生き残り、今の地位を築いてきていた。


(しかし、出世しすぎたのかも知れない……)

 フランデブルグ伯は、珍しくそう考えた。


 出世するのは大好きだ。


 だが、自分の存在を脅かされるのは、大嫌いだった。


 今回の上司は、13貴族である。


 面子を何より重んじる連中である。


(黙っていれば、面子云々の話はならなかったのに、何故ワタトラ伯に拘るのだろうか?

 外交特使は、密使として送るのもあるのだから、拘束に失敗した時点で知らん顔をしていればいいのでは?

 あちらさんだって、表沙汰にはするメリットはないのだから)

 フランデブルグ伯は、今度は腹立たしく思った。


 とは言え、今の所、どうしようもないのが現状である。


「閣下……」

 艦隊参謀長であるサズーが、何とも言えない表情で声を掛けてきた。


 長い間、百面相していた司令官に対して、どう接すればいいのか分からなかったからだ。


 とは言え、碌でもない事を考えている事は伝わってきていた。


 まあ、それはともかくとして、参謀長としては、どう動くべきかの裁断を促さなくてはならなかった。


「……」

 フランデブルグ伯は、サズーを見た。


 いや、睨み付けた。


 サズーにとっては、いい迷惑ではあるが、それでガス抜きになるのなら、いいかとサズー自身は思う事にした。


「で、如何なさいますか?」

 サズーは、伯に決断を促した。


 まあ、答えは決まっているのだが、司令官が命令してくれないと、始まらない。


「作戦通り、艦隊を東進。

 スワン島沖での海戦を避けるために、バルディオン艦隊との距離を十分に取るように」

 フランデブルグ伯は、断腸の思いで命令を下した。


(最初の一撃を加えるは我が艦隊としても、スワン島沖での戦いは避けなくては。

 国賊にされるだけではなく、世界中を敵に回すかも知れない)

 命令は下したものの、やはり、慎重姿勢を崩さないフランデブルグ伯がそこにいた。


 正確は兎も角、きちんと状況判断は出来るようである。


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